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戦勝の宴
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アリオス王国戦は、あっさりと終わった。
まず、俺が城門を開いて味方を招き入れ、第三師団が一気に王都の中へと突入してきた。ちなみに、門の近くに『切り込み隊』が数人いたらしく、内側から思い切り開いた鉄扉に激突して跳ね飛ばされたらしい。そのせいで、後からレインに怒られた。
そして瞬く間に王城を制圧し、王族を捕縛した。この捕縛にはレオナが関わっていたはずなのだが、恐らく王城に入ったマティルダ師団長と口裏を合わせていたのだろう。レオナの話はなく、第三師団で捕縛したことになっていた。
まぁ何にせよ、これで戦争は終わりということだ。
今後やっていくのは、後処理だけである。
「ふー……ようやく落ち着いたな」
アリオス王都、城門前。
将軍、ならびに軍人でも上層部にいる者は現在、王城にて色々調整をしているらしい。
だが俺たちのような一般兵には関係ない。しかし下手に兵士が徘徊していても住民が怖がる。かといって王城の中に全軍が入れるような場所はない。
結果的に、俺たちはアリオス王都の城門前――そこで野営して待機しているように、との指示が出た。ちなみに現在、王都の制圧と治安維持を行っているのは第一師団である。
「まったく……レイン、少しばかり怒り心頭です」
「少しなのか怒りまくってんのかどっちだよ」
「我々が、最も活躍したはずだというのに……」
「まぁ、俺たちは軍人だ。上が決めたことには従わなきゃいけねぇんだよ」
第三師団『切り込み隊』は現在、全員が城門の前にいる。
本来、先陣を切り突入した師団が、住民の慰撫と治安維持、ならびに制圧を行うのが常だ。
勿論、下手に住民たちを虐殺するとか、乱暴するとか、そんな真似はしない。そういうのは、ちゃんと軍規でやらないように徹底されてますから。うち犯罪とかそういうのしないんで。
ただ、中には住民が逃げ出し、空き家になっている場所もある。そういった場所から財産なり食料なり徴収するのは、あくまで治安維持の一環という形で認められているのだ。そして、この権利を主張できるのは、治安維持を行う部隊だけである。
今回の場合門扉を開いたのは俺だし、突入したのは『切り込み隊』である。
だから、その特権は間違いなく第三師団にあったはずだ。だというのに、総将軍からの命令で第三師団は城門前で待機し、第一師団が治安維持にあたるように命じられたのである。
レインが怒り心頭なのも、分からないではない。
火事場泥棒というわけではないけれど、治安維持の一環で懐に入る金額も、割と馬鹿にならない額ではあるのだ。
「そもそも、最大戦功は第三師団です。我々です。命がけで戦って竜尾谷を越えたのは我が軍ですし、今回の城攻めにおいても最も活躍したのは隊長です。それなのに、せっかくの特権を第一師団に奪われるのは、レイン業腹です」
「仕方ねぇだろ。将軍の命令なんだから」
「でもよぉ、さすがにワシらも納得できねぇぜ、隊長」
「あっしら、一番厳しい戦いやってきたってぇのに、第一師団だけが美味しい思いをしてんじゃ割に合わねぇよ」
「……」
古参兵――ナッシュとグランドも、それぞれ不満のようだ。
正直俺としても、こんな命令を出した総将軍に対して、物申したい気持ちはある。
だけれど、仕方ないことなのだ。
「まぁ、今回の治安維持は、第一師団がやらなきゃ都合が悪いんだってよ」
「それはレインも理解しております。そもそも今回の戦において、第一師団と第二師団は役立たず極まりなかったですから。正直、隊長がいなければガーランド側の敗北で終わっていた可能性もあります」
「ああ。第一師団は、軍の中でも花形だからな。そんな第一師団が戦功なし、っていうのは都合が悪い。だから、アリオス王都の治安維持って形だけでも、戦功を欲しがってんだよ」
「だからってよぉ。おいしいとこだけかっ攫いやがって」
「仕方ねぇんだよ。第一師団は、貴族ばっかだからな」
はぁ、と大きく嘆息。
兵士でも、その出自が貴族か平民かによって所属する師団が変わる。
全部で十ある師団だが、そのうち第一、第七、第十の三つの師団に限っては、貴族令息の数が他の師団と桁違いになっているのだ。特に第一師団の『戦車隊』――最も安全な部隊は、その全員が貴族の次男や三男だというのだから驚きである。
そして貴族家の息子が入っている師団である以上、少なからず功績を立てさせておく必要があるのだ。貴族からすれば、「息子が活躍した」という報告を待っているのだから。
「けっ。同じ命がけの職場だってのに、お貴族さまはこれだからよぉ」
「ま、そう言うなグランド。飲め飲め」
「おっとっと……しかし、酒瓶は大量にくれたもんですねぇ」
「つまみに、肉も大量にあるぜ。デュラン総将軍からの差し入れだ。ま、実質今回の権利譲渡の代わりだよ。好きなだけ食って飲め、って言質は取ったから、全員倒れるまで飲みな」
「ひゃっほぉ! そうだったんすか!」
悪い報告があれば、いい報告もまたある。
治安維持を第一師団にやらせる――その命令を聞いたマティルダ師団長が、デュラン総将軍を問い詰めたのだ。あまりにも、それは理不尽ではなかろうか、と。
その結果、デュラン総将軍はアリオス王城にあった食料と酒瓶を、全部回収して城門前まで持ってきてくれた。そしてその食料も酒も、第三師団以外は近付くな、と厳命して。
まぁ、戦功を譲るには安い額だが、それでも戦場で好きなだけ肉を食って酒が飲めるというのは、そうそうない。
「さ、隊長。肉が焼けましたよ。レイン心を込めて焼きました」
「心を込めるより調味料かけてくれ。塩くれ塩」
「はい、お塩です」
焼きたての肉にかぶりついて、その脂を酒で流し込む。
ぷはぁっ、と思わず唸らずにはいられない。
「ささ、隊長。レインお酌しますので」
「おいおいレイン、飲んでんのか?」
「飲んでますよ。ただ、隊長のペースにはさすがについていけません」
「まぁ、好きなだけ食って飲め! これで戦争は終わりだ!」
がはは、と笑う。
戦勝の祝いに、酒と肉。俺に従ってくれてきた『切り込み隊』の隊員たちが、嬉しそうに笑う声。
これが、俺の最後の戦争。その最後を飾る酒宴。
そんな俺たちの宴は日が高いうちから日が沈むまで続き、再び日が昇るまで騒がしい声が止むことはなかった。
まず、俺が城門を開いて味方を招き入れ、第三師団が一気に王都の中へと突入してきた。ちなみに、門の近くに『切り込み隊』が数人いたらしく、内側から思い切り開いた鉄扉に激突して跳ね飛ばされたらしい。そのせいで、後からレインに怒られた。
そして瞬く間に王城を制圧し、王族を捕縛した。この捕縛にはレオナが関わっていたはずなのだが、恐らく王城に入ったマティルダ師団長と口裏を合わせていたのだろう。レオナの話はなく、第三師団で捕縛したことになっていた。
まぁ何にせよ、これで戦争は終わりということだ。
今後やっていくのは、後処理だけである。
「ふー……ようやく落ち着いたな」
アリオス王都、城門前。
将軍、ならびに軍人でも上層部にいる者は現在、王城にて色々調整をしているらしい。
だが俺たちのような一般兵には関係ない。しかし下手に兵士が徘徊していても住民が怖がる。かといって王城の中に全軍が入れるような場所はない。
結果的に、俺たちはアリオス王都の城門前――そこで野営して待機しているように、との指示が出た。ちなみに現在、王都の制圧と治安維持を行っているのは第一師団である。
「まったく……レイン、少しばかり怒り心頭です」
「少しなのか怒りまくってんのかどっちだよ」
「我々が、最も活躍したはずだというのに……」
「まぁ、俺たちは軍人だ。上が決めたことには従わなきゃいけねぇんだよ」
第三師団『切り込み隊』は現在、全員が城門の前にいる。
本来、先陣を切り突入した師団が、住民の慰撫と治安維持、ならびに制圧を行うのが常だ。
勿論、下手に住民たちを虐殺するとか、乱暴するとか、そんな真似はしない。そういうのは、ちゃんと軍規でやらないように徹底されてますから。うち犯罪とかそういうのしないんで。
ただ、中には住民が逃げ出し、空き家になっている場所もある。そういった場所から財産なり食料なり徴収するのは、あくまで治安維持の一環という形で認められているのだ。そして、この権利を主張できるのは、治安維持を行う部隊だけである。
今回の場合門扉を開いたのは俺だし、突入したのは『切り込み隊』である。
だから、その特権は間違いなく第三師団にあったはずだ。だというのに、総将軍からの命令で第三師団は城門前で待機し、第一師団が治安維持にあたるように命じられたのである。
レインが怒り心頭なのも、分からないではない。
火事場泥棒というわけではないけれど、治安維持の一環で懐に入る金額も、割と馬鹿にならない額ではあるのだ。
「そもそも、最大戦功は第三師団です。我々です。命がけで戦って竜尾谷を越えたのは我が軍ですし、今回の城攻めにおいても最も活躍したのは隊長です。それなのに、せっかくの特権を第一師団に奪われるのは、レイン業腹です」
「仕方ねぇだろ。将軍の命令なんだから」
「でもよぉ、さすがにワシらも納得できねぇぜ、隊長」
「あっしら、一番厳しい戦いやってきたってぇのに、第一師団だけが美味しい思いをしてんじゃ割に合わねぇよ」
「……」
古参兵――ナッシュとグランドも、それぞれ不満のようだ。
正直俺としても、こんな命令を出した総将軍に対して、物申したい気持ちはある。
だけれど、仕方ないことなのだ。
「まぁ、今回の治安維持は、第一師団がやらなきゃ都合が悪いんだってよ」
「それはレインも理解しております。そもそも今回の戦において、第一師団と第二師団は役立たず極まりなかったですから。正直、隊長がいなければガーランド側の敗北で終わっていた可能性もあります」
「ああ。第一師団は、軍の中でも花形だからな。そんな第一師団が戦功なし、っていうのは都合が悪い。だから、アリオス王都の治安維持って形だけでも、戦功を欲しがってんだよ」
「だからってよぉ。おいしいとこだけかっ攫いやがって」
「仕方ねぇんだよ。第一師団は、貴族ばっかだからな」
はぁ、と大きく嘆息。
兵士でも、その出自が貴族か平民かによって所属する師団が変わる。
全部で十ある師団だが、そのうち第一、第七、第十の三つの師団に限っては、貴族令息の数が他の師団と桁違いになっているのだ。特に第一師団の『戦車隊』――最も安全な部隊は、その全員が貴族の次男や三男だというのだから驚きである。
そして貴族家の息子が入っている師団である以上、少なからず功績を立てさせておく必要があるのだ。貴族からすれば、「息子が活躍した」という報告を待っているのだから。
「けっ。同じ命がけの職場だってのに、お貴族さまはこれだからよぉ」
「ま、そう言うなグランド。飲め飲め」
「おっとっと……しかし、酒瓶は大量にくれたもんですねぇ」
「つまみに、肉も大量にあるぜ。デュラン総将軍からの差し入れだ。ま、実質今回の権利譲渡の代わりだよ。好きなだけ食って飲め、って言質は取ったから、全員倒れるまで飲みな」
「ひゃっほぉ! そうだったんすか!」
悪い報告があれば、いい報告もまたある。
治安維持を第一師団にやらせる――その命令を聞いたマティルダ師団長が、デュラン総将軍を問い詰めたのだ。あまりにも、それは理不尽ではなかろうか、と。
その結果、デュラン総将軍はアリオス王城にあった食料と酒瓶を、全部回収して城門前まで持ってきてくれた。そしてその食料も酒も、第三師団以外は近付くな、と厳命して。
まぁ、戦功を譲るには安い額だが、それでも戦場で好きなだけ肉を食って酒が飲めるというのは、そうそうない。
「さ、隊長。肉が焼けましたよ。レイン心を込めて焼きました」
「心を込めるより調味料かけてくれ。塩くれ塩」
「はい、お塩です」
焼きたての肉にかぶりついて、その脂を酒で流し込む。
ぷはぁっ、と思わず唸らずにはいられない。
「ささ、隊長。レインお酌しますので」
「おいおいレイン、飲んでんのか?」
「飲んでますよ。ただ、隊長のペースにはさすがについていけません」
「まぁ、好きなだけ食って飲め! これで戦争は終わりだ!」
がはは、と笑う。
戦勝の祝いに、酒と肉。俺に従ってくれてきた『切り込み隊』の隊員たちが、嬉しそうに笑う声。
これが、俺の最後の戦争。その最後を飾る酒宴。
そんな俺たちの宴は日が高いうちから日が沈むまで続き、再び日が昇るまで騒がしい声が止むことはなかった。
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