精霊宿る人々の有り様

ネミルラ

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⑥ 精霊に恵まれた英雄の有り様

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 校舎内の廊下で渡辺わたなべ いつきから「つむぎを見なかったか」って聞かれた私は素直に「知らない」って答えた。
 残念そうに「そうか」って呟いた樹の様子から紬と交友がある私から、なにか有益な情報を得られるんじゃないかって期待をしていた感じだ。
 「時間だけはあるのに、役に立ちませんね」なんて言葉で私に八つ当たりした樹は私からの反撃を待たず早々に立ち去った。まあ、反撃する気なんてないけど。
 頻繁に人助けをしている紬をすぐに見つけられる人は殆どいないと思う。そんな紬を必死に探している樹の姿を見て邪魔したいと私は思わない。私は不良だけど、誰かを陥れたいって気持ちはないから。


 樹が探している高橋たかはし つむぎは樹の同級生で可愛らしい女の子だ。

 真面目に授業を受けている国立霊能高等学校こくりつれいのうこうとうがっこの3年生。その中でも一番霊力が高い紬は武人ぶじんを目指し、熱心に鍛錬している姿や困った人を見捨てない善良さは沢山の人から高い評価を得ている。私もその中の一人だ。

 紬は私が怠惰な女王って蔑称を持つサボりの常習者でも、話しかけてくる変わった価値観の持ち主だ。紬が言うには『私と貴女が話してはいけない決まりは無いから』って理由らしい。
 不良と交友する事で『同類だ』って一括りにされるリスクを軽んじて孤独な私と世間話をするのは、他者からの評価を重んじない紬の価値観が原因なんだろうか。

 霊力が抜きんでて高いって事は人々から期待や恐怖を抱かれる。
 私のお父さんは、私の霊力が高いってことを不幸だって考えていた感じだけど、普通は『偉業を成せるかも』って喜ぶらしいから、私のお父さんは変わり者なんだろう。
 でもお父さんの言い分は分かる。だって私は他者ひとの為に高い霊力を使うべきって大義を押し付けられたから。その期待に応えなかったら、いつの間にか期待されなくなった代わりに、愚か者って言われるようになったけど。
 それから『機嫌を損ねて、攻撃されないか』なんて不安を抱かれているのか、先輩からも畏まった態度で接しられる事は珍しくなくなってしまった。

 色々あって、私は霊力が高いって事を好ましく思わなくなってしまったけど、紬は違う。紬は『助けたいって思ったら助ける』って感じだ。
 紬は、事情があって救わなかった、否、救えなかった人から八つ当たりされても、救った人から感謝されなくても、救うことを辞めたって話を聞いた事が無いし、見た事もない。まあ、私が知る限りなんだけど。
 国立霊能高等学校このがっこうに紬が入学してから、その姿を目で追ってしまう私が思うんだから、間違っていないと思う。

 紬は金田かねだ教授に似ている所があるって私は思う。金田教授は現実と理想のズレが少ない。紬も同じで、ズレが少ないから、私の様に『助けたら感謝される』なんて期待をしていないのかなって思う。
 そもそも、私自身が『他者ひとから感謝されて自己じぶんを満足させるっていう邪な動機で善行を行っていた』んだから『人はみんな善人だ』なんて理屈は成り立たないのに、私は人と人が助け合う夢物語の様な理想郷を追ってしまう馬鹿者だ。
 二人はそんな私と違って現実を現実的に見ている。

 現実と理想の乖離。それが私を大人に成長させない所以。私が幼稚で稚拙で怠惰なサボりをしている大きな要因なのかなって思う。でも、そんな事を考えても、理想と現実の距離は変わらない。

 私は何時、大人になれるのかな。紬や金田教授の様に。
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