4 / 12
***
しおりを挟む
あの日。降りるべき駅を通り過ぎて、あの街へ帰ってみようと思ったのは、ほんのちょっとした気まぐれだった。
父親に黙って鞄に日傘を忍ばせ、いつもより遅い時間の電車に乗った。そこに、あいつが乗り込んで来たんだ。
あいつ、沖本優は変なやつだった。自分がどこへ行くのかも知らないままで、俺なんかに懐っこく着いてきた。何の話をしても楽しそうに目を輝かせるのが面白くて、俺の隠れ家だった海岸にも連れて行った。それなのに、あいつはなぜか、俺のことばかり気にしていた。
静かで、穏やかで、何ものでもない時間。だけどあの時の俺には、そういう時間が何よりも必要だったのだと思う。
今でも、時おり思い返す。あの日、あの場所に戻れたら。そして、そのまま永遠に時間を止めてしまえたら。そう出来たら、どれほど良かっただろう。そんなことを考えても虚しいだけだと分かっているのに、何度も何度も、そうして思い出の中に逃げ込んだ。
繰り返し汚れて、重くなっていく両手の中、あの日の記憶だけがいつまでも綺麗で、酷く、息が苦しかった。
父親に黙って鞄に日傘を忍ばせ、いつもより遅い時間の電車に乗った。そこに、あいつが乗り込んで来たんだ。
あいつ、沖本優は変なやつだった。自分がどこへ行くのかも知らないままで、俺なんかに懐っこく着いてきた。何の話をしても楽しそうに目を輝かせるのが面白くて、俺の隠れ家だった海岸にも連れて行った。それなのに、あいつはなぜか、俺のことばかり気にしていた。
静かで、穏やかで、何ものでもない時間。だけどあの時の俺には、そういう時間が何よりも必要だったのだと思う。
今でも、時おり思い返す。あの日、あの場所に戻れたら。そして、そのまま永遠に時間を止めてしまえたら。そう出来たら、どれほど良かっただろう。そんなことを考えても虚しいだけだと分かっているのに、何度も何度も、そうして思い出の中に逃げ込んだ。
繰り返し汚れて、重くなっていく両手の中、あの日の記憶だけがいつまでも綺麗で、酷く、息が苦しかった。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
美しき父親の誘惑に、今宵も息子は抗えない
すいかちゃん
BL
大学生の数馬には、人には言えない秘密があった。それは、実の父親から身体の関係を強いられている事だ。次第に心まで父親に取り込まれそうになった数馬は、彼女を作り父親との関係にピリオドを打とうとする。だが、父の誘惑は止まる事はなかった。
実の親子による禁断の関係です。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる