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第3章 (元)魔王と勇者は宇宙樹の種子と
19話4Part 戦闘やトラブルから一転、やっとゆっくり出来そうです!
しおりを挟む「っはあ~、落ち着く~......」
「疲れた時はやっぱ温泉だよな!」
......そして時刻は午後6時(ラグナロク現地時間)、瑠凪がカエレスイェスと別れてヴァルハラ=グラン·ギニョルに戻ってから約1時間程経った今、日本からやって来た男子勢+αは母屋内にある大浴場に入浴していた。
髪をお団子ヘアにしてまとめ頭にタオルを乗せている瑠凪の言葉に、望桜は相槌を打ってそのままお湯を見た。様々なイオンが混じって1つの温泉を作り出しているそれは、どこか硫黄の香りがする半透明の裏葉色をしている。
「ゆーて望桜は何もしてないよね!!あ!!ねーファフニール!」
「妾まだ病み上がりだかんね、配慮してくれないと困るんだかんね!」
「分かった!......あのねあのね、今日僕頑張ったから明日のお昼ご飯はハンバーグがいいな!」
「あ!おれもハンバーグたべたいぞ!!」
「雨弥も?良かったら一緒に明日いっぱい食べようね!!」
「そーだな!!」
「とりあえず分かった。明日の昼、最低2人分は用意しといてってたいしょーに伝えとけばいいね?」
「うんっ!!」
「やったー!!あしたのおひるはハンバーグだぞー!!」
元気ショタ組の響く声を聞きながら、鐘音は隅の方で1人女性用大浴場の事を気にしながら大人しく湯船に浸かっている。その横には晴瑠陽がおり、浸かったまま目を閉じぼーっとしている。
「......帝亜羅、大丈夫だったなら良かった......」
......今日の昼、また再び天界関連で殺されかけた帝亜羅。無事だったことに安堵する反面、"僕達と関わってると痛い目しか見ないから今後一切話しかけないで"とか言われてしまうかもと密かに心配なのだ。
帝亜羅の性格(臆病)上そういった事は言ってこなさそうだが、それ故に無理をさせてしまうかもという心配もある。いや、離れたい訳ではない、むしろお近づきに......と考えて自然と頬が紅潮するのをお湯に顔を沈めることでなんとか見られないようにしている。
帝亜羅の事を考えると自然と心臓の動機が上がっていく、一般的にいえばそれは間違いなく恋なのだが鐘音はまだ気づいていない。
「......あ~、いい眺めだな~」
そしてその真反対で温泉に浸かりながらわいのわいのしている男子勢を微笑ましそうに、そしてどこか邪なん考えを抱きながら眺めている。その視線に込められた意にどこか引きながらも瑠凪がこそ~っと横にやってきた。
「......あ、あのさ」
「ん?」
たじろぎながらもなんとか言葉を紡ぐその様子に鼻血を垂らしながらも、望桜はなんとか平常心のまま聞いている。限界は近い、しかし理性は今までで1番仕事している。まだ耐えられるはずだ。
「......昼間は、ありがと。ご飯代とか、その......色々」
「ふーん......俺にお礼言ってくれるなんて珍しいじゃねえか」
「あ、いや......世話になった、と思ってるから......だから......」
「......ん?」
「いや、だから......」
「......?」
そして望桜に何かを求めるように視線をちらちらとさせる瑠凪。しかしまだ分からないといった様子の望桜に、瑠凪は耐えかねて言いたい事を口にした。
「......朝の、約束は......まだ、続いてるだろ?だから......その......」
「あー!3日間のあれな!なら......今晩は或斗も混じえて、3人で寝たい」
......どうやら異世界(元)魔王様は、堕天使組を両手に抱えて寝てみたいそうで。なんとなく想像してた事と違った事を求められて若干戸惑う瑠凪だが、一応了承した。或斗には悪いが、このお願いは受けさせてもらう、受けざるを得ないと何故か思ってる自分がいるから。
しかし望桜のお願いを受けて1つ、瑠凪には疑問が浮かんだ。望桜の"中性男子好き"という趣味を知っているからこそ浮かんだのだが......
「......え、あ、分かった......でも、それなら葵雲にも声かければいいじゃん。なんで僕ら2人だけ......?」
「ああ、単純に俺が堕天使の鳥みたいなもふもふっとした翼でふわふわしたいからだな」
そう言って両手でふわ~っとするジェスチャーや自分を2人の翼で包むジェスチャーをしてみる望桜に、瑠凪は何故か慌てて声を上げた。
「え、そ、それはダメ!!」
「え、何で?」
「それは......僕が神気の翼しか出せないから、望桜のことそれで包んだりなんかしたら......お前死ぬし......」
「それなら魔力ならマモンに貰えばいいだろ?」
「いや、そーじゃなくて......」
「......?」
「......僕、魔力じゃ翼出せないんだ、片翼しか......」
「え、どゆこと......」
「......堕天したすぐ後くらいに、魔力に順応する過程でミスったっぽい......だから、翼は左側に大きいのが1枚しか出ないし、攻撃魔法も魔力じゃ使えないんだよね......」
「おー、別にいいじゃねえか!!」
「......へ?」
どこか神妙なノリで言ったつもりが、 その意味を意外と軽く取った望桜は笑顔で瑠凪の手を引き脱衣所へと移動し始める。
「え、あのー......」
「そうと分かったら行くぞ!或斗は大浴場に来てないから、自室か調理室にいるはずだ」
「あ、うん」
そしてササッと服を着た後に脱衣所を後にし、或斗の宿泊している部屋へと向かった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「すー......すー......」
そして2人が部屋に到着すると、中から聞こえてくるのは穏やかで規則正しい寝息。部屋に入ると黒くてふわふわな丸いものが布団にくるまっていた。その中心から覗く薄紫頭から誰であるかはすぐ分かる。......か、かわいい......!
「或斗、寝てたんだ......」
「鐘音の分の毛布抱き枕にして寝てるぞ......」
あどけない寝顔を晒す部下の頭を軽く撫でながら、瑠凪はセミダブルベッドの空いたスペースに腰かけた。望桜は目に毒な見え隠れする鎖骨を見つつなんとか理性を保っている。
「にしても、翼出したままって......まあここだからいいけどさ」
「超無防備、可愛い」
「や、やらしい事すんなよ!こいつ結構ガード緩いけどさ......」
「おう、ちゃんと段階踏んでからやるから安心しとけ」
「そうゆう意味で言ったんじゃないんだけど......でもまー、確かにイタズラはしたくなるんだよねー」
軽くつっこみつつも、自身も布団から出ている或斗の上半身の体のラインを指でつつーっと撫でてみる瑠凪。
「んっ、んん~......」
「すっごい起きなーい」
そしてそれに反応してか体を小さくビクッとさせてから顔を布団に填めだす或斗に、若干小悪魔的な笑みを浮かべた瑠凪はなおも触り続ける。......線が細くパッと見だと男なのか女なのか分からない見た目だが、その割にはとてつもなく大食漢で大酒豪。
それに加えて普段しっかりしていて時折ゆるゆる天然になり、極たまにドSの顔を覗かせる。いわゆるギャップ系男子。......そういえば瑠凪と違って"堕天使である"という事実があるものの天界時代の話をあまり聞かないな、起きたら聞いてみるか。
「疲れてんだろ」
「にしてもどうすんのさ、僕1人腕に抱いて寝るわけ?」
「まあな、別に1人でも良いけどな!1度両手に花ってやつをしてみたかっただけだから」
「前から思ってたけど女子には興味無いんだな」
「まあな!!俺はもう中性男子の虜だから......」
「あっそ。......なら部屋行こ」
「そだな!」
瑠凪の問いかけに答えた後、再び手を引いて部屋を出た。その頃に各々が風呂から上がって部屋に戻ってきていたり、再び厨房に行って何かを食べたりと自由に過ごしている。
2個隣の部屋に行くだけなのに、1つ1つの部屋が大きいため10何m歩かなければならない。その途中、廊下で数人とすれ違ったもののその全員が使用人。......ん?あれ?どっかで見たことある奴が......?とたった今すれ違った使用人の顔が望桜にはどうしても引っかかり......
「ちょっと待て」
そう声をかけてその使用人の肩を掴んだ。それも強い力だったので案の定使用人は止まった。
「望桜、どうしたの?」
「こいつ、どっかで見た事が......」
「......やれやれ、まさかこんな所で会うとは思ってなかったよ!緑丘望桜くん」
「あ!!あの時の!!!お前140年間どこに......」
悪魔にしては魔力量が少なく、背中から生える翼も小さい。......小悪魔だ、あの時の。
......望桜を下界に"召喚された新たな悪魔の王"として送り込み姿を消したあの時の小悪魔。ここ140年間の現役魔王だった時、そして勇者軍に討伐され(た事にし)て日本に来た後も、ずっと顔を見なかった。
......名前、あの時確か名乗ってたもんな、何だったっけ......?
「......知り合い?」
「あ、君とは会ったことなかったね!まあいいや。にしても緑丘望桜くん、君頑張ったね~!!びっくりだよ!」
感嘆の声と共に振り返り、望桜と瑠凪を目で捉えてにこにこと笑う小悪魔。金色の双眸が望桜達を数秒眺め、望桜からの問いかけが来てから小悪魔はこう答えた。
「なんの事だ?」
「第拾参弦聖邪戦争の事さ!順番的に東方、西方、南方、そして中央大陸と攻め落とされたけど、大健闘だったしね!!」
「あ、ありがとな!!」
「それじゃ僕はここで......」
「え!?ちょっと待て待て待て!!......くっそまた逃げやがった!!」
唐突に褒められてとりあえず感謝を述べた望桜だったが、目の前で小型ゲートを開き出す小悪魔を慌てて止めようとした。しかし間に合わず、すぐにゲートを閉じてどこかに行ってしまった。
「逃げ足早い奴......」
「ほんとそれ......ってか誰?」
瑠凪の疑問の声は虚しく響き渡った。その後2人は暫し廊下でぼーっとしていたのだが、
「......とりあえず寝るか」
「......そうだね」
そう小声で会話して部屋に戻り、すぐに眠りについたのだった。
──────────────To Be Continued──────────────
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