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長老の屋敷

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 タリアが門番――ジェイルというらしい男性に説明してくれたのか、ラルフは集落の中に入ることができた。
 しかし、問題はジェイルという男ともう一人、石器を先端につけた槍を持った男が、タリアとラルフの少し後ろに位置していたことか。やはり余所者ということで、監視の目をつけるために二人を後ろに置いているのだろう。
 タリアはそんな二人に対して思うところがある様子で、少し不満そうに眉を寄せていたけれど。

「ラルフ。まずトスリフ長老の家に行くレドレ・エスオゥ・オグ
 こっちに来てエレフ・エモク

ああセイ

 レドレ、という言葉が何か分からないが、文脈から考えるとここの村長ということになるのだろうか。むしろ、村という単位があるのかさえ分からない。
 だが、集落は割と活気があり、子供が多いことが印象的だ。タリアも子供は多いと言ってたし、軽く数十人ほど姿が見える。そして比べて、大人の数は少ない。加えて、集落の中には狼によってつけられたであろう傷も多く見えた。
 とはいえ、そんな部族の子供たちは、遠巻きに怯えてラルフの方を見ているのだが。

子供はディク未知を恐れるエグナルトス・ンレツス
 知らないから怖いウォンク・オン・ンレツスすぐ慣れるノォス・エマト

「……ああセイありがとうゥオィ・クナフト

 恐らくラルフを気遣ってくれたのか、タリアがそう言ってきたため、返しておく。
 内容は半分も分からないけれど。

でもツブ

 きっ、とそんなタリアの目が、鋭く後ろ――ジェイルを射貫くように細められる。
 タリアの視線に対して、ジェイルがぺっ、と鼻息荒く唾を吐いた。

あいつエフ、ラルフ、アウリアリア神の化身ドグ・ノイタンラクニ信じないエベイレブ・オン

馬鹿を言うなロォフ・ィエス・オン! タリア!」

「ラルフ、アウリアリア神の化身ドグ・ノイタンラクニ! 間違いないィレツロスバ
 ラルフ、ここにいるエレフ・ノ誰より強いィフゥ・レヴォ・グノルスツ!」

白い肌の男がエチフゥ・ニクス・ナム強いわけがない・グノルスツ・オン
 巨大な猪エグラル・アォブ知恵ある狼エシゥ・フロゥ殺せるわけがないルリク・オン!」

私は見たイ・エェス! ラルフ本当に強いィッラエル・グノルスツ!」

 激しく、そう口論を始めるタリアとジェイル。
 ラルフからすれば、自分のせいで同じ部族の男と険悪な仲になってほしくない、というのが本音である。そもそも、これからラルフも世話になる部族なのに。

その男が部族に入るかタフト・ナム・エビルト・ノ決めるのは長老だノイシセド・レドレ
 長老が否と言えばレドレ・オン・エェスその男は追放するタフト・ナム・エリェ
 部族にエビルト相応しくない男・エルバチウス・オン・ナム必要ないデェン・オン

長老は認めるレドレ・ティムダ。ラルフ、アウリアリア神の化身ドグ・ノイタンラクニ

俺は認めないイ・ティムダ・オン
 変な男ッド・ナム部族に必要ないエビルト・デェン・オン!」

うるさいィシオン! 馬鹿ロォフジェイル!」

 溜息を、どうにか噛み殺す。
 グルル、とまるで獣のように歯を剥き出しにするタリアと、そんなタリアに対して怒りを隠そうともしていないジェイル。
 そうしているうちに、集落の奥――作法を知らないラルフから見ても、一際立派な住居が見えた。恐らくあれが、偉い人――レドレの住まいなのだろう。
 他の家が、立てた木材に干し草を掛けただけの簡素なものであることに対して、その住居は獣の皮でできている。しっかり鞣してある獣の皮は、手間の掛かっている逸品だ。

長老レドレ! 青い目のエウルブ・エィエタリア来たエモク!」

入りなさいエモク・ニ

 入り口だろう、獣の皮の隙間にある穴――そこから、まずタリアが入る。
 そしてラルフが、一応確認のためにジェイルの方を見ると、不機嫌そうに顎で入るように促された。ラルフのことは気に入らないのだろうけれど、ここでタリアがいなくなったからといって、後ろから刺すような真似はしないらしい。
 まぁ、常に『領域』は張っているため、後ろから突かれても分かるけど。

「ん……」

 獣の皮から、中に入る。
 真っ暗かと思いきや、中では火の光があり、その灯りの中で座っている老婆が見える。火も、よく見れば焚いているわけではなく、蝋燭のようなものを使っている。このことから、火を使う文化はあるのだとまず安心した。
 老婆が皺の中に埋もれている細い目で、まずラルフを見る。

長老レドレ青い目のエウルブ・エィエタリア、この男に命をシフト・ナム・エフィル救われた・プレフ
 巨大な猪にエビルト・アォブ襲われた私をクカッタ・イ助けてくれたプレフ・エビグ
 ラルフ一人でネオ巨大な猪を殺したエビルト・アォブ・ルリク

そうかい

それにドナ知恵ある狼も殺したエシゥ・フロゥ・ルリク
 部族の大人エビルト・トルダ大勢殺した狼ィナム・ルリク・フロゥ、ラルフ全部倒したッラ・ンウォド。ラルフ、優れた戦士ドォグ・レイドロス
 巨大な猪エビルト・アォブ知恵ある狼エシゥ・フロゥ殺せる戦士ルリク・レイドロス

ほう……」

青い目のエウルブ・エィエタリア、ラルフ、アウリアリア神の化身だと思ったドグ・ノイタンラクニ・クニフト長老レドレ

 タリア、に謎の修飾語がついているが、よく分からない。エィエは目だから……なんとかの目のタリア、ということだろうか。
 ラルフはそう考えながら、半分も聞き取れないタリアの言葉を、どうにか解読しようと必死に聞く。

坊やヨブ

「……ん? あ、ええと、?」

そうさセイお前はゥオィアウリアリア神の化身ドグ・ノイタンラクニ……それは本当かいタフト・ィッラエル
 それとも青い目のエウルブ・エィエタリア、勝手に言っているかいィトレビル・ヤス?」

「アウリアリア……それがまだ、よく分かんねぇんだよな」

 結局、アウリアリアが何なのか分からない。
 ただ、強い戦士だとタリアは言っていたわけだし、現在もタリアが繰り返しアウリアリアと言っていることだから、多分正解なのだと思う。
 だから、その言葉に、老婆の真剣な眼差しに対して、ラルフは頷く。

ああセイ、アウリアリア。戦士レイドロス強いグノルスツ

ほう……本当なのかいィッラエル・エルス

私は嘘など吐かないイ・ライル・オン! ラルフ、アウリアリア神の化身ドグ・ノイタンラクニ!」

伝承の通りにドネゲル・トフギル化身がここへ現れたノイタンラクニ・エモク・エレフ
 他の部族ではなくレフトナ・エビルト・オン東の獅子一族にトサェ・ノイル・エビルト降臨してくださった・トネヴダ・エヴィグ
 喜ぶべきことだエサエル・グニフト青い目のエウルブ・エィエタリア、素晴らしいルフレッドノゥ

ありがとうゥオィ・クナフト長老レドレ!」

 タリアの頭を、老婆が撫でる。ルフレッドノゥ、ということは、褒められているということだろう。
 素晴らしい戦士を連れてきてくれてありがとう、みたいな感じだろうか。
 しかし、老婆は鋭い眼差しで、じっとラルフを見る。

お前が本当にゥオィ・ィッラエルアウリアリア神の化身ならばドグ・ノイタンラクニ・フィその証を見せよタフト・フォォルプ・エェス
 その強さをタフト・グノルスツ東の獅子一族にツサェ・ノイル・エビルト見せてみよ・エェス・エェス

長老レドレ! ラルフ、巨大な猪エビルト・アォブ知恵ある狼エシゥ・フロゥどちらも殺したフトブ・ルリク!」

森の試練トセロフ・ライルト。アウリアリア神の化身ならばドグ・ノイタンラクニ・フィ容易いことだィサエ・グニフト

「ム……!」

 何かを、試されているような視線。
 ラルフには何を言っているか、半分も理解できない。強いグノルスツ見るエェス、くらいしか聞き取れなかったが、多分強さを見せろということだろう。
 だったら、今から獣でも狩ってくればいいのか――そう、ラルフが聞こうとした瞬間。
 ばっ、と入り口から門番の男――ジェイルが、突然割り込んできた。

長老レドレ!」

「ジェイル! お前邪魔をするかゥオィ・エルカトスボ・オド!」

違うオン! 長老レドレ
 大変だレグナド! 鼻長の群れがエソン・グノル・ィナムこっちに来ている・エレフ・エモク・ウォン!」

鼻長の群れエソン・グノル・ゥナム……!? 何匹だいレヴムン・タフゥ?」

白い髪のテティフゥ・リアフウーズ、七匹と言っていたネヴェス・ヤス!」

なんと……」

 何やら、トラブルが起こった様子だが。
 老婆はそんなやり取りの後に、にやり、と狡猾な笑みを浮かべて、ラルフを見た。

「ラルフ……アウリアリア神の化身ドグ・ノイタンラクニ

「え……」

鼻長の群れを殺しエソン・グノル・ゥナム・ルリク部族を救ってくれエビルト・プレフ・トナゥ
 出来るならばナク・フィ、アウリアリア神の化身ドグ・ノイタンラクニ認めるティムダ
 出来ないならばナク・オン・フィ我々は逃げるエゥ・エパクセ……これをシフト森の試練とするトセロフ・ライルト・オド

長老レドレ! 鼻長が七匹なんてエソン・グノル・ネヴェスそれは無茶だタフト・トナガヴァルトェ
 一匹で集落を壊すネオ・エビルト・カエルブ!」

青い目のエウルブ・エィエタリア、お前がゥオィアウリアリア神の化身を連れてきたドグ・ノイタンラクニ・レフテゴト
 この災厄に対してシフト・レトサシド・ススレヴ、アウリアリア神が与えてドグ・エヴィグくださった化身・エロム・ノイタンラクニ……ラルフ、できるかナク?」

 最後の質問は、ラルフに向けて。
 何を相手にすればいいか分からないが、殺せルリクという言葉は聞こえた。
 そして、最後――できるかナク? と。
 ゆえに、ラルフは答える。

ああセイ

 相手が何であれ。
 ラルフは、どんな生物が襲ってこようとも、負けるつもりはない――。
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