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勝者インタビュー
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グローブにハサミを入れると、バンテージだけ巻いた手を腰にやってインタビューに答えた。
「皆様お待たせしました! それではリング上から今回世界チャンピオンになった新堂選手のインタビューをお送りしたいと思います!」
テレビ局のアナウンサーが歓喜に満ちた声で言うと、会場が盛大に新堂へ祝福の歓声を発していった。
「新堂選手、このたびは世界スーパーフェザー級王座の獲得、おめでとうございます」
「ありがとうございます」
新堂が答えると、会場から割れんばかりの拍手が起こる。
「3ラウンド目に倒された時はどうなるかと思いましたが、4ラウンド目で信じられないカウンターを一閃して試合を決めました」
「まあ、あれは半分ぐらい運みたいなものもありますけどね」
新堂が言うと、会場から笑い声が起きた。
「それにしても信じられない角度のパンチでした。今回はああいった特殊なパンチを練習してきたんでしょうか?」
「逆ですね。むしろオーソドックスなパンチと合理的で地味な練習をひたすらやってきました。小細工がきく相手ではないので」
「なるほど。それでは今回の相手は新堂選手にとっても特別だったと思いますが……」
ここまで言ってから、アナウンサーの口調がふいに神妙なものに変わっていく。
「ロブレス選手との試合にはご友人であった伊吹丈二選手との試合がどうしても出てくるかと思います。そのあたりについてはどのような心境で闘っていましたか?」
「はい。一緒に闘っていました。本当ですよ? さっきまで、伊吹と一緒にリングで闘っていました。だからあいつも喜んでいます」
まさか本当にそうだとは誰も思うまい。
観客席から拍手と、いくらかのすすり泣く声が聞こえてくる。伊吹がロブレスを前に散った試合では多くの者が傷付いた。この試合は単なる伊吹の仇討ち試合とは意味合いが違っていた。
ふと客席の彩音と目が合った。遠くからでも泣いているのが分かった。彼女は前の試合で婚約者を失った。どれだけつらい思いをしながらこの試合を見ていたかは想像に難くない。
新堂はそのまま続ける。
「高校時代から、あいつはずっと俺の目標でした。兄弟みたいな関係であり、それでいて最高のライバルでした。だからあいつが亡くなった時、悲しいというよりは何が起こったのか理解が出来ないまま、今日の今日まで生きてきた気がします。ひょっとしたら今でもそうなのかもしれません」
ほとんど言葉の通りだった。新堂だけが死後の伊吹と心を通じさせていたが、それすらもついさっき出来なくなった。
「あいつは自分がどんなにつらい状況でも、絶対に試合を捨てない奴でした。絶対に諦めない奴でした。最高のライバルで、最高の友達で、そしていつも勝てない最悪の敵でもありました」
周囲からすすり泣く声が増えていく。誰もが真剣に新堂の話に耳を傾けていた。
「だから俺は、これから挑戦してくる選手に対して、俺にとっての伊吹みたいな存在になってやろうと思います。おい伊吹よ、聞こえるか? お前と一緒に獲ったベルトはずっと護っていくからな」
新堂がそう言うと、方々から温かい拍手と歓声が鳴り響いた。会場が盛り上がったところでインタビューは終わった。新堂は祝福されながら、花道を帰って行った。
「伊吹よ、聞こえたよな」
祝福を浴びて引き返す新堂は、少しだけ寂しそうに呟いた。
「皆様お待たせしました! それではリング上から今回世界チャンピオンになった新堂選手のインタビューをお送りしたいと思います!」
テレビ局のアナウンサーが歓喜に満ちた声で言うと、会場が盛大に新堂へ祝福の歓声を発していった。
「新堂選手、このたびは世界スーパーフェザー級王座の獲得、おめでとうございます」
「ありがとうございます」
新堂が答えると、会場から割れんばかりの拍手が起こる。
「3ラウンド目に倒された時はどうなるかと思いましたが、4ラウンド目で信じられないカウンターを一閃して試合を決めました」
「まあ、あれは半分ぐらい運みたいなものもありますけどね」
新堂が言うと、会場から笑い声が起きた。
「それにしても信じられない角度のパンチでした。今回はああいった特殊なパンチを練習してきたんでしょうか?」
「逆ですね。むしろオーソドックスなパンチと合理的で地味な練習をひたすらやってきました。小細工がきく相手ではないので」
「なるほど。それでは今回の相手は新堂選手にとっても特別だったと思いますが……」
ここまで言ってから、アナウンサーの口調がふいに神妙なものに変わっていく。
「ロブレス選手との試合にはご友人であった伊吹丈二選手との試合がどうしても出てくるかと思います。そのあたりについてはどのような心境で闘っていましたか?」
「はい。一緒に闘っていました。本当ですよ? さっきまで、伊吹と一緒にリングで闘っていました。だからあいつも喜んでいます」
まさか本当にそうだとは誰も思うまい。
観客席から拍手と、いくらかのすすり泣く声が聞こえてくる。伊吹がロブレスを前に散った試合では多くの者が傷付いた。この試合は単なる伊吹の仇討ち試合とは意味合いが違っていた。
ふと客席の彩音と目が合った。遠くからでも泣いているのが分かった。彼女は前の試合で婚約者を失った。どれだけつらい思いをしながらこの試合を見ていたかは想像に難くない。
新堂はそのまま続ける。
「高校時代から、あいつはずっと俺の目標でした。兄弟みたいな関係であり、それでいて最高のライバルでした。だからあいつが亡くなった時、悲しいというよりは何が起こったのか理解が出来ないまま、今日の今日まで生きてきた気がします。ひょっとしたら今でもそうなのかもしれません」
ほとんど言葉の通りだった。新堂だけが死後の伊吹と心を通じさせていたが、それすらもついさっき出来なくなった。
「あいつは自分がどんなにつらい状況でも、絶対に試合を捨てない奴でした。絶対に諦めない奴でした。最高のライバルで、最高の友達で、そしていつも勝てない最悪の敵でもありました」
周囲からすすり泣く声が増えていく。誰もが真剣に新堂の話に耳を傾けていた。
「だから俺は、これから挑戦してくる選手に対して、俺にとっての伊吹みたいな存在になってやろうと思います。おい伊吹よ、聞こえるか? お前と一緒に獲ったベルトはずっと護っていくからな」
新堂がそう言うと、方々から温かい拍手と歓声が鳴り響いた。会場が盛り上がったところでインタビューは終わった。新堂は祝福されながら、花道を帰って行った。
「伊吹よ、聞こえたよな」
祝福を浴びて引き返す新堂は、少しだけ寂しそうに呟いた。
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