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55話

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「お前…自分が馬鹿なことを言っている自覚あるよな?」


そんなことわかりきっている

もしこれで私だけが捕まってしまったらシャレにならない

だけど、会いに行かなきゃいけない人がいる

あってその人に話さないといけないことがあるんだ。


「私は大丈夫

だってツキカゲの契約者だもん」


ドラゴン完全体になったツキカゲの頭を撫でて抱きしめる

大丈夫、私はの心臓はまだ動いているんだと教えるために胸を彼の耳に当てるんだ。


「また会えたらこの心臓の音を聞かせるから…!」

「……絶対にこの国から逃げるんだぞ」


わかっているわよ

だから次の旅先でまた会おう


「さあ行って…!」


真彩さんを背中に乗せた黒いドラゴンは夜に溶け込んで姿を消した。

私にはまだやることがある

それはこの国を潰すとかそんなことじゃない


「スキル竜使いドラゴンマスター

半竜化!」


前かがみになって背中に力を入れるとそこからは魔力でできた竜の翼があった。

体の所々が皮膚から鱗に変換されており半竜の姿になった

星一つない暗い夜空に自身の体を投げ出せば重力に従って地面に吸い込まれていく

大丈夫、私は落ちない

なんのためにこの翼があると思ってるんだ


自分の意思でその翼を大きく広げると力強く羽ばたかせそれを繰り返す

羽ばたきを繰り返せば近づいていたはずの地面からどんどん離れていって逆に暗い夜空に近づいていく


「やっぱり自分の力で空を飛ぶのは気持ちがいいわね…っとそんなことを言ってる場合じゃないよね」


空中を蹴り更に翼に力を入れてまっすぐ向かうんだ

確認しないといけないことがあるんだ




きっともう…会えなくなるから























静かだ

せっかく書類整理が終わって寝付けると思っていたのだが…

こんなに静かだとなにかとんでもないことが起きてしまうのではないかと考えてしまう

本当に心臓に悪い


「はぁ…この体に無理はできない

紅茶でも飲んでさっさと寝てしまおう」


ため息をついて椅子から立ち上がると棚に近づきティーポットとカップ、そしてとっておきの茶葉を取り出した。

最近は魔法で生成した水を使って紅茶を淹れるのが私のマイブームというもの

今まで井戸の水で紅茶を淹れていたが、魔力を消費して水を生み出し紅茶を淹れるのも悪くないと思うようになってきた。

私の場合ちょっと魔力が消費されたところで痛くも痒くもないのだから

ティーカップに注がれた紅茶を一口飲んでクッキーを一枚口に入れる…なんて贅沢であり罪悪感あるひと時だろうか。


「ふぅ…

どこに行っても紅茶の味というのは変わらないものだな」

「本当だな…初めてあなたと飲んだ茶も私がいつも飲んでる茶も大して変わらない

淹れ方次第で茶の味というのは変わってしまうのですよ」


本当に茶は奥深い

私の中にある探究心が消えない限り、私の心はまだまだ若いみたいだ。











「………って誰だ!?

ゴホ…ゴホッ!」


口に含んだ紅茶を吹き出しそうになったのを何とかこらえて飲み込むと咳き込みながら声の聞こえた方を睨んだ。


「こんばんは~

数日ぶりですねトルマーさん」


窓の縁に腰掛けてヒラヒラと手を振る彼女の姿は言ってしまえば異常だった。


ランプの淡い灯りに照らされてあらわになる竜の鱗

背中から生える竜の羽

元の彼女にはなかった長く鋭い牙が口からはみ出ている

だけど体内から感じるこの魔力は間違いなくあの子のものだ。


「君は…カナだよね?」

「はい!

私は山下加奈です!」


にっこりと笑って私の目の前に立つと姿勢を正して挨拶をしてきた彼女

ああそうだ…カナはこうやって笑っていたな

すんなりと目の前にいるのは私の知っている彼女だと受け入れると私は無意識に手招きをしていつの間にか淹れていた紅茶を差し出していた。


「美味しい…落ち着きますね」


受け取った茶に毒が入っているのか否かなんて気にすることなくゆっくりと味わっている少女の笑顔は、誰もが幸せになるようなそんな気がしてならない


「それにしても…なぜカナはこんな時間にそんな姿で?」


彼女が落ち着いた頃合いを見て…と言うよりも自分が落ち着くのをまってようやくなぜここに来たのかを質問したんだ

すると彼女は目をぱっちりと開けてそうだった…と何かを思い出したように呟いてまだ少しだけ紅茶が残ったカップをテーブルに置いた。


「そうだった…

私、今からこの国を出ていくんですよ!」


全く理解できなかった


「はぁ!?

なんでそんなことを……!」


なぜそんなことをしたんだ

そう聞こうとした時、私は先日カナとツキカゲくんと一緒に話した時のことを思い出した。

あの時2人が楽しそうに話していた内容は全く楽しい内容ではなかったことを



「まさか…君達は本当に聖女様に会いに行って来たというのかい!?」

「声が大きいですよ…はい、会いに行きました。

ついでに言うと私達、彼女を誘拐しました」


一瞬だけ…その言葉の意味が理解できなかった

聖女様を連れ去ってしまった?

驚いたしカナの発言には呆れてしまった



……私も随分とこの国に毒されたものだな



「まあいい…やってしまったのなら仕方ないからな」

「わお…肝が据わっていますね」


それはこっちのセリフだ

こんな大帝国の聖女を連れ去ったのだから堂々としているというかなんというか…


「大体…聖女を拐ったのだってなにか理由があるのだろ

一体何があったんだ?」


その瞬間、彼女の顔から笑顔が消え失せた

きっとあの笑顔は貼り付けたものであり本当の笑顔ではない

貼り付けた仮面の下にあったものは怒りや憎悪、他にも虚しさなどが入り混じってどす黒いものしか見えない

余程のことがなければ人間というのはここまでの感情を見せることは無いはずだ。


「……話してくれるかい?」

「簡潔に…できるだけわかりやすく説明します」


さあ聞かせてくれ…未来の子よ
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