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第2章 Alea iacta est!(本編本格始動の章です)
8話4Part 聖火崎宅にて可愛らしいメイドさんが出現したそうですよ?そしていい匂いの漂うキッチンで一体何が...?
しおりを挟む「......え......」
そして翌日の朝4時に意識を取り戻した葵。自身の目のみで確認出来る部分の、自身の格好を見て、頬の紅潮と同時に羞恥を感じた。首の違和感も感じていた。
今まで殺戮や虐殺する時に感じる快楽と軽蔑、怒り位しか感じない、著しく感情が不足していた。だから、"恥ずかしい"と感じたことはなかった。
葵は、羞恥という存在すら知らなかった感情のせいで自然と紅潮する頬に、少し疑問を抱いた。
「あの......これは、一体......」
「ん?ああ。この間の借りを返そうと思って、うちにあったメイド服を着せてみたのよ」
なるほど......恥ずかしい。綺麗なグレーの生地をベースに丁寧に作り込まれているメイド服。インナーである白のシャツとエプロンと赤のリボンがよく映える。下が黒のフリル付きスカートなのはほんのご愛嬌付けだろう。
そして手におたまとハタキを持たされているところで考えると、コックメイドとハウスメイドの中間である、トゥイーニーメイドを模しているつもりなのか。......誰なんだろメイドに詳しいやつ、後で1発エクスプロージョン撃ち込もう。ってかなんで自分も少しメイド知識があるんだろこれ?
「似合ってるぞ」
「......え、は......ばか......!なんで着せるかな......僕男なのに!!ってか髪型までサイドテールになってるし!!」
そして今さらに確認したとおり、短い左側の髪はそのままに、右側の長めの髪は、きっちり1つにまとめてあった。こちらは手で触って確認した。
「余程近くで見ないと分からないわ、完璧ね」
「だな」
「はああ!?」
急いでベッドから飛び降り、近くの鏡で自身の服装を再確認する。自分で確認できる範囲以外のところの詳細も、今ようやくわかった。首の違和感の正体はチョーカーだ。髪は赤いリボンで留められており、しっかり頭の装飾も完了している。
「う......ね、ねえ......これ着替えていい?」
「ダメよ。今日1日、その格好でうちの家事をこなしてもらうわ」
「え、ええ......?」
「そうね......他の奴らはもうじき起きてくるだろうから、朝食の用意をしてくれるかしら?」
そう言って部屋のドアを開ける聖火崎。キッチンがあるであろう廊下の先からは、食器のぶつかり合う音と共にいい匂いが流れてくる。......お腹空いたー......ってか僕料理しないといけないの!?
「僕料理できないよ!!」
「安心しろ、或斗が着いてくれる」
「余計嫌なんだけど!!」
「まあ、頑張れ。あ、あと私の偽名は翠川伊吹だ。そちらで呼んでくれ」
「え、わかった......え、ええ~?まあ、とりあえず行こ」
ハタキはその場に置きおたまだけ持って、先程の音といい匂いの流れの上流に向かう。
「......遅かったな。もう味噌汁は作り終えたぞ」
キッチンに行くと既に臨戦態勢(エプロンを着用して味噌汁を混ぜながら)でこちらを向いた。8畳程の広さのペニンシュラキッチン。キッチンスペースが比較的広めに取ってあるため、収納棚も多量にあるし、コンロとシンクのスペースも勿論広い。
1枚天板でアルミトップのコンロと、大きめサイズのシンクは丁寧に手入れされており、油汚れや水あか1つ見つからない。
「......残りは?」
「貴様に任せられるのは筑前煮ぐらいか......とりあえずこれを切ってくれ。乱切りでいいぞ、乱切りで」
冷蔵庫の野菜室からごぼうを取り出し、セラミック包丁と共に葵に渡す或斗。......乱切り、とは?
「乱切りって......なに?」
「あー......貸してみろ」
そう言って或斗は葵の手からごぼうと包丁を受け取り、慣れた手つきで切り分けていく。そしてあっという間に1本切り終わってしまった。
そして或斗はメイド服の件には触れずに、作業の内容の実演等をしてくれるのが、葵にはありがたかった。そして意外でもあった。
「ほれ、あと3本ある。自分で切れるか?」
「ん......と、」
トン、トン、トン、
「こう切ればいいかな?」
「......うむ。これは任せても問題はなさそうだな。俺はこっちを切ろう」
トン、トン、トン、
ザクザクザクッ、パラパラ......ザクザクザクッ......
「料理というものの存在や概念が無かっただけで、実演に問題は無いのだな。意外だ」
「まあ、僕は的李より細かい作業とかはできるよ」
「貴様......的李さんに殺されるぞ?」
「え?なんで?」
「だって......いや、何でもない」
「変なの」
だって、本人はめちゃくちゃ気にしてるから......そう言おうとして、或斗はその言葉を飲み込んだ。的李が自分が超絶不器用なことをかなり気にしていることを、この悪魔にでも言ってみろ。きっとバカにし始める。そう考えて言葉を飲み込んだのだ。
トン、トン、トン、
ザクザクザクッ、パラパラ......ザクザクザクッ......
「......」
「......」
「......なあ、調理中ずっと会話無しも寂しいから、しりとりでもやりながら調理するか?」
「なんでよりによってそのゲームを選択したのかは分からないけど、いいよ。しりとり、」
トン、トン、トン、
「リストカット」
「趣味悪いね!?......トゥイーニー」
ザクザクザク、ザクザクザク......
「......ニーズヘッグ」
「宇宙樹の根っこをずっと齧ってるやつじゃんそれ......グレモリー」
グツグツグツグツ......
「ああ......あの煩い公爵か。そういえば長らく顔を合わせてないな......リャナンシー」
「あーあの太鳳からいつも逃げてた妖精の子ね......シャムシャエル」
「これといった印象はないが、確か天使の......忘れた。ルシファー」
或斗の提案でし始めたしりとりは、途中から下界の者縛りのようになってきている。
「言うと思ったwwアルコー」
「なんでそこで歩行器が出てくるのだ!?......神戸」
「......ベル」
......ふと、しりとりの過程で、ふと浮かんだ名前を口にした。べ、で始まる言葉を言わなければならなくなったことと、一時的に下界の者縛りになっていたことが引き金となったのかもしれない。
「ベル?どこかで聞いたことが「魔女。怠惰の魔女だよ」
「あ、瑠凪~!!」
その問題の名前が出てきたのと同じタイミングで、眠そうに目を擦りながら瑠凪が入ってきた。
いつも綺麗に纏められている髪は、ぴょこんと所々撥ねている。太鳳が選んだ服を着ているわけでもなく、着古されたTシャツの上に、太鳳に借りたジャージ上下を身につけている。彼女と身長差があるからか、萌え袖のようになってしまっている。
「主様!もう起きられたのですか?」
「なんか目が覚めたww」
「左様ですか」
「......てか、なんで葵はメイド服着てるわけ?ww聖火崎に着せられたの?」
「ちょ、瑠凪!!或斗は触れなかったのに!!」
「あーwwごめんねww多分、聖火崎の日本での前の職場で使ってたヤツだと思うwwメイド喫茶でww」
「誰がそのこと他の人に言っていいって言ったのかしらルシファー!!」
瑠凪に続いて、鬼のような形相で聖火崎が入ってきた。朱に染まった顔は、恥ずかしさからなのか、はたまた怒りからなのか、どちらにせよご立腹中であるのに変わりはない。
昨日ルイーズ......もとい翠川がやったように瑠凪の胸ぐらを掴む聖火崎。が、こちらは逆に身長差はあまりないため、足が地にぎりぎり着いていて、首が完全に絞まることは無い。
「え?僕何も言ってないよ~」
「......はあ!?貴方ね、人の秘密を口からポロッと出しておいて、何が"何も言ってないよ~"よ!!」
そのためか、胸ぐらを掴まれてもなお余裕ぶった表情で聖火崎を煽る瑠凪。煽りスキルが高い瑠凪とは逆に、煽り耐性が低い聖火崎の怒りは、あっという間に爆発した。
「いやいや、僕だってそこまで怖いもの知らずじゃないよ」
「十分怖いもの知らずよ!!......あ、貴方の朝食に或斗に頼んで睡眠薬でも入れてもらって、色々やろうかしら......?」
その爆発状態の中、聖火崎はあることを口走った。睡眠薬を食事に仕込んで、眠ってる間に色々......それを聞いた途端、瑠凪はさっと青ざめ、逆に或斗はぱっと顔を上げた。その横で葵もまた顔を上げ、会話を聞きつつ笑っている。
......そしてキッチンの扉の向こうで、先程から息を潜めながら4人の会話を聞いている人物2人は、会話が進むにつれ、ことある事に立ち上がったりうずくまって呻いたりと忙しない。
「は!?色々って......ちょっと、僕に何するつもり!?」
「いいぞ聖火崎!!少しはその減らず口を黙らせるんだ!!」
「聖火崎......貴様......」
「あ、或斗!!こいつに何か言ってよ!!」
「たまにはいいこと言うではないか」
そして葵ははやし立て、或斗は聖火崎の名を呟いた。その声が聞こえて、瑠凪が期待するように呼びかけたが、瑠凪の期待とは反対に、或斗は聖火崎の言った内容に感心していた。
「ちょ、或斗!?」
「聞いたわね或斗、こいつの朝食に睡眠薬なり麻痺薬なりなんなり入れてやって頂戴!!」
「承知した」
「な、なんか増えてるんだけど!!ちょ、本気でやめろって......!!」
聖火崎は或斗に盛るよう指示している薬の種類を増やし、或斗はどこから出したのか、聖火崎の言った2種類の薬を机の上に用意した。その様子を見て瑠凪は、普段は減らず口か猫かぶった態度ばかりなのに、素で涙目になり始めた。
望桜は気づいてないが、バイト先での態度や、望桜や帝亜羅の前での態度は、所詮猫かぶった態度なのだ。本人は気づいてないが。
「ねえ!!ちょ、なんなのさ!!2人ともそんなに僕に恨みがあるわけ!?あるなら面と向かってはっきり言いなよ!!」
「悪魔という存在自体に恨みしかないわ」
「恨みというより、薬の効果で苦しんでる主様を愛でたいです」
「或斗S!?サドなのお前!?そして聖火崎のは論外だよ!!」
「私でも知ってたわよ!?知らなかったの!?」
「僕も知ってるよ」
「知らなかったし普通知りたくないだろ部下のそんな1面!!ってかそれしまえ!!聖弓は出すな!!」
ついには聖弓まで顕現させはじめた聖火崎を、必死で宥める瑠凪。或斗と葵はその様子を眺めながら、料理を再開した。
騒いでいる瑠凪達は気づかなかったが、キッチンに数人、誰か入ってきた。彼らががおはようを告げて、初めて入ってきたことに気づいた。
「......おはよう」
「おっはよーう!!」
「おは~☆」
「ふわあ~......おはようございます......て、何やってるんですか!?」
しっかり覚醒してから起きてきた鐘音、太鳳、梓、帝亜羅によって、キッチンでの喧騒は素早く集結した。その現場に漂う料理の香りだけが、場の空気に関係なく聖火崎宅中に爽やかな朝の始まりを告げていた。
─────────────To Be Continued────────────────
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