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本編

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「いつまでもこうしてても埓あかないか。こっちに行くとゲームでは街あるんだっけ?」

「そうだな…。でさ…、いつまでくっついてる気なの? シフォンさん」

「うぅ…。ごめん…」

「……仕方ないなぁ…」

 構えていた剣をしまい、シルフィさんはそう言うと、掬い上げる様に私の右手を掴むと歩き出した。

 ゲームの中で街があった方角へ進んでいくと、開けた場所に出て、ゲームにはなかった両替機とアイコンのついた箱が、目に入った。

「ゲームのベリルと銅貨や銀貨のお金を変える機械?」

「ゲームの初期の所持金…、200ベリルだっけ……」

 そう言うと、徐ろに銀貨を出し、両替機に入れてみるシルフィさん。

 10200ベリルとなった表示金額をシルフィさんに伝えると、お店を見ていく。

「残高とか見えないのは不便だねぇ…。見えたらいいのに……」

「まぁな……、仕方ないけど…って、見えるようになってるかも……?」

 そんなこんなやり取りをしつつ、街の中を歩いていく。

 目に入る街の人々は、ゲームと似通ってはいるけれど、活き活きとしている印象を受けた。

 雑貨屋には野菜の種や家畜の餌があり、売っている野菜や花の種を購入する。

 コーヒー豆の木や、サクランボといった木の苗も売っていたけど、高い上時間がかかり、決まった季節にしか取れないので諦めた。

「動物は小屋を立ててから買えない様だから、種とハンマーとオノ? あとカマとクワ……。ジョウロもか…、買って帰ろう?」

「僕もここの事を手伝うから、しばらく身を隠させて貰ってもいい?」

「もちろんだよ!」

 私は笑顔で答えた。

「ゲームでやる事を教わってて良かったね。ここで暗くなるまで、木を切ったり、草刈ったりして素材集めようか! 夜になったら下準備してた鳥肉食べよう?あ、パンか何か買っといた方がいいかな?」

「雑貨屋で売ってた、ご飯とか言うの気になるな。買って牧場? に帰ろう。あと力仕事は任せて!」

 シルフィさんは笑いながらそんな事を言う。

「でもさ…、仕方ないけどゲームで発展した分、この世界にも変化があればいいのにね。せっかくお家の機械だとニワトリとか、牛買えてるのにね~」

 そんな無駄話をしながら、二人仲良く牧場へ向かうと、牧場内は変貌を遂げていた。

 動物小屋や鳥小屋が出来ていて、畑にも野菜の種が植えられている。

 牧場に来る前のゲームみたいに。

「あのさ…、今更かもしれないけど…。君って一体何者なの?」

 たしかにそう言いたくなるのはわかる。けれど自分の事も良く覚えてない私が、何者かなんてわかるはずもない。

 ただ望むことが当たり前のように実現していくという異質さは、痛い程に感じていた。

 コントロールする術もない、今のままじゃ人に紛れて暮らしていく事すら、難しい事も肌で感じていた。
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