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遠野さんの独白1

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 僕は社会人になる前、V系のバンドでヴォーカルをやっていました。V系というのはビジュアル系のことで、有名どころではX JAPANやLUNA SEAのようにメイクをしてやるバンドのことですね。

 僕は本気で彼らのようになりたくて、毎日音楽に命を懸けていました。

 暇さえあれば練習していたし、移動中でも曲を研究しているか書いているレベルで、日常生活の全てが音楽になっていました。

 破天荒な人というか、ただ豪快なだけの人もたくさんいたんですけど、僕は酒も飲まず、女の子とも遊ばずに自分がどこまで行けるのかをただ追及していました。

 活動時の名前はRAYでした。これは僕の本名が零であるのと、太陽の光を意味するrayをかけたものです。

 僕達のバンド、Magical Rayはインディーズですぐに頭角を現しました。なにせ全員がストイックで才能の塊みたいな奴らでしたから。

 インディーズでありながら、音源を出せばすぐにチャート・イン。大した儲けにはなりませんでしたが、将来のVロックを担う新気鋭なんて言われていたこともありました。

 そんな状態なので、当時は桁違いにモテました。ファンからは何万回も「愛している」って言われたし、あわよくば一夜の恋人になろうとする女性が後を絶ちませんでした。

 ただ、僕には誰にも言っていないことが一つありました。

 おそらくハーレムを作れるレベルにまでモテまくっていた僕には、女性経験がありませんでした。

 というのも、僕がストイック過ぎて「女になんかかまけていられない」と創作活動に人生の全てを注ぎ込んでいたせいです。

 当時の僕は、付き合っている人に創作時間を削られることが耐えられませんでした。それだけ自分のやっていることに夢中だったというか、自分の世界に部外者を介入させたくなかったというのがあります。

 ええ、まあ、引きますよね。そうだろうと思いますよ。ただ、当時の僕はただ本気だったんです。自分が遊んでいる間に他のもっと才能のある人が練習していると思うと、もう気が狂いそうになりました。今考えたら、そんな風になっている時点で才能なんて無かったんでしょうけどね。

 そんなわけで、メンバーですら引くほどストイックだった僕は、女性と触れ合う機会を失ったまま年齢を重ねていきました。

 今考えたら、まあ不思議な光景でしょうね。恋愛経験が無いにも関わらず、愛だ恋だの歌っているんですから。まあ、これもある程度はテンプレート的というか、表現方法が決まっているんですよね。V系の歌詞独自の文脈というか、これを言えば伝わるみたいなのがあるんです。

 ただ、創作物は才能のあるメンバーが全力を注いで作っているので、我ながら素晴らしいものができたと思っています。現に僕の歌で多くの人々が感動しては拳を振り上げ、ヘッドバンギングで髪を振り乱し、涙すら流すんですから。それは誰にでもできる芸当ではないと思います。

 話は逸れましたけど、全力で走り抜けてきたこともあり、我らMagical Rayはあと少しでメジャーデビューというところまで来ました。バンドマンにとってメジャーデビューは夢の一つです。

 メジャー行きの前に有名なライブハウスでの公演が決まっていました。キャパシティが千人を超える、大きなライブハウスです。この公演でメジャーデビューが発表される予定でした。

 僕たちはものすごくワクワクしていました。とうとう今まで重ねてきた努力が実って、より多くの人を熱狂させられる時が来るのだ――バンドをやっている人で、この状況に興奮しない人なんて絶対にいません。

 だから僕たちは輪をかけて練習しました。記念すべき日に、最高の音を届けられるように。メンバーの一人一人がそう思っていたはずです。

 ですが、が起こりました。

 今でもあれさえなければ、僕は違う人生を歩んでいたのではないかと思います。
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