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第5章 堕天使は聖教徒教会の
30話8Part 宣戦布告⑧
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「......ありがとうございます♪」
「あ゛っ......」
「お仲間と、天国......いや、冥府で仲良くお過ごし下さいな」
或斗は騎士の胸に刃こぼれしていない綺麗な短剣をすっと刺して手を合わせてから、館を後にしたのだった。
......しかし、館を出て聖火崎との待ち合わせ場所である離屋敷に移動するべく敷地内にある森を進んでいる最中も、心中はずっと落ち着かなかった。
「......なんで、アズライールが......」
騎士曰く、彼の上......皇国政府、もしくは聖教徒教会のどちらかの関係者にアズライールがいるらしい。
思えば、或斗にはこの事に気づくタイミングが先程、1度だけ訪れていたのだ。
『こないだ、東京湾でガルダ、レヴィアタンと戦った時に私達の邪魔してきた、あんたにめちゃくちゃ似てた奴は誰?』
そう、或斗は聖火崎に訊ねられた時の事だ。今日、家にいた、あの時。
主人である瑠凪も昼前ぐらいから出かけて、沙流川は諸事情によりずっと家には帰ってきていない。
そんな日の午後に聖火崎がいきなり訪ねてきて質問してきたので、色々の説明を或斗はしてやった。
異才の事、或斗のガルダの異空間にいたときの見た目の事、そして......
「アズライール......」
アズライール......もとい、東京湾にてガルダ達と戦っていた聖火崎達の邪魔をしてきたらしい、或斗によく似た天使の事。
邪魔された時の事を見ていた訳ではないので一瞬戸惑ったが、自分に似ている、なんて言われるような天使は1人しか心当たりがなかったので、或斗はその1人について話をした。それがアズライールだ。
2人だけの秘密を抱えて、或斗が幼い頃に出会ってそれ以降ずっと一緒にいた兄弟同然の親友の。
「......」
......聖火崎には語らなかったが、そんな親友に或斗は8000年以上も前に別れてから1度も会っていなかった。
9000年ほど前、天兵の養成施設を卒業した後、その1個上の訓練施設......日本で言うところの高校のような、そんな感じの場所に通う事になった。
2人共、元から法術や翼による飛行の才能がなかったり、頭が悪かった訳ではなかった。
あの"成り代わり"から他の天使達同様に法術訓練や飛行訓練に出るようになって以降、落第生扱いどころか、寧ろ成績優秀者のみが選ばれる"特待生"に選ばれた。
訓練時間外に睡眠時間やら色々の時間を削って法術基礎や飛行技能、基礎知識その他諸々を必死で磨きあった結果の特待生......
故に、施設長の元に呼ばれ、選ばれたと聞かされた時は2人で部屋で騒ぎまくって、翌朝他の訓練生達から小言を言われたのはいい思い出だ。
天界における特待生は授業料免除や奨学金等ではなく、施設卒業後は直ぐに8大天使のお付だったり何かしらの部門のトップ代理だったり......日本の職業で例えれば高卒後に国家公務員に確実になれるような、そんなエリートコース行きの確約がなされる訓練生だった。
だが、
「......俺は要人警護の部門に、アズライールは天軍練兵の部門に......」
特待生となって約10年後、第2学部に進級する際の訓練生の部門分けが行われた時だった。
或斗はお偉いさん方の護衛として働く技能を学ぶ部門に、アズライールは天界の軍にて軍人として働く技能を学ぶ部門に......と、別の部門に通う事になってしまった。
自身が通う部門は希望できる訳ではないため、嫌々ながらも出世コースを逃すのは痛いので2人は通う事に決めたのだった。
スケジュールだけで見れば部屋にいる時と基礎知識、戦闘基礎の訓練時のみ顔を合わせる仲になった2人だが、実際は部屋でお互いが寝る前の5分ほど......
お風呂に入ってから、少しベッドに横になってぼーっとする時間だけが2人が共にいられる自由時間だった。
基礎知識の授業にはアズライールは出てこないし、戦闘基礎の訓練時は忙しくてゆっくり話したりする暇なんてない。
放課後も特待生だからと訓練生を纏める役だったり色々な係を任されて、部屋にいる時間なんて五分ぐらいしか存在しない。
その5分ですら、1日のみっちりスケジュールと苛烈な訓練でへとへとになって、疲労からうまく働かない頭でようやっと入浴を済ませてから、ベッドの上でうつらうつらとしている5分間だ。
......とてもじゃないが、ゆっくり談笑できるような状態ではなかった。
「......」
そして、同期の天使達と共に第3学部の学位を取得する時、2人とほか数名の特待生や委員会所属だったりの訓練生が施設長の部屋に呼ばれた。
その際に、
「......異才を授ける、か......」
ユグドラシルの果実の中でも別段出来がいいものを、種子ごと食べるように言われ、指示通りに種子も飲み込んだ或斗、アズライール、他数名の訓練生は異才を手に入れたのだ。
その際に目は個々の神気受容量に合わせて濃淡のある黄色の瞳に変わり、異才を授けられなかった他の訓練生達は一生解けない法術にて目の色を同じように黄色に染めた。
その結果、全員の天使の目が黄色い、という現象が起きているのだ。
そんな天界で施設卒業から10年後に、或斗とアズライールは完全に別個の場所で働くようになった。
とはいっても、施設に通っていた訓練生時代よりもずっと共にいる時間が取れたので、2人で部屋でゆっくりしながら話す、という1番欲しかった時間を取る事ができる日々に、2人共とても満足していたのだが......
......そんな時に起こったのが、或斗の上司である瑠凪......ルシファーの堕天騒動だった。
ルシファーのお付として働いていた或斗は、"堕天したい"というルシファーの思いを前々から聞いていたために、天界の天使達に"どうして止めなかった"や"お前がついていながら......"としつこく付き纏われては散々訊ねられ、
「......」
今、自分が部屋に戻って、自分と仲のいいアズライールまでしつこく尋問されるような事があっては駄目だ、彼に迷惑をかける訳にもいかない......と、或斗も堕天を決意して、ルシファーの後を追って天界から飛び出したのだ。
「......、いだっ」
色々悶々と考えていると、或斗の額にそこそこ太い枝がゴンッ!!と鈍い音を立てながら当たってきた。
「痛......くない......」
かなり急いで走っていた事もあって、先程の枝は折れてしまっているし、或斗の額からはやけに明るい色のどろっとした血が垂れてきている。
額に手を当てて、その次に傷を強く押してみて、額に強く押される感覚しかない事を確認して、或斗は安堵した。
─────────────To Be Continued─────────────
「あ゛っ......」
「お仲間と、天国......いや、冥府で仲良くお過ごし下さいな」
或斗は騎士の胸に刃こぼれしていない綺麗な短剣をすっと刺して手を合わせてから、館を後にしたのだった。
......しかし、館を出て聖火崎との待ち合わせ場所である離屋敷に移動するべく敷地内にある森を進んでいる最中も、心中はずっと落ち着かなかった。
「......なんで、アズライールが......」
騎士曰く、彼の上......皇国政府、もしくは聖教徒教会のどちらかの関係者にアズライールがいるらしい。
思えば、或斗にはこの事に気づくタイミングが先程、1度だけ訪れていたのだ。
『こないだ、東京湾でガルダ、レヴィアタンと戦った時に私達の邪魔してきた、あんたにめちゃくちゃ似てた奴は誰?』
そう、或斗は聖火崎に訊ねられた時の事だ。今日、家にいた、あの時。
主人である瑠凪も昼前ぐらいから出かけて、沙流川は諸事情によりずっと家には帰ってきていない。
そんな日の午後に聖火崎がいきなり訪ねてきて質問してきたので、色々の説明を或斗はしてやった。
異才の事、或斗のガルダの異空間にいたときの見た目の事、そして......
「アズライール......」
アズライール......もとい、東京湾にてガルダ達と戦っていた聖火崎達の邪魔をしてきたらしい、或斗によく似た天使の事。
邪魔された時の事を見ていた訳ではないので一瞬戸惑ったが、自分に似ている、なんて言われるような天使は1人しか心当たりがなかったので、或斗はその1人について話をした。それがアズライールだ。
2人だけの秘密を抱えて、或斗が幼い頃に出会ってそれ以降ずっと一緒にいた兄弟同然の親友の。
「......」
......聖火崎には語らなかったが、そんな親友に或斗は8000年以上も前に別れてから1度も会っていなかった。
9000年ほど前、天兵の養成施設を卒業した後、その1個上の訓練施設......日本で言うところの高校のような、そんな感じの場所に通う事になった。
2人共、元から法術や翼による飛行の才能がなかったり、頭が悪かった訳ではなかった。
あの"成り代わり"から他の天使達同様に法術訓練や飛行訓練に出るようになって以降、落第生扱いどころか、寧ろ成績優秀者のみが選ばれる"特待生"に選ばれた。
訓練時間外に睡眠時間やら色々の時間を削って法術基礎や飛行技能、基礎知識その他諸々を必死で磨きあった結果の特待生......
故に、施設長の元に呼ばれ、選ばれたと聞かされた時は2人で部屋で騒ぎまくって、翌朝他の訓練生達から小言を言われたのはいい思い出だ。
天界における特待生は授業料免除や奨学金等ではなく、施設卒業後は直ぐに8大天使のお付だったり何かしらの部門のトップ代理だったり......日本の職業で例えれば高卒後に国家公務員に確実になれるような、そんなエリートコース行きの確約がなされる訓練生だった。
だが、
「......俺は要人警護の部門に、アズライールは天軍練兵の部門に......」
特待生となって約10年後、第2学部に進級する際の訓練生の部門分けが行われた時だった。
或斗はお偉いさん方の護衛として働く技能を学ぶ部門に、アズライールは天界の軍にて軍人として働く技能を学ぶ部門に......と、別の部門に通う事になってしまった。
自身が通う部門は希望できる訳ではないため、嫌々ながらも出世コースを逃すのは痛いので2人は通う事に決めたのだった。
スケジュールだけで見れば部屋にいる時と基礎知識、戦闘基礎の訓練時のみ顔を合わせる仲になった2人だが、実際は部屋でお互いが寝る前の5分ほど......
お風呂に入ってから、少しベッドに横になってぼーっとする時間だけが2人が共にいられる自由時間だった。
基礎知識の授業にはアズライールは出てこないし、戦闘基礎の訓練時は忙しくてゆっくり話したりする暇なんてない。
放課後も特待生だからと訓練生を纏める役だったり色々な係を任されて、部屋にいる時間なんて五分ぐらいしか存在しない。
その5分ですら、1日のみっちりスケジュールと苛烈な訓練でへとへとになって、疲労からうまく働かない頭でようやっと入浴を済ませてから、ベッドの上でうつらうつらとしている5分間だ。
......とてもじゃないが、ゆっくり談笑できるような状態ではなかった。
「......」
そして、同期の天使達と共に第3学部の学位を取得する時、2人とほか数名の特待生や委員会所属だったりの訓練生が施設長の部屋に呼ばれた。
その際に、
「......異才を授ける、か......」
ユグドラシルの果実の中でも別段出来がいいものを、種子ごと食べるように言われ、指示通りに種子も飲み込んだ或斗、アズライール、他数名の訓練生は異才を手に入れたのだ。
その際に目は個々の神気受容量に合わせて濃淡のある黄色の瞳に変わり、異才を授けられなかった他の訓練生達は一生解けない法術にて目の色を同じように黄色に染めた。
その結果、全員の天使の目が黄色い、という現象が起きているのだ。
そんな天界で施設卒業から10年後に、或斗とアズライールは完全に別個の場所で働くようになった。
とはいっても、施設に通っていた訓練生時代よりもずっと共にいる時間が取れたので、2人で部屋でゆっくりしながら話す、という1番欲しかった時間を取る事ができる日々に、2人共とても満足していたのだが......
......そんな時に起こったのが、或斗の上司である瑠凪......ルシファーの堕天騒動だった。
ルシファーのお付として働いていた或斗は、"堕天したい"というルシファーの思いを前々から聞いていたために、天界の天使達に"どうして止めなかった"や"お前がついていながら......"としつこく付き纏われては散々訊ねられ、
「......」
今、自分が部屋に戻って、自分と仲のいいアズライールまでしつこく尋問されるような事があっては駄目だ、彼に迷惑をかける訳にもいかない......と、或斗も堕天を決意して、ルシファーの後を追って天界から飛び出したのだ。
「......、いだっ」
色々悶々と考えていると、或斗の額にそこそこ太い枝がゴンッ!!と鈍い音を立てながら当たってきた。
「痛......くない......」
かなり急いで走っていた事もあって、先程の枝は折れてしまっているし、或斗の額からはやけに明るい色のどろっとした血が垂れてきている。
額に手を当てて、その次に傷を強く押してみて、額に強く押される感覚しかない事を確認して、或斗は安堵した。
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