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お勉強()
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それからしばらくは忙しい日々が続き、あんまり遊んでいる場合でもなくなっていた。
いや、本気で遊ぼうと思えばできるんだろうけど、そもそもそんなバイタリティがあればわたしはとっくに幸せを掴んでいる。
遠野さんも忙しいのか、事務所に顔を見せても軽く挨拶だけして用件を済ませに行ってしまう。無駄口を叩けなくなったわたし達にとっては残念な状況だ。
あれから考え事をすることも多くなった。
もしこのまま遠野さんとの仲が深まった場合、木下さんの妄想に留まっていたシチュエーションが実際に起こる可能性がでてくる。……というかわたしはそれを期待している。
ロキ君との事件が脳裏によぎる。あの時を思い出すと複雑な心境だ。せめてやることをやってからクビになっても良かったのかなと思う。
お陰でわたしはセックスどころか、ペッティングですら経験が無い。濡れたことはあるけど、それは自分でいたした結果だ。
遠野さんは今まで何人の女性を相手にしているのだろう。あんまり考えたくないけど、あのイケメンが数人レベルのお相手しか経験が無いとは思えない。
そして片や恋愛のベテランである遠野さんと、見た目はともかく中身はクソザコアラサー女のわたしがベッドで一戦を交えたとしたら……。その先は怖くて想像したくない。
世の中にはセックスレスで別れる恋人や夫婦もいると聞くし、ある年齢まではブランドであった(願望)わたしの処女というステータスは、今この時期に来て重い足かせになっている。
遠野さんの方が若いし、わたしが処女だって知られたらどうなるのか。想像すれば想像するほどおかしくなりそうになる。
どうしよう。ヘタ過ぎて引かれたら。そんな理由でフられたら、わたしはきっと毎日死にたいと思って生きていくに違いない。それは嫌だ。
どうしよう、どうしよう……。
その時、わたしに天啓が降ってきた。
そうだ! 勉強すればいいんだ!
努力家のわたしは、ごく当然の結論に辿り着いた。
現代にはネットがあり、スマホでもパソコンでもそういう情報や動画はみ放題だ。
そういうわけで、わたしは家のノートパソコンで「初めてのセックス 女性向け」といったキーワードを検索して、本番で恥をかかないための知識を付けていくことにした。
検索をすると女医さんや婦人科のホームページが出てきたりして、真面目な視点から初めてのセックスをどう済ませるかを学ぶことをできた。現時点では机上の空論とはいえ、何も知らないよりは遥かにいい。
ネットの「勉強」はなかなか楽しかった。まるで大人になってから保健体育を学び直しているようで、不思議な感慨があった。
でも、やがて「文字だけ見てもよく分からないかも」っていう気分になってきた。
そうなると、その解決策は一つしかない。
「動画でも見てみる?」
あえて声に出して、もう一人の自分に訊く。
文字だけの学習では限界がある。わたしは検索サイトでそれ系の動画を探してみた。すぐに日本で一番有名なサイトが出てきたので、ここなら大丈夫だろうとページを開いた。
左側のメニューに「サンプル動画」とあったので、それをクリックする。すぐに無料で観られる動画のサムネイルがいくつも出てきた。
「ん、これが……」
思わず食い入って見てしまう。地下アイドル時代は、変な知識を付けないよう、あえてこういう情報は遮断していた。三十路を迎えた今、その措置は大いに支障をもたらしているんだけど、わたしだって初体験の勉強を成人向けのサイトでするなんて思わなかった。
サンプル動画から、参考になりそうなやつを探す。「素人モニタリング」なる企画があったので、それのサンプルを再生してみる。
すると、呑み会の帰りのサラリーマンとOLの友人同士がスタッフに声をかけられて、キスから始まってだんだんと過激なチャレンジをしていく。(という設定)
より過激なことをやればもらえるお金も増えていくので、二人は「えー?」とは言いながらもまんざらでもない顔。キスの下に並んだ単語は……ごめん。わたしの口からは言えない。
サンプル動画はざっくりと内容を紹介するものだから、展開は巻き気味で「それ」のシーンが唐突に出てくる。
「あん♡あん♡あん♡♡♡」
室内に響く嬌声。わたしは思わず口を覆う。
モザイクはかかっているけど、明らかに男性のそれが、女優さんの中へと入っているのが分かった。
「これが……」
三十を過ぎてエロ動画に圧倒されるわたし。あえて触れてこなかった世界だけに、とてつもなく背徳的な光景に見えた。
でも、思わず見てしまう。そして、考えてしまう。
……もし、わたしと遠野さんだったら、と。
正直な話、わたしだったら賞金が無くても最後までチャレンジしたい。だって、それだけ……。
動画を観ながら、下腹部を指でやんわりと触る。とりたてて刺激もしていないのに、じっとりと湿っているのが自分でも分かった。
気付けば「勉強」だったはずの動画の鑑賞は、ただのエロ動画の閲覧になっていた。
いや、本気で遊ぼうと思えばできるんだろうけど、そもそもそんなバイタリティがあればわたしはとっくに幸せを掴んでいる。
遠野さんも忙しいのか、事務所に顔を見せても軽く挨拶だけして用件を済ませに行ってしまう。無駄口を叩けなくなったわたし達にとっては残念な状況だ。
あれから考え事をすることも多くなった。
もしこのまま遠野さんとの仲が深まった場合、木下さんの妄想に留まっていたシチュエーションが実際に起こる可能性がでてくる。……というかわたしはそれを期待している。
ロキ君との事件が脳裏によぎる。あの時を思い出すと複雑な心境だ。せめてやることをやってからクビになっても良かったのかなと思う。
お陰でわたしはセックスどころか、ペッティングですら経験が無い。濡れたことはあるけど、それは自分でいたした結果だ。
遠野さんは今まで何人の女性を相手にしているのだろう。あんまり考えたくないけど、あのイケメンが数人レベルのお相手しか経験が無いとは思えない。
そして片や恋愛のベテランである遠野さんと、見た目はともかく中身はクソザコアラサー女のわたしがベッドで一戦を交えたとしたら……。その先は怖くて想像したくない。
世の中にはセックスレスで別れる恋人や夫婦もいると聞くし、ある年齢まではブランドであった(願望)わたしの処女というステータスは、今この時期に来て重い足かせになっている。
遠野さんの方が若いし、わたしが処女だって知られたらどうなるのか。想像すれば想像するほどおかしくなりそうになる。
どうしよう。ヘタ過ぎて引かれたら。そんな理由でフられたら、わたしはきっと毎日死にたいと思って生きていくに違いない。それは嫌だ。
どうしよう、どうしよう……。
その時、わたしに天啓が降ってきた。
そうだ! 勉強すればいいんだ!
努力家のわたしは、ごく当然の結論に辿り着いた。
現代にはネットがあり、スマホでもパソコンでもそういう情報や動画はみ放題だ。
そういうわけで、わたしは家のノートパソコンで「初めてのセックス 女性向け」といったキーワードを検索して、本番で恥をかかないための知識を付けていくことにした。
検索をすると女医さんや婦人科のホームページが出てきたりして、真面目な視点から初めてのセックスをどう済ませるかを学ぶことをできた。現時点では机上の空論とはいえ、何も知らないよりは遥かにいい。
ネットの「勉強」はなかなか楽しかった。まるで大人になってから保健体育を学び直しているようで、不思議な感慨があった。
でも、やがて「文字だけ見てもよく分からないかも」っていう気分になってきた。
そうなると、その解決策は一つしかない。
「動画でも見てみる?」
あえて声に出して、もう一人の自分に訊く。
文字だけの学習では限界がある。わたしは検索サイトでそれ系の動画を探してみた。すぐに日本で一番有名なサイトが出てきたので、ここなら大丈夫だろうとページを開いた。
左側のメニューに「サンプル動画」とあったので、それをクリックする。すぐに無料で観られる動画のサムネイルがいくつも出てきた。
「ん、これが……」
思わず食い入って見てしまう。地下アイドル時代は、変な知識を付けないよう、あえてこういう情報は遮断していた。三十路を迎えた今、その措置は大いに支障をもたらしているんだけど、わたしだって初体験の勉強を成人向けのサイトでするなんて思わなかった。
サンプル動画から、参考になりそうなやつを探す。「素人モニタリング」なる企画があったので、それのサンプルを再生してみる。
すると、呑み会の帰りのサラリーマンとOLの友人同士がスタッフに声をかけられて、キスから始まってだんだんと過激なチャレンジをしていく。(という設定)
より過激なことをやればもらえるお金も増えていくので、二人は「えー?」とは言いながらもまんざらでもない顔。キスの下に並んだ単語は……ごめん。わたしの口からは言えない。
サンプル動画はざっくりと内容を紹介するものだから、展開は巻き気味で「それ」のシーンが唐突に出てくる。
「あん♡あん♡あん♡♡♡」
室内に響く嬌声。わたしは思わず口を覆う。
モザイクはかかっているけど、明らかに男性のそれが、女優さんの中へと入っているのが分かった。
「これが……」
三十を過ぎてエロ動画に圧倒されるわたし。あえて触れてこなかった世界だけに、とてつもなく背徳的な光景に見えた。
でも、思わず見てしまう。そして、考えてしまう。
……もし、わたしと遠野さんだったら、と。
正直な話、わたしだったら賞金が無くても最後までチャレンジしたい。だって、それだけ……。
動画を観ながら、下腹部を指でやんわりと触る。とりたてて刺激もしていないのに、じっとりと湿っているのが自分でも分かった。
気付けば「勉強」だったはずの動画の鑑賞は、ただのエロ動画の閲覧になっていた。
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