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アロー=ガンシア
【3】惨めな夫婦、すれ違いを知る。
しおりを挟むマルに相談するんじゃなかったと、そのあと直ぐに後悔した。
あの女はあろうことか、シオンを娼婦に勧誘に来たのだ。
何でも受け容れてしまうシオンのことだ、マルの勧誘など直ぐに了承してしまうのでは。
焦りのままに部屋へ飛び込んでみれば、妻はどこか呆然としていた。
その姿を見て、以前盗み聞きしていたときに彼女の友人が言っていた言葉を思い出した。
────やつれている。
言及しようと踏み出して、傾いで倒れたシオンの身体を受け止めることができなくて。
ごとりと大きく鳴った音に、心臓が潰れる思いをした。
「シオン!」
名を叫んだ声は、悲鳴のようだった。
「食事をまともに摂っていないと聞いた。何故だ?」
「お腹が空かないんです」
「……無理にでも、ちゃんと食べろ。身体を壊すぞ」
「かしこまりました」
幸い、シオンは直ぐに意識を取り戻した。
しかし、俺の心は穴が開いたように虚しさに塗れていた。
「お前はいつもそうだ。何を言っても否定しない。それが心地よくて、結婚も承諾したのに」
思うまま、言葉を溢した。
父が嫁にしろ、と言ったとき。面倒だと思ったのは一瞬のことで、あんなに心地の良い存在と共に居られるのであれば、結婚できることはむしろ幸福だと思った。
「まさかとは思っていたが、お前……」
言葉が詰まる。
確認したくもないことを、どうしても知っておきたくて、ようやく口にする。
「お前、俺のこと、好きじゃないのか」
────堪えられなかったものが、眦から溢れた。
「……好きでいてほしかったんですか?」
さすがの彼女も驚いたのか、目を見開いていた。
「あ、当たり前だろう! 俺たち、夫婦なんだぞ!」
噛みつくように言い返すと、少し悲しそうな顔をした。
「申し訳────」
────やめろ。謝るな。
「謝るな! ひどくみじめだ!」
お前から愛されていると過信して愚かな五年を過ごした俺を、これ以上惨めにしないでくれ。
お前も、こんな男に易々と頭を下げるんじゃない。
惨めだ。俺も、お前も。
この世で一番、惨めな夫婦だ。
「ねぇ、アロー様」
「……なんだ」
「離縁しませんか」
────心臓が止まりそうになった。
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