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シオン=レシグナ
【0】秒で諦めてきた女と、友人との夜の茶会。
しおりを挟む「俺の妻になれることは光栄なことだろう」
彼のその言葉に、私は何の反応も示さなかった。
自信過剰も甚だしい。しかしながら肯定するのも否定するのも面倒だ。
────それからは坂を転がる石のごとく。もしくはドンブラコと流される木のごとく。
あっという間に話は進み、気付けば彼の妻になっていた。
「……いや、経緯が雑過ぎじゃない?」
心底呆れた様子で唯一無二の友人は感想を述べる。
「語るのが面倒になりました」
「早過ぎじゃない?」
呆れ返っている友人だが、溜息ひとつで許してくれる。
「まあいつものことよね。いい加減慣れたわ」
「ビルトゥは良い人ですね」
瞬きひとつした後にしみじみとそう言えば、苦々しい顔付きになる。
「褒めてんの、それ」
「はい。私には到底マネできません」
「嫌味に聞こえるわよ、シオン」
とっくに冷え切ったであろう紅茶を一気に飲み干して、友人は席を立つ。
「そろそろ行くわ。あまり夜更かししては駄目よ」
「はい。おやすみなさいビルトゥ」
緩く手を振りながら去っていく友人を見送ってから、二つある東屋の出入り口の内、友人とは反対側の方へ足を踏み出す。
すると、目の前の茂みからガサリと音がした。
「どなたかいらっしゃるの?」
微かに首を傾けて茂みを見つめる。
されど返事は無く、物音もしない。
「逃げたのかしら」
その物言いは動物を指しているのか、はたまた盗み聞きをしていた誰かを指しているのか。
「卑怯者と詰っても構わないかしら」
ぼやきにしては少々大きい声を上げれば、あまり遠くはない場所で何かが転ぶ音が聞こえた。
「……怪我、してないといいな」
今度こそ聞き取れない声でぼやく。
何を言っても無意味だと諦めきっているので、気を取り直して屋敷へと戻った。
────どこかで泣きべそをかいている声が、聞こえたような気がした。
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