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第3章 (元)魔王と勇者は宇宙樹の種子と
18話5Part ヴァルハラ滞在1日目のみんな⑤
しおりを挟む「東方のち、地方協会ですか......」
「はい、聖書が読みたいんです!このせか......街の歴史とかも聖書に書いてあるって知り合いに聞いたので」
一方その頃、帝亜羅は自身の護衛である青年兵士·アリチノと共に東方市街を練り歩いていた。結構食べ物美味しいな......とか思いながら食べ物を食べたり、日本でも着れそうな服を2、3着買ってみたりして、かなり東方市街を満喫していた。
そして 、"Dbhobaap Straße"を一通り見たから......と本当の目的地に行くことにしたのだ。それをアリチノに言う途中、危うく日本人であることをぽろりと口にしてしまいそうになり、慌てて言い直す。幸いにもアリチノはそれを聞いていなかったようだ。
「......はあ......なら、とりあえず行きましょうか」
帝亜羅の協会に行きたいという願いを聞いて何故か眉をひそめながらも、一応行く事にしたそうだ。そしてそのアリチノの様子に若干違和感を感じた帝亜羅は、時折視界の端に黒い物がちらつくのも気にせずにどこか気まずい空気のまま東方、翠彗暁宮近くにある地方協会へと向かった。
「......あの、ここが......?」
そして数分間歩き続け、目の前に現れたのはとても大きくて綺麗な建物だった。......そのぐらいしか帝亜羅にはその建物を形容する言葉が浮かばなかったのだ。
街の金翠は全てここが中心となって広がっていってるのではないかと思うほどに、特別光り輝いている金に白色の大理石がよく映えている。所々に埋められた翠色は、まるでてんびん座からこっそりと、"周りの昼のような黄金が夜の藍なんかよりも、もっと私を引き立たせてくれるんだ"って禁断の逃避行に出たβ星。それほどに罪深く美しい。
「はい。ここが東方の地方協会です」
「おお......ここ、聖書、は......?」
もちろん無いわけないのだがそれでもちょっと不安になって訪ねると、アリチノは帝亜羅の方にくすくすと笑いながら向き直り答えた。
「もちろん、ありますよ。さすがに模造書ですけど......聖教をより広めるために、勝手に持って行っちゃっていいことになってるんです」
「あ、やった......!......なら1冊頂いて、ちょっと個室で読んできます!」
そう言って帝亜羅はアリチノが指さした聖書の山から1冊取りだして、集中して聖書に記されている教えを読みたい人用の個室を見つけてそちらの方に向かおうとアリチノの方を向き直った。
「なら......部屋の外で待っていますね、何かあったらすぐ呼んでください」
「はい!!にひひ......」
そしてアリチノが首を縦に振ったのを見るなりスキップしだしそうなくらい嬉しそうに駆けていき、個室の中へと吸い込まれていった。
「......ああ、居心地が悪い」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
......その頃協会内の個室の中で聖書を開いてその横に大学ノートも開き、MADE IN JAPANのシャープペンシルを手に内容を日本語で分かりやすく要約したものを一心不乱に書く。という作業を帝亜羅はこの短時間でノート1ページ半が埋まるほどには必死に手を動かして行っていた。
内容が理解出来ているのは出かける直前にダンタリオンからかけて貰った、言語自動翻訳魔法という便利なもののおかげだ。
「へえー......こんな事が書いてあるんだ......もういっその事ドイツ語も勉強しちゃおうかな............あ、」
途中、"Lucifer Archangel"の記述を見つけて動きを止める。......本当だ、聖火崎さんが時々言う"聖書の言い伝えの天使"って、やっぱり瑠凪さんなんだ......そう考えた後、再び手を動かし始めた。
......そしてそれから1時間ほど経った頃に、聖書の重要事項が何個か、あと数ページほどで全て写し終わる所まで来た。帝亜羅が次のページを捲り、
『唯一神様は、遠い昔に地上が闇に包まれ夜が明けなくなり、草木は枯れ果て家畜が死に絶え人類の滅亡が最も近かった頃に、明けの明星、曙の子である大天使を遣わせ地上に救いの光をもたらした。』
という文面を読み写し、視線を下へと向けた時であった。
『明けない、明けない、夜が明けない。暁に光り輝き人々に救いの光をもたらす"明けの明星"は、今ではすっかり、夜に光り輝き人々に滅びの光をもたらす"宵の明星"へと成り代わってしまった。迷える人々の住まう土地に再び朝日を指すことは神託、神のみぞなせる業だ。』
一見先程の文章の続きかな?と思って帝亜羅がノートにそれを写した後に気づいた。......これは、あとからペンで付け足されたものだ。印刷文字とは違い、筆跡は同じだが時の形や大きさは全て若干違う。なぜ自由配布の聖書に......という疑問が帝亜羅の中には生まれたが、文面的に大事そうだったので一応これも写したままにしておくことにした。
『我々人類は天界の私物である5つの貴き武器を我らに授けてくださった。その武器は我々にとって脅威である悪魔を退ける力であり、間違った教えを正すための力である。』
......聖書に代々語り継がれてきたであろう教え。5唯聖武器について記されていたそれを写してページをめくると、"最後に"の文字と共に蒼炎と真白くて豪華な建物......神殿のホログラムが再生され始めた。
「......あ、瑠凪さん......でも今より髪短い、翼も白い......でも瑠凪さんだ」
そしてその蒼炎を吹く法術陣を背面に大量に出現させる藍色の髪の熾天使が、6対の真っ白の翼を広げて舞っていた。前髪は左から右にかけて長くなるアシメ、後髪は短く切りそろえられている。見た目は違うけれど、帝亜羅はそれが天使時代の瑠凪だとすぐに気づいた。
......ホログラムなのに、凄く綺麗で威圧感があってまさに華鳥風月、威風堂々だった。思わず息を飲むと同時に、帝亜羅は異世界の法術技術の高さに脱帽した。......なんて、綺麗なんだろう......
そしてホログラムが消えたあとも数分間帝亜羅はその場で固まっていたのだが、ふと聖書の方を見ると白紙だったはずのページに光る文字が2行記されていた。
『聖教の信仰対象は天界の唯一神であり、天恵を与えてくださるのはその尊き御身に1番近いとされる熾天使ルシフェル様だ。信仰心溢れる貴方に、天の御加護があらんことを』
「......あ、消えちゃった......そういえば、まだ信仰対象は瑠凪さんなんだ......人間界でもそれなりに"悪魔として"名が通ってるはずなのに......だって人間にとっては宿敵にも等しい、魔王軍で2番目に偉かった人だよ?それも7000年近くの間......」
そしてその2文は帝亜羅の網膜にくっきり焼き付いてからページから姿を消した。その後に帝亜羅が若干疑問に思った部分を小声で呟きながら、用の済んだ聖書と大学ノート、シャープペンシルを鞄の中にしまった時だった。
グラッ!!......ガタ、ガタガタ......
「えっ、じ、地震!?ここでも起こるのっ!?」
縦揺れのとても大きなものが1発グラッと来て、そのあまりの激しさにその部屋にあったほぼ全ての物が大きく浮いた。そしてそのあとにまた縦揺れの、しかし今度は比較的揺れの小さいものが訪れた。
「......え、み、短っ!」
......しかしそれも束の間、ものの数秒で止んでしまったそれは最初の1発以外、帝亜羅にも協会にも特に被害は与えなかった。......と、とりあえずアリチノさんの所に行こう......そう思って帝亜羅が扉に手をかけた時、
ドタドタドタッ
「え?わあっ!!」
「帝亜羅!!」
まるで馬が暴れ回っているかのような足音が帝亜羅のいる個室に真っ直ぐ近づいてくる。ただ疑問符を頭の上に浮べることしか出来ない帝亜羅はその場で固まっていたのだが......
刹那、扉が勢いよく開き間一髪のところでそれを避けた帝亜羅の目には、明るいセピア色と一抹の黒が扉同様勢いよく飛び込んできた。そしてその直後に覗く向日葵のような黄色の瞳、真っ黒な可愛らしいゴスロリのドレスとセットの小さなシルクハットを被ったその姿は......
「ふ、フレアリカちゃん!?どしたのこんな所で、聖火崎さんは!?」
帝亜羅の肩辺りまで身長が伸び、より一層大人っぽくなった宇宙樹·ユグドラシルの種子、フレアリカであった。きっとある程度距離のある所から走ってきたのだろう、着衣は乱れており彼女自身ぜえはあと肩で息をしている。
帝亜羅のことを真っ直ぐ見据えた後に、フレアリカは慌てふためく帝亜羅を力強く一喝した。
「帝亜羅、今は一旦落ち着いて!!ここはそうでもないけど、外は酷い状況なの......それに、ふぅ達2人だけじゃ危険!!」
──────────────To Be Continued──────────────
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