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東の集落へ帰還

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 ラルフはタリア、ジュリと共に東の獅子一族の集落へと戻ってきた。

 白い肌の一族――彼らの出自はラルフと同じであり、激しい訛りはあるけれど言葉が通じる。その事実が分かっただけでも、ラルフにすれば僥倖だった。
 あとは、世話係兼通訳として連れてきたジュリによって、長老に色々と伝えてもらえればいいだろう、と。
 そう考えて、集落へと戻ってきたのだが。

白い肌の一族をエティフゥ・ニクス・エビルト連れてきたのかいエカト・エモク。ラルフ」

「よぉ、婆さん」

長老レドレ
 青い目のエゥルブ・エィエタリア、戻ったンルテル

初めましてオド・ゥオィ・オド・ウォフ長老レドレ
 私はジュリ。白い肌の一族の女エティフゥ・ニクス・エビルト・ナモゥ
 東の獅子ツサェ・ノイル一族の族長・エビルト・レダエル、ラルフの妻となりましたエフィゥ・テグ

おやおやホ・ホ……ラルフもお盛んだねスオレプソルフ
 まさかデェドニ白い肌の一族からエティフゥ・ニクス・エビルト妻を連れてくるとは・エフィゥ・エカト・エモク
 うかうかしてッセレラクいられないね・エブ・オン、タリア」

「……私は納得していないイ・ィフシタス・オン

 老婆へと、ジュリが自己紹介をしたらしい。
 それに対して、にやにやと笑みを浮かべている老婆と、不機嫌そうなタリア。
 まぁ、確かに世話係として、こんなにも幼い少女を連れてきたのだ。こんな反応になるのも当然かもしれない。

「ジュリ、婆さんに幾つか、伝えてほしいことがある」

「へ、へぇ。わすででけるごどなら」

「ええと……白い肌の一族とは、今後仲良くしていきたい、って言ってくれ」

「へぇ……んと。
 長老レドレ族長はこう言っているエビルト・レダエル・ヤス
 今後トスジ白い肌の一族とエティフゥ・ニクス・エビルト交流を深めていきたいエグナフクェ・ペェド・トナゥ

交流を深めるエグナフクェ・ペェド
 そりゃ一体タフト・レヴェどういうことだいウォフ・グニフト
 ウォン私らは取引をしているエゥ・エグナフクェ・エカム
 肉を差し出しタェム・ツォ・ドロゥ葉と実を貰っているファエル・ツン・テグ
 これ以上ウォン・エロム交流が必要かいノイタシヌッモク・デェン?」

「ばさま、ごう言うてん。今、わすらとひがすの一族は取引さすてる。肉さ差す出すて野菜さもろどる。こさいじょ、必要だか?」

「うわぁ、分かりやすい……!」

 ジュリの通訳に対して、感動すら覚えた。
 訛りは激しいけれど、分からないこともない。全く理解のできない老婆の言葉に比べれば、遥かに分かりやすいと言っていいだろう。
 これだけでも、ジュリを連れてきた甲斐があるというものだ。

「ジュリ、今後俺が言うことを、婆さんにそのまま伝えてくれ」

「分がりした」

「白い肌の一族は、俺と故郷が同じだ。同じ国に住んでいた彼らを、俺は保護したいと思っている。少なくとも、獣に襲われない安全な場所で。この集落なら、安全だと思うんだ」

「んと……。
 白い肌の一族エティフゥ・ニクス・エビルト、ラルフと部族同じエビルト・エマス
 ラルフは優しいエルトネグ保護したいノイトセトルプ・ツナゥ
 獣に襲われないトサェブ・クカッタ・オン安全な場所エファス・エカルプ
 東の獅子ツサェ・ノイル・一族の集落はエビルト・エガッリヴ安全エファス

 ラルフの言葉を、ジュリが通訳してくれている。
 でもよく考えれば、ちゃんと伝わっているかどうかは分からない。そこは、ジュリを信用するしかないだろう。
 下手にラルフが伝えるよりは、ちゃんと通じていると思うし。

なるほどなデェドニ
 だからオス・白い肌の一族からエティフゥ・ニクス・エビルト妻を貰ってきたのかエフィゥ・テグ・エカム
 嬢ちゃんッシムあんたは人質ゥオィ・エガトソフ代わりってことだね・ダエトスニ・グニフト
 ああ勿論エスルォク・フォあたしは反対しないイ・エソッポ・オン
 族長が決めたエビルト・レダエル・ことである以上エディセド・グニフトそれは決定事項だタフト・エディセド・グニフト

「……ばさま、反対さしね。ずんたが決めだごど、決まっだごど」

「じゃあ、白い肌の一族が近くに住んでもいいってことか?」

 ほっと安心して、続けてそう質問する。
 それを、同じくジュリが通訳し――。

当然だろうエスルォク・フォあんたは族長だよゥオィ・エビルト・レダエル、ラルフ。
 東の獅子一族はツサェ・ノイル・エビルト強い男に従うグノルスツ・ナム・ウォッロフ
 この集落の安全もシフト・エガッリヴ・エマス、ラルフが連れてきたエカト・エモク・鼻長が守ってエソン・グノル・くれるからさドラゥグ・テグ
 獣の襲撃に怯えなトサェブ・クカッタ・エラクス・くてもいい日々をオン・ドォグ・ヤドィレヴェ作ってくれたのはエカム・テグ・あんただよゥオィ
 あたしは多少イ・エルッティル年を重ねているだけさラエィ・エリプ・ィルノ
 反対なんてできるエソッポ・ナク・立場じゃないよノイティソプ・レッフィド

「ひがすの一族さ、強ぇおんさ従う。長さ鼻が守っでぐれんの、ラルフさおかげ。ばさま、反対さしね」

「長さ鼻……ああ、ジャックのことか」

 ふむ、と僅かに首を傾げる。
 タリアとジュリは、やたらといがみ合っていた。そしてゲイルは、「まだレドレさ許してくれでねだな」と言っていたことだし、何かしらの軋轢はあると思っていた。
 だが、思っていた以上に老婆が素直に、白い肌の一族が近くに住むことを了承してくれている。
 本当に、ちゃんと通じているのかと不安にはなるけれど――。

それよりツブ、ラルフ。
 あたしの方からもイ・ヤゥ・モルフ聞きたいことがあるクサ・ツナゥ・グニフト・エブ
 白い肌の一族がエティフゥ・ニクス・エビルト元々あんたと同じニギロ・ゥオィ・エマス集落だって・エビルトことは分かったよ・グニフト・ドナツスレドヌ
 だがツブあんたは東のゥオィ・ツサェ・獅子一族の族長だノイル・エビルト・レダエル
 白い肌の一族にエティフゥ・ニクス・エビルト慈悲をかけるのは結構ィクレム・グナフ・ドォグ
 ただしツブ、アウリアリア神の化身ドグ・ノイタンラクニ、ラルフ。
 あんたが導くべきはゥオィ・エディウグ・ドルオゥス東の獅子一族だツサェ・ノイル・エビルト
 それは分かっているねタフト・ドナツスレドヌ・コ?」

「ん……何て?」

「えと……ばさまさ、こう言うできでるべ。わすらが、ラルフさと同じ国さの出さ、分がっだ。けんど、ラルフさひがすの一族さずんただべ。わすらさ哀れげんど、ひがすのずんたであっことさ忘れちゃなんね」

「……なるほどな。あくまで俺は、東の獅子一族だってことを忘れんな、と」

 ふむ、とラルフは顎に手をやる。
 まぁ、話が上手く進むのならば、それでいいだろう。

「分かった。それじゃ、ジュリのことを認めてくれるのかどうか、聞いてくれ」

「わ、わす? わす、ラルフさよんめごさ来だべ。駄目だか?」

「いや、俺はいいんだ。婆さんが認めるかどうかなんだよ」

「よんめごさ、ラルフさいげぇが決めんべか?」

「まぁ、タリアもいるしな……さすがに、二人目になるっていうのは」

 そもそも、部族の一員であるラルフに対して、世話係が二人もいるというのはおかしな話である。
 今はラルフが狩ったエソン・グノルの肉で、食事は成り立つだろう。だが、今後この肉がなくなった場合、部族は狩猟に出る必要がある。そして、狩猟に必要なのは人数なのだ。
 そんな人数を、わざわざラルフの近くで遊ばしておくわけにもいくまい。

「ラルフさ、そいさ違ぇべ」

「へ?」

「ラルフさ、強ぇおんだべ。強ぇおんさ、よんめごさ何人いでもええべ。んだで、代わいにラルフさが、甲斐性見ぜばええべさ」

「む……」

 ジュリの言葉に、眉を寄せる。
 確かに、タリアは老婆から推薦された世話係であり、ジュリはゲイルから頼まれた世話係だ。あくまでラルフが部族の一員でしかないから、といってどちらかを断るのは、確かに失礼にあたるかもしれない。
 それこそ、ジュリの言うところの甲斐性――それを見せる必要があるということか。
 だけれど。

「だで、ラルフさ、神様だべ?」

「……え?」

 そんな、続いたジュリの言葉。
 その言葉に、思わずラルフは眉を寄せた。

 神様?
 え、誰が?
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