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不遇の天才

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 それから卒業まで、伊吹と新堂は変わらず厳しい練習で己の体をいじめ続けた。誰もが認める才能を持ち、誰もが平伏するほどの努力をしてきた。それも毎日のことだ。

 だが、現実というものは時として残酷なものである。

 結果から言うと、伊吹にしても新堂にしても、高校生のタイトルを獲ることはついぞ無かった。

 とても不幸なことに、同い年でさらなる才覚を持った「モンスター」が存在した。

 ――内海瞬。

 高校アマチュアボクシング史上最強の選手と言われ、井上尚弥の後継者とも言われている男。その高校生ボクサーは二人と同じライト級にいた。

 のちにプロでフェザー級を主戦場とする伊吹と新堂は、フェザー級の無いアマチュアだとバンタムには落とせず、ライトだといくらか小柄だった。

 バンタムまでは両者とも体重が落とせないのでライト級で闘ってきた二人だったが、ナチュラルにライト級の体格であった内海には体力面で押される展開となった。

 効くはずのパンチが期待ほど効かず、疲れないはずの展開で予想位以上に削られる。そんな試合展開を繰り返すうちに、いつも判定では内海の手が上がった。

 判定を行う審判も人間だ。よく巷で「名前勝ち」と言われるように、判定決着を迎えた試合では、かねてから強豪と言われる選手の手が挙がりやすい傾向がある。たしかに判定そのものが公正になされるべきであるというのは誰も異存があるまい。

 だが、実地では各審判にとっても「推し」が存在するわけで、甲乙つけがたい展開で試合が終了した場合、推しを知らぬ間に贔屓目で見ているというのはよくある話である。

 つまり、そういった愛された強豪選手を倒すためには、挑戦者側は息の根を止める勢いで闘うしかない。

 伊吹と新堂はそれを分かっていたので、内海戦ではのっけから倒しにいく試合展開を見せていた。惜しい試合もかなりあったが、毎回僅差で内海が判定勝ちしていった。

 一度だけ新堂がサウスポー構えの左ストレートでダウンを奪ったものの、倒しに行こうとしたところで冷静にジャブを何発も喰らい、最後には僅差の判定負けとなった展開もあった。

 頂点には届かなかったが、伊吹も新堂も、自分の成し遂げてきたことには満足しているようだった。それこそこれ以上は努力のしようもないほど全てを注ぎ込んできたからである。そういった人間は得てして後悔をしない。

 彩音も高校三年間、二人をはじめとしたボクシング部員をマネージャーとして支えてきた。後年学内で「伝説の世代」と呼ばれる選手達を、しっかりと後方支援してきたのであった。

 卒業時、内海瞬は大学へと進学した。大学の体育会で部活動を続けて、オリンピック出場を果たすためだった。高校時代に世界選手権で優勝したこともある内海は、強豪ひしめくライト級で金メダルの期待をかけられている。

 伊吹と新堂は卒業後に大学へは行かず、プロボクサーとして活動することとなった。誰も言及しなかったが、正直なところアマチュアに残ればまた内海の陰に隠れてしまう可能性があった。そしてプロのジムも二人を専属のプロボクサーとして欲しがっていた。

 アマチュアボクシングだけがボクシングの全てではない。内海を倒すために自然と好戦的でノックアウトを狙う二人のスタイルは、かねてから関係者より「プロ向きだ」とも言われていた。

 ネットでは世界一有名な動画サイトで二人の試合が閲覧出来る状態であった。海外からもその才能を賞賛するコメントが書き込まれることがあるほど、伊吹と新堂の試合には華があった。

 この新鋭がどんな試合をプロの舞台で見せてくれるのか――ネットのボクシング板では通によって論議の的になった。

 高校時代は同じ練習環境で汗を流した二人だったが、プロになった際には別々のジムに所属となった。単純に声をかけたスカウトが違うからだった。

 幼少期から強豪選手であった二人はすでに日本ランカー級の実力を持っていたが、デビュー戦は六回戦であった。内海ほどの期待値ではないにしても、二人のプロ入りは専門誌やマニアの間で話題になった。

 ――そして、これから新たな時代が始まる。
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