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9話

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 ふむふむ。主な内容はこの二つね。
 一つは金銭の継続的な支援。最初にどかっとお金を渡した後も、必要に応じて金銭の提供を行う。その必要な状況ってのは新規事業の展開が主みたい。
 もう一つは経営権の一部委譲。新規事業の展開や、仕入れの監修など色々な事を請け負うみたい。

 他にも色々あるけれど、正直よく分からない。

 お金をやる代わりにルヴェール商会名義で、オリヴィア様の名前を出さずに商売をさせろってことなのかしら。

 一応利益の一部を給料として受け取れるようになっているみたいだけど、支援額以上に帰ってくることは無さそうに見えるわ。

 単にこの商会を大きくするために利益度外視で手を貸す契約みたい。

 まあ将来的に国を支配するって考えると妥当な投資なのかもね。

「問題なさそうね。サインさせてもらうわ」

 私は予定通りにサインを書いた。一応オリヴィア様を意識した書き方はしているけど、筆跡鑑定にかけたらかなり違うと思う。まあ大丈夫よね。

 サインを終えると、突如として契約書が光った。その後4つに分裂し、その内の2つは私とジルベルトの体の中に入った。

 これって魔法的な紙だったのね。

「では、こちらをどうぞ」

 そしてジルベルトから、体内に入らなかった方の1枚を渡された。

「ありがとう」

「これで私どももより大きくなれると思います。今回は本当にありがとうございました」

「構わないわ。こちらにも益があるのだもの。帰るわよ、エドワード」

「はい」

 私はエドワードを従えて商会の外へ出た。

「では帰りましょう」

「そうですね」

 一仕事済ませて疲れたわ。エドワードが居るからいざという時は守ってくれるとはいえ、あんなに怖い人たちに囲まれてクールに過ごすのは難易度が高かったわ。

「そういえば体の中に契約書が入っていたけど、大丈夫なの?」

 後で呪われたりとかしないかしら。

「はい。アレはお互いに契約に反した行動を取れなくするだけの物ですので」

 ちゃんと駄目な気がするのだけれど、合意の上の契約だし大丈夫よね。

「そうなんだ。じゃあ私は金を払わないって選択は出来ないのね」

「はい。金ならオリヴィア様が独自で稼いだものがいくらでもありますので。契約が出来なくなって強制的に労働をさせられるなんて事態は起こり得ません」

「流石オリヴィア様、用意周到ね」

 何をして稼いだのか分からないけど、オリヴィア様ならそれくらいは余裕そう。

「ちなみにですが、その契約書程度の内容ならオリヴィア様の力を上手く使いこなせれば強引に破棄することも出来ますよ」

「え」

 オリヴィア様すご……

「勿論しないで頂きたいですがね」

「私はやり方分からないから無理よ」

 それにオリヴィア様の願いが叶えられなくなるからやりたくない。


 まあ何がともあれ、オリヴィア様からの直々の依頼を一つ無事に成し遂げることが出来たわ。


 それからしばらくは真っ当に学生生活を歩んでいた。学校では真面目に学業に励み、放課後は女生徒たちとお茶会などで交友関係を広げた。

 お陰で何十人もの生徒との繋がりを持つことが出来たわ。

 商会との取引についてはエドワードがやってくれるからすることも無いしね。

 そもそも何も分からないし。ゲームにはこの世界の市場とか売れ行きとかはほんの一部しか出ないもの。

 というわけで今日も楽しく日々を過ごしましょう。

「オリヴィア、ちょっと良いか?」

 前言撤回、今日は楽しくない日のようね。

「なんでしょう、デヴィッド様」

 顔も見たくないんだけれど。

「放課後、お茶でもしないか?」

 どうやらデートのお誘いらしい。何か話したいことでもあるのかしら。

 ちなみに学園の近くに王宮があるのにそこでお茶をしない理由は、王族は学園に在籍している間は王宮に入れないようになっているから。

 というのも全ての生徒は対等であるという学園のルールがあるからだ。

 対等だと言っているのに毎日王宮で過ごしていたら否が応でも王の権力を感じざるを得ないから。

 まあ、そもそも対等になるわけなんてないんだけど。

 学内で嫌われたら絶対学外での生活が終わっちゃうものね。

 っと現実逃避はそこまでにしておいて、とりあえず返事位はしておかないとね。

「今日は忙しいので、ごめんなさい」

 お茶会は明日だし、オリヴィア様からのミッションも無いので実は暇なんだけど。だって裏切り者とは関わりたくないもの。

「今日はお茶会も無くて暇だって聞いているが?」

 何で知っているのよ。誰かから聞きやがったな。

「はあ……仕方ないですね」

 誰が話したか聞きたいけど、絶対にその子は悪くないから耳に入れない方が良いかな。

 絶対恨むに決まっているし。

 この国の王子の言うことに逆らえなかっただけで好感度が下がってしまうのはあまりにも申し訳なさすぎるもの。

「では、放課後、校門前にある噴水の前で」

「分かりました」



「はあ……どうしても行かないといけないのかしら」

 放課後にいつもの三人と分かれた後、一人ため息をついた。

 まあ行かなきゃ色々と面倒なことになるのは確実なのよね……

 下手したら安息の地である教室にまで入ってこられかねない。

 諦めた私は覚悟を決め、約束の地へ向かった。

「おお、来てくれたか」

 わざと遅れて向かったので当然デヴィッドは先に待っていた。ちなみに居なかったらそのまま帰るつもりだった。残念。

「約束はちゃんと守りますよ」

 婚姻という人生の契約を破棄したあなたとは違って。

「そうか。では行こうか」

「はい」

 私はデヴィッドに連れられ、カフェへ向かう。

 デヴィッドは手を繋ぐことを所望したが、適当な理由をつけて却下した。誰が恋人みたいな真似をあなたとするもんですか。

「予約していたデヴィッドだ」

「はい、どうぞこちらへ」

 店員に案内された個室はカフェというより貴族の応接室といった感じだった。

 多分この店は貴族が良く使うのだろうし、こちらの方が都合が良いのかもね。

 席についてから少しして、紅茶とお菓子が届いたので話し始めることに。

「久しぶりに話すな。入学式以来だな」

「そうですね」

 もう学校が始まってから一月以上は経っていた。私も学校に慣れ、日々の生活に余裕が出来てきた頃だ。

「そちらのクラスはどうだ?」

 手始めとしてそんなことを聞いてきた。

「そうですね、非常によくやっている方だと思います。ここ最近までいざこざが起こったことはありませんし、身分による差別も無いですしね」

 一番高い所に私という圧倒的強者が居るのもあるが、侯爵家の子の性格が良かったのが一番影響していると思う。

 特に分かりやすいのはフランチェスカとクリストフ・ダディ。

 フランチェスカは言わずもがなとして、意外だったのはクリストフ・ダディだ。

 かなりのナルシストだったから身分差には厳しいのかと思いきや、どの身分の子に対しても平等に接するナイスガイだったのだ。ナルシストだけど。

 彼は私に対しても対等に接しているおかげで、身分が違っても対等に過ごして良いんだという雰囲気を形成してくれていた。

 この一月で180度評価が変わった子の一人である。

「それは良かった。ちなみにだが、クラスの中に優秀な子は居たか?」
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