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Too late
0: 過ぎ去りし日の記憶 水無月トオルの場合1
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ハッ
規則正しく、力をこめて竹刀を振る。
打ち込みを始めて30分ほどだろうか、足元は汗で濡れている。
日々の日課、剣道部の朝錬。最後の大会が終わり自分たちが練習する意味はあまりない。大会は1回戦負け、いつものことだ。
正式な部員は自分とタツマだけ、他は助っ人にすぎない。
「しっかし、よくやるねぇ」
胴着を着たタツマは呆れ声だ。律儀な悪友は自分に付き合って朝錬に来ている。
もっとも、開始10分で壁にもたれ欠伸をしているが。
「兄さんは、真面目ですから」
タツマにタオルを手渡しながら、アマネが笑みを浮かべる。
自慢の妹、文武両道、唯一の家族。
実の両親は物心つく頃にはいなかった。
遠縁に当たるという人が月々の仕送りをしてくれ、何とか生活をしている。
「奨学金のためか?」
タツマに以前問われたことがある。
「半分正解だな」
もう半分は、妹を守るため。
両親が居ないという特異性、苛められていた小学生の妹を守ろうとして守れなかった苦い記憶。
どうやって解決したのかは覚えていない。
ただ、守れなかった後悔だけが残っている。
「これが、どこまで役に立つかはわからないけどな」
呟き、竹刀を再び振る。
「ところでアマネちゃん、生徒会にはまだ行かなくても?」
「はい、まだ時間はありますし」
武道館の壁に掛かった時計を一瞥する。
そろそろ切り上げるか。
「兄さん、どうぞ」
「ありがとう、アマネ」
タオルを受け取り、笑みを向ける。
「相変わらず仲がよろしい事で」
タツマが苦笑を浮かべる。
「アマネちゃんがお嫁に行ったら、発狂しそうだなお前」
「五月蝿い」
軽く竹刀で、親友の頭を叩く。
アマネが結婚か、いつかはそんなこともあるのか、そのときは幸せな家庭を築いて欲しいと思う。
そして、伴侶と共に幸せに老いて行って欲しい。
「どうかしましたか、兄さん?」
アマネが不思議そうに首をかしげる、兄の欲目ではあるだろうが可愛い限りだ。
思わずアマネの方を見続けていたようだ。
「いや、何でもないよ。アマネ」
その幸せな未来のためには、何だってする。
それが俺の唯一の存在理由なのだから。
規則正しく、力をこめて竹刀を振る。
打ち込みを始めて30分ほどだろうか、足元は汗で濡れている。
日々の日課、剣道部の朝錬。最後の大会が終わり自分たちが練習する意味はあまりない。大会は1回戦負け、いつものことだ。
正式な部員は自分とタツマだけ、他は助っ人にすぎない。
「しっかし、よくやるねぇ」
胴着を着たタツマは呆れ声だ。律儀な悪友は自分に付き合って朝錬に来ている。
もっとも、開始10分で壁にもたれ欠伸をしているが。
「兄さんは、真面目ですから」
タツマにタオルを手渡しながら、アマネが笑みを浮かべる。
自慢の妹、文武両道、唯一の家族。
実の両親は物心つく頃にはいなかった。
遠縁に当たるという人が月々の仕送りをしてくれ、何とか生活をしている。
「奨学金のためか?」
タツマに以前問われたことがある。
「半分正解だな」
もう半分は、妹を守るため。
両親が居ないという特異性、苛められていた小学生の妹を守ろうとして守れなかった苦い記憶。
どうやって解決したのかは覚えていない。
ただ、守れなかった後悔だけが残っている。
「これが、どこまで役に立つかはわからないけどな」
呟き、竹刀を再び振る。
「ところでアマネちゃん、生徒会にはまだ行かなくても?」
「はい、まだ時間はありますし」
武道館の壁に掛かった時計を一瞥する。
そろそろ切り上げるか。
「兄さん、どうぞ」
「ありがとう、アマネ」
タオルを受け取り、笑みを向ける。
「相変わらず仲がよろしい事で」
タツマが苦笑を浮かべる。
「アマネちゃんがお嫁に行ったら、発狂しそうだなお前」
「五月蝿い」
軽く竹刀で、親友の頭を叩く。
アマネが結婚か、いつかはそんなこともあるのか、そのときは幸せな家庭を築いて欲しいと思う。
そして、伴侶と共に幸せに老いて行って欲しい。
「どうかしましたか、兄さん?」
アマネが不思議そうに首をかしげる、兄の欲目ではあるだろうが可愛い限りだ。
思わずアマネの方を見続けていたようだ。
「いや、何でもないよ。アマネ」
その幸せな未来のためには、何だってする。
それが俺の唯一の存在理由なのだから。
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