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結婚報告
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「隊長! お疲れ様です!」
「うす! 隊長!」
「今日も筋肉イケてますね、隊長!」
「隊長のご帰還だー!」
「おう、今戻ったぞ!」
帝都の軍宿舎。
基本的に、一大隊あたりに一つの宿舎が充てられるここは、俺と俺の率いる『切り込み隊』が寝泊まりする場所だ。あとは基礎的な訓練をしたりだとか、夜にはぱーっと酒を飲んだりすることもある。
宮廷に程近い軍部から戻ってきた俺を、部下たちが食堂で歓迎してくれた。
どうやら既にある程度酒が入っているらしい。くそ、俺が戻るまで待っていろよ。俺一応上官なのに。
「あー、お前ら、ちょっと伝えとかなきゃいけないことがある」
「どうしたんですかー?」
ざわざわと、好き勝手に酒を飲んでいた大隊の連中を、俺に向けさせる。
とりあえず、どっちから話そうか。
やっぱりここは、最初は自慢って決まってるよな。
「皆、よく聞いてくれ」
「うす」
「俺は結婚することになった!」
「えぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」
千人の兵士たちの叫びが、食堂に響き渡る。そんなに驚くことかよ。そんなにも俺の結婚ってサプライズかよ。
次々に、俺に向けて詰め寄ってくる兵士たち。
「ど、どういうことすか!? 隊長が結婚!?」
「お相手は誰なんすか!? 色町の子!?」
「あの、隊長……多分色町の子には、遊ばれてるだけだと思うっすよ……」
「新手の詐欺とかじゃないすか?」
「隊長は、男が好きだとばかり思ってたっす!」
「変な壺、売りつけられてません?」
「あー、でも隊長見た目アレだけど年収はいいから……」
「金目当てっすね! 金!」
「落ち着けお前らぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
一喝。
物凄く失礼なことを言ってくる連中に、俺の堪忍袋の緒は切れそうだよ。詐欺とか壺とか金目当てとか色町の子とか、なんでそういう発想しかできないかな。あと、男が好きは絶対にない。
こほん、と咳払いが響く。それは一喝した俺ではなく、ぱんぱんと手を叩いて場を収めようとしている副官だった。
「はい皆さん、まずは着席」
「で、でもレインさん! 隊長が結婚とか言ってんですよ!?」
「隊長だって結婚適齢期ですから、そういった相手がいても不思議ではないでしょう。いや、レイン驚いて言葉を失ってしまいましたが。まさか隊長のような顔面ゴリラにそんなお相手が見つかるとは」
「何気に酷いな、お前」
傷つくぞ、俺。
まぁ、そんな風に俺の心を深く抉ってくるのは、副官のレイン・アモットだ。眼鏡をかけた、気の強そうな顔立ちをした女子である。下級ではあるが貴族家の出自で、姓を持っている。平民出身の俺と違って、ちゃんと教育を受けてきた軍人であるから、基本的な作戦とかは全部レイン任せだ。
ちなみに、俺はほとんど字が書けないから、報告書の類も全部レインに任せていたりする。手伝うと言っても、「これはレインの仕事ですので」って頑ななんだよな。『切り込み隊』、ブラックじゃないのに。
レインはそんな俺に、大きく溜息を吐いた。
「それで隊長、お相手は誰なんですか?」
「ああ、故郷の幼馴染だ」
「それなら、詐欺というわけではなさそうですね。レイン安心しました」
「何がだよ」
ジュリアのこと、そんな失礼な奴に思うんじゃないよ。
まぁ確かに俺、もてる顔はしていない。世の中のイケメンと比べれば、俺を選ぶ女子はいないと思う。悲しい事実だが。
だから今回、ジュリアが結婚を承諾してくれたのも、本当に奇跡だと思っている。この奇跡、逃しちゃならねぇ。
「それで、だ。俺は……結婚して、故郷に戻ろうと思っている」
「えっ……!」
「隊長、まさか……!?」
「ああ……除隊だ。今後はジュリアと……妻と一緒に、余生を過ごしていきたい」
うわぁ、妻とか言っちゃった。言っちゃったよ俺。やっべ、すんげぇ恥ずかしい。きゃー。
口のニマニマが止まってくれない。もうジュリアとの未来予想図を描くたびに、俺の興奮は閾値をあっさり越えてくる。
だがそんな俺に対して、兵士たちの顔は一様に沈んでいた。
まぁ、俺みたいなやりやすい隊長が除隊するのは、寂しいんだろうな。うち暴力とかハラスメントとか、そういうのないので。
「なるほど……まずは隊長、おめでとうございます。レイン心より祝福いたします」
「ああ、ありがとう」
「ですが、除隊……具体的には、いつの時点で除隊されるのですか?」
「それが、少しばかり問題があってな」
レインの言葉に対して、腕を組む。
そして、大きく溜息を吐いた。
「これはまだ、将軍が俺にだけ教えてくれた情報だ。まぁ、俺が皆に伝えることは将軍も承知のはずだが、あまりみだりに周りに話すな」
「うす」
「近々、大規模作戦が決行される。その詳細までは聞いていないが、かなりの規模になるだろう、とのことだ」
「おぉぉ……!!」
兵士たちの表情に、やる気が芽生えていく。
俺が大隊長になってからずっと、共に戦場を駆けてきた戦友たちだ。『切り込み隊』なんて物騒な部隊に所属しているこいつらは、一様にして戦闘狂である。大規模作戦となれば、乗り気になる奴ばかりなのだろう。
残念ながら俺は、大規模作戦なんて早く終わらせて帰りたい気持ちでいっぱいだが。
「なるほど、大規模作戦……隊長は、それに参加されるのですね?」
「ああ。俺が参加することは、事前に決まっていたらしい。最後の務めを果たせ、と将軍からも檄を受けた」
「レイン承知いたしました。では、内容が決まり次第、作戦立案をさせていただきます」
「ああ、任せる。と、いうわけだ!」
俺はレインにそう頷いて、連中と同じく酒杯を手にした。
今日は、祝いの日だ。俺の結婚、そして除隊、両方が決まった特別な記念日だ。
今日という日を、心から祝おう!
「戦争が始まったら、大暴れしてやろうぜ!」
「おう!!!」
「そして、俺は戦争が終わったら結婚だ!」
「おめでとうございまーすっ!!」
部下たちと共に、酒を飲む。そんな幸せに耽る。
こんな日々も、これから訪れる穏やかな日常では、もう訪れてくれないんだ。
そう思うと、少しばかり寂しい気もするけれど。
そんな俺から僅かに離れた位置で、レインもまた酒杯を傾けていた。
何故か、「そんな相手がいるなんて、レイン聞いてませんよ……」などと呟きながら。
「うす! 隊長!」
「今日も筋肉イケてますね、隊長!」
「隊長のご帰還だー!」
「おう、今戻ったぞ!」
帝都の軍宿舎。
基本的に、一大隊あたりに一つの宿舎が充てられるここは、俺と俺の率いる『切り込み隊』が寝泊まりする場所だ。あとは基礎的な訓練をしたりだとか、夜にはぱーっと酒を飲んだりすることもある。
宮廷に程近い軍部から戻ってきた俺を、部下たちが食堂で歓迎してくれた。
どうやら既にある程度酒が入っているらしい。くそ、俺が戻るまで待っていろよ。俺一応上官なのに。
「あー、お前ら、ちょっと伝えとかなきゃいけないことがある」
「どうしたんですかー?」
ざわざわと、好き勝手に酒を飲んでいた大隊の連中を、俺に向けさせる。
とりあえず、どっちから話そうか。
やっぱりここは、最初は自慢って決まってるよな。
「皆、よく聞いてくれ」
「うす」
「俺は結婚することになった!」
「えぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」
千人の兵士たちの叫びが、食堂に響き渡る。そんなに驚くことかよ。そんなにも俺の結婚ってサプライズかよ。
次々に、俺に向けて詰め寄ってくる兵士たち。
「ど、どういうことすか!? 隊長が結婚!?」
「お相手は誰なんすか!? 色町の子!?」
「あの、隊長……多分色町の子には、遊ばれてるだけだと思うっすよ……」
「新手の詐欺とかじゃないすか?」
「隊長は、男が好きだとばかり思ってたっす!」
「変な壺、売りつけられてません?」
「あー、でも隊長見た目アレだけど年収はいいから……」
「金目当てっすね! 金!」
「落ち着けお前らぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
一喝。
物凄く失礼なことを言ってくる連中に、俺の堪忍袋の緒は切れそうだよ。詐欺とか壺とか金目当てとか色町の子とか、なんでそういう発想しかできないかな。あと、男が好きは絶対にない。
こほん、と咳払いが響く。それは一喝した俺ではなく、ぱんぱんと手を叩いて場を収めようとしている副官だった。
「はい皆さん、まずは着席」
「で、でもレインさん! 隊長が結婚とか言ってんですよ!?」
「隊長だって結婚適齢期ですから、そういった相手がいても不思議ではないでしょう。いや、レイン驚いて言葉を失ってしまいましたが。まさか隊長のような顔面ゴリラにそんなお相手が見つかるとは」
「何気に酷いな、お前」
傷つくぞ、俺。
まぁ、そんな風に俺の心を深く抉ってくるのは、副官のレイン・アモットだ。眼鏡をかけた、気の強そうな顔立ちをした女子である。下級ではあるが貴族家の出自で、姓を持っている。平民出身の俺と違って、ちゃんと教育を受けてきた軍人であるから、基本的な作戦とかは全部レイン任せだ。
ちなみに、俺はほとんど字が書けないから、報告書の類も全部レインに任せていたりする。手伝うと言っても、「これはレインの仕事ですので」って頑ななんだよな。『切り込み隊』、ブラックじゃないのに。
レインはそんな俺に、大きく溜息を吐いた。
「それで隊長、お相手は誰なんですか?」
「ああ、故郷の幼馴染だ」
「それなら、詐欺というわけではなさそうですね。レイン安心しました」
「何がだよ」
ジュリアのこと、そんな失礼な奴に思うんじゃないよ。
まぁ確かに俺、もてる顔はしていない。世の中のイケメンと比べれば、俺を選ぶ女子はいないと思う。悲しい事実だが。
だから今回、ジュリアが結婚を承諾してくれたのも、本当に奇跡だと思っている。この奇跡、逃しちゃならねぇ。
「それで、だ。俺は……結婚して、故郷に戻ろうと思っている」
「えっ……!」
「隊長、まさか……!?」
「ああ……除隊だ。今後はジュリアと……妻と一緒に、余生を過ごしていきたい」
うわぁ、妻とか言っちゃった。言っちゃったよ俺。やっべ、すんげぇ恥ずかしい。きゃー。
口のニマニマが止まってくれない。もうジュリアとの未来予想図を描くたびに、俺の興奮は閾値をあっさり越えてくる。
だがそんな俺に対して、兵士たちの顔は一様に沈んでいた。
まぁ、俺みたいなやりやすい隊長が除隊するのは、寂しいんだろうな。うち暴力とかハラスメントとか、そういうのないので。
「なるほど……まずは隊長、おめでとうございます。レイン心より祝福いたします」
「ああ、ありがとう」
「ですが、除隊……具体的には、いつの時点で除隊されるのですか?」
「それが、少しばかり問題があってな」
レインの言葉に対して、腕を組む。
そして、大きく溜息を吐いた。
「これはまだ、将軍が俺にだけ教えてくれた情報だ。まぁ、俺が皆に伝えることは将軍も承知のはずだが、あまりみだりに周りに話すな」
「うす」
「近々、大規模作戦が決行される。その詳細までは聞いていないが、かなりの規模になるだろう、とのことだ」
「おぉぉ……!!」
兵士たちの表情に、やる気が芽生えていく。
俺が大隊長になってからずっと、共に戦場を駆けてきた戦友たちだ。『切り込み隊』なんて物騒な部隊に所属しているこいつらは、一様にして戦闘狂である。大規模作戦となれば、乗り気になる奴ばかりなのだろう。
残念ながら俺は、大規模作戦なんて早く終わらせて帰りたい気持ちでいっぱいだが。
「なるほど、大規模作戦……隊長は、それに参加されるのですね?」
「ああ。俺が参加することは、事前に決まっていたらしい。最後の務めを果たせ、と将軍からも檄を受けた」
「レイン承知いたしました。では、内容が決まり次第、作戦立案をさせていただきます」
「ああ、任せる。と、いうわけだ!」
俺はレインにそう頷いて、連中と同じく酒杯を手にした。
今日は、祝いの日だ。俺の結婚、そして除隊、両方が決まった特別な記念日だ。
今日という日を、心から祝おう!
「戦争が始まったら、大暴れしてやろうぜ!」
「おう!!!」
「そして、俺は戦争が終わったら結婚だ!」
「おめでとうございまーすっ!!」
部下たちと共に、酒を飲む。そんな幸せに耽る。
こんな日々も、これから訪れる穏やかな日常では、もう訪れてくれないんだ。
そう思うと、少しばかり寂しい気もするけれど。
そんな俺から僅かに離れた位置で、レインもまた酒杯を傾けていた。
何故か、「そんな相手がいるなんて、レイン聞いてませんよ……」などと呟きながら。
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