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第4章 (元)魔王と勇者の憩場に

22話2Part 異世界生物達の日常②

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「ねーねー或斗!このハンバーグ美味しい!!」

「ふん、当たり前だ」


 そして......場面は再び緑丘宅へ。葵雲のきらきらした瞳から飛んでくる期待と喜びの視線、それと同時に出された言葉に、或斗は或斗は鼻で笑った割にはいたく自慢げだ。

 部屋の中で各々は、みしみしと軋む床と傷と汚れだらけの壁を気にせず騒いでいる。開始から1時間ほど経って一通り飯を食べ終え、各々好きなことをしている中で、再び聖火崎が高らかに声を上げた。


「ほいじゃー、皆で王様ゲームするわよー!!」

「準備は俺がしておきました。主様がやると盛り上がるだろうって仰っていたので、用意はしておきました。聖火崎は野生児で、声が響きやすい野太いものなので、呼び掛けはお願いしたんです」

「なんか貶されたけど皆でやるわよー!!」


 聖火崎の呼び掛けを受けて、望桜、的李、鐘音、帝亜羅、瑠凪、聖火崎、葵雲、梓が、部屋中央のテーブルに集まってきた。


「なあ、料理の支度も或斗がやったんだよな?」

「はい。俺がやりました」

「......お前、働き者だなー。瑠凪のためならなんでもするって感じがする。んで、なんでトナカイの仮装してるんだ?雰囲気を瑠凪に寄せるためか?」


 そう望桜が訊ねると、或斗はふふん、と鼻で笑いつつ少し溜めて答えた。


「......トナカイは、サンタの下僕なんですよね?」

「......ん?」


 え、ちょっと今不謹慎な言葉が聞こえたんだが......と小首を傾げる望桜を他所に、或斗は続ける。


「俺は、主様の下僕ですから!!」

「あーそういうことか!!」

「ちょっとやめてよ!!僕が性格悪い人みたいじゃんか!!あと望桜は会心するな!!」


 或斗の誇らしげな回答に望桜は手を打って納得し、瑠凪からは抗議の声が飛んできた。しかし或斗はそんな講義の声に不満を顕にしている。


「そんな、主様は性格が悪い人なんかじゃありません!!ちょっと天邪鬼なだけです!!」

「フォローじゃないからなそれ!!もうちょっと歯に衣着せろ!!」

「素直になれないだけなんです!!」

「っ......もう何も言うなよお前!!」


 不機嫌全開の或斗の言葉に、瑠凪も必死で反抗する。しかし、その言い争いを続けるのは、きっといつかの墓穴を掘る事になるだろうと咄嗟に感じ、一瞬息を詰まらせながらも或斗の口を塞いだ。


「可愛いなぁ......」

「可愛いって言うな!!」


 そしてついでに(本人にとってはついでではないかもしれないが)、望桜の口も塞ぎにかかった。


「ほーらほら、イチャイチャしてないでさっさとやるわよっ!」

「あ、俺は他の用意があるので参加できないです。申し訳ありません」

「そーなのか!とりまやるぞー!」


 ......と、テンション高めにはやってはみたものの、初めは皆あまり乗り気ではなかった。しかし、帝亜羅が王様になり1番と5番に即席一発ギャグをやらせたり、鐘音が王様になって3番にネットで出した恥ずかしい台詞を言わせたりしているうちに、いつしか皆、


「やっった!!今回は私が王様ねっ!!」

「マジか!!命の危険を感じるぜ......!」


 と、こんな様子の聖火崎と望桜と同じように、本気で遊びに興じ始めた。もうゲームに参加している全員が全員、目がマジである。


「それじゃ早速命令させてもらうわね!!2番と3番!!私と決闘なさい!!命懸けの、血を血で洗う決闘をっ!!」


 聖火崎から堂々と下された命令に、皆の反応は様々だ。しかしそんな中に、指定された番号ではないのに、何故か慌てる少女が1人。


「え、た、聖火崎さん!?」


 ふわふわくせっ毛のハーフアップツインテールのしっぽをひょんひょんと揺らしながら、何故か顔を真っ青にしている。


「え、どうしたの帝亜羅ちゃん。顔、絵に書いたように真っ青よ?」

「え、だ、だって今、け、け、け、決闘って......」


 わなわなと震えながら、心配そうに顔を覗き込む聖火崎に、つっかえつっかえながら蒼白のままそう言った。


「別に大したことじゃないわよ?簡単な勝負をするだけだから。......ね、葵雲、的李?」

「うん、そーだよ!」

「あまり手間はかけさせないでくれ給えよ」

「は、はわ、はわわ......」


 大粒の汗を流しながら焦る帝亜羅に、一同は、何で?と頭上に疑問符を浮かべながら彼女の方を見つめる他できなかった。本当に何であんな反応をしているのか、分からなかったからだ。

 しかし、帝亜羅はそんなことは露知らず、ただただ頭の中で走馬灯のように流れる昔の記憶とこれから起こる、絶対に阻止しなければならない事の想像を冷や汗を流しつつ静かに確認している。

 ......た、聖火崎さん達は、仮にも異世界の生物なんだよね、わ、私達日本人からは想像できないくらいの強大な力を持った......そう考える帝亜羅の頭の中では、いつの日かの屋上での戦闘や、聖剣と天使の剣がぶつかり合う激闘と並ぶか、それ以上の戦闘の様子が繰り広げられていた。

 まあ、そう考えれば帝亜羅が顔面蒼白になるのは理にかなっているといえるであろう。本来なら、帝亜羅は経験しなかったであろう、トラウマレベルの出来事に数回は巻き込まれているのだから。

 とはいえ、この2人の言う"決闘"の意味について帝亜羅以外の皆は、履き違えずに、聖火崎の言った通りの意味で覚えている。


「っさー!こいつで勝負するわよ!!」

「おー!」

「お、おー......」

「......へ?」


 聖火崎の元気の良い声と共に、乗り気な葵雲とそれが何かよくわかっていない的李の目の前、そして帝亜羅の視界内に差し出されたのは、"大乱戦ショックシスターズ"という、複数人でプレイできるゲームソフトであった。


「ささっ、やるわよーやるわよー!」


 そう言いつつ聖火崎はテレビの前に、葵雲と的李を連れて移動している。それに野次馬も着いていく。


「やっぱり野生児、血気盛んなことで」

「うっさい黙れー」


 しれっと準備していた瑠凪に軽く毒づかれそれを耳を手でぽすぽすと叩きながら、「あーあー、聞こえなーい聞こえなーい」とコントローラーで当たり判定や操作確認をしている。

 1人唖然とする帝亜羅の視界内は、頭の中で繰り広げられた血みどろの重苦しく辛い景色とは真逆の、色とりどりの装飾で飾られた部屋の中で皆が楽しそうにゲームをプレイしたり、している様子を眺めたりしている景色が広がっていた。

 そして数分間の戦闘が終了し、案の定敗北した的李は、やはりゲームの操作方法や意味がよく分かっていなかったようで小首を傾げているが、それなりに悔しそうだ。


「やったー!!ドン勝だ!!」


 そう言って手放しで喜ぶ葵雲に、聖火崎は負け惜しみともとれる鋭い視線をしらーっとした半開きの瞳から送っている。

 その横で、的李は未だに小首を傾げていた。先程まで聖火崎に使われていた体温で温められた生暖かいコントローラーを、まるで目の前に超絶プリティBBAなぷるんっぷるんの未確認色んな意味で生命体恐怖な何かが現れたかのように、忌々しげに眺めている。


「それ別のゲームよ!!ったく......にしても、流石はアウトドア系ネット廃人、機械に慣れてるわね」


 聖火崎がそう葵雲に告げると、


「褒められてんのか貶されてんのか分かんないよおー!っていうかネット廃人じゃないしあうとどあ系でもなっ......あうとどあってなに?」


 と言いつつ、的李と同じように頭上に疑問符を浮かべ始めた。


「東海道新幹線の線路に沿って一日中走りに行ったり、わざわざ隣県のスーパーまでお菓子を買いに行くような奴のことよ」

「ほえー!なら僕アウトドア系だ!!」

「それで納得するんかい」


 聖火崎が正しいけれど少しずれた"アウトドア"に関する説明を簡単にしてやると、葵雲はぱっと顔を上げて聖火崎の方に視線を移し、理解したよっと声を上げる。

 皆が2人の会話を聞いて各々の反応を示したあと、蜘蛛の子を散らすように皆それぞれのポジションに戻っていった。その頃には的李は不思議そうにはしておらず、大人びた雰囲気をまとう彼らしくない、ぐずついた曇天のような表情を浮かべて、毛布を被って小さくなっていた。


「にしても、的李さんって機械音痴なんですね。な、なんか、色々なことをさらっとこなしてそうってイメージがあったから、ちょっとびっくりです」

「傷口に天然塩を刷り込むのはやめてくれ給え......」

「あ、す、すみません」


 帝亜羅からの指摘(?)を受けて、的李はますます縮こまる。聖火崎に負けたのがそんなに悔しかったのかぁ......2人の短い会話を傍目から見ていた望桜は、咄嗟にそう思った。



 ──────────────To Be Continued─────────────
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