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番外編
失われた記憶
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「うぅ…、はっ…」
今日も悪夢で目を覚ます。夜中に頻繁に見る夢が段々と現実のものだと理解していく私がいる。
キャビンは以前の私の住んでいた部屋に酷似している。召喚された先で目覚めた力、全知を利用するだけ利用して、裏切った人々が恐ろしくて仕方ない。
こんな力欲しくなかったと願っていたからだろうか。記憶を失いキャビンへと逃げ込んだ日から、ランクが10とカンストしていた能力に制限がかかり、ランク1となっていた。
最初は夢だと思ったのに現実だったと思い知らせるように、夢は続く。
周りが私を裏切っているのだと、スキルは私に訴える。けれど、優しくしてくれた…、迎えてくれた人を疑うのがものすごく薄情に思えて、自分自身を騙していた。
「裏切られてなどいない、私の勘違いに違いない」と。
私は賢者として一部で持て囃され、アイデアを搾取され、金のたまごを生むアヒルにでも見えたのだろうか。気がつけば、道具のように利用されている事を偶然聞いてしまった。
全知のスキルが告げてくれていたのに。私は信じようとしなかった。どうしようもない、クズの様な人々を信じようとして、警告に蓋をした。
こんなスキルなんか欲しくなかった。失敗しながらも、笑い合えたり、励ましあえたりそんな関係を願ってただけだった。
夢を見ると辛くて苦しくて、外の空気を吸いに行く振りをして、声を殺して泣く日も多くなってきた。もし戻ってきた記憶をシルと雨夏に話したら受け入れてくれるだろうか。
迷惑をかけるのではないかと思うと、言い出せない。
そういう相手ではないとわかっているのに、踏み出す勇気が出ない。
雨夏の話はまだ深く聞いた事はないけれど、シルも言いたくなかった話を打ち明けてくれた。
身内に狙われている事なんて、話したくなかったはずだ。でも、私達を信じて話してくれたんだと思う。
きっと私も踏み出さなくちゃいけない。
記憶を完全に取り戻した日の朝、シルと雨夏に話があると切り出した。
私の口が重いのも、気にせず気長に「時間はたっぷりあるよ」そう笑って待ってくれて、私は少しずつ話していった。
記憶を取り戻した事。倉星志帆子という人間だった事。異世界召喚されて賢者として、道具の様に利用されてた事。外の世界で見つかると、迷惑をかけてしまうかもしれない事。
言葉は足りなかったかもしれないけど彼らに話した。
「ただでさえ知らない土地で、辛かったね…」
背中を撫でるように、宥めるようにシルは優しくポンポンとたたく。
雨夏は膝に乗り、ぬくもりを精一杯伝えてくれる。
『シフォがいたから、ワタシは救われたよ。何があってもここにいるよ? 家族って言ってくれたよね』
そう言ってスカートに顔を擦付ける。
まだ私はそんなに強くない。けれど、彼らを信じようとしているのに、裏切られる事を恐れる自分の方が怖かったし嫌いだった。
だから怖くても、一歩踏み出す私でいたいと強く思った。
今日も悪夢で目を覚ます。夜中に頻繁に見る夢が段々と現実のものだと理解していく私がいる。
キャビンは以前の私の住んでいた部屋に酷似している。召喚された先で目覚めた力、全知を利用するだけ利用して、裏切った人々が恐ろしくて仕方ない。
こんな力欲しくなかったと願っていたからだろうか。記憶を失いキャビンへと逃げ込んだ日から、ランクが10とカンストしていた能力に制限がかかり、ランク1となっていた。
最初は夢だと思ったのに現実だったと思い知らせるように、夢は続く。
周りが私を裏切っているのだと、スキルは私に訴える。けれど、優しくしてくれた…、迎えてくれた人を疑うのがものすごく薄情に思えて、自分自身を騙していた。
「裏切られてなどいない、私の勘違いに違いない」と。
私は賢者として一部で持て囃され、アイデアを搾取され、金のたまごを生むアヒルにでも見えたのだろうか。気がつけば、道具のように利用されている事を偶然聞いてしまった。
全知のスキルが告げてくれていたのに。私は信じようとしなかった。どうしようもない、クズの様な人々を信じようとして、警告に蓋をした。
こんなスキルなんか欲しくなかった。失敗しながらも、笑い合えたり、励ましあえたりそんな関係を願ってただけだった。
夢を見ると辛くて苦しくて、外の空気を吸いに行く振りをして、声を殺して泣く日も多くなってきた。もし戻ってきた記憶をシルと雨夏に話したら受け入れてくれるだろうか。
迷惑をかけるのではないかと思うと、言い出せない。
そういう相手ではないとわかっているのに、踏み出す勇気が出ない。
雨夏の話はまだ深く聞いた事はないけれど、シルも言いたくなかった話を打ち明けてくれた。
身内に狙われている事なんて、話したくなかったはずだ。でも、私達を信じて話してくれたんだと思う。
きっと私も踏み出さなくちゃいけない。
記憶を完全に取り戻した日の朝、シルと雨夏に話があると切り出した。
私の口が重いのも、気にせず気長に「時間はたっぷりあるよ」そう笑って待ってくれて、私は少しずつ話していった。
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言葉は足りなかったかもしれないけど彼らに話した。
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『シフォがいたから、ワタシは救われたよ。何があってもここにいるよ? 家族って言ってくれたよね』
そう言ってスカートに顔を擦付ける。
まだ私はそんなに強くない。けれど、彼らを信じようとしているのに、裏切られる事を恐れる自分の方が怖かったし嫌いだった。
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