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新たなる一歩

5 (鳴 視点)

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 珍しく大嫌いと感じた先生と別れ、急いで通学用の自転置き場に停車していた。 自転車まできた。


 校門を出て、さっさと自転車に乗り、ここから立ち去ろうと思ったのに…。

 獲物を見つけたとでも言うような、嫌らしい笑みを浮かべる、クラスメイトの女子3人組に掴まった。

 女子の中で優しい振りして、痛ぶるのを好む彼女達を目の前にし、辟易する。

小鳥遊たかなしさん…。 なんで先生に苛められてるなんて言ったの? 良くしてあげてるのに悲しいわ…」

 多分、自分の見目に一番自身があるみたいな、橋田さんが言った。

「そうよ。 良くしてあげてるのに。 感じわるいにも程があるわ!」

「また先生と話してたけど、なんか言ったんじゃないでしょうね!?」

 見解の相違だと思う。 彼女達は、優しいふりをしているだけで、わたしを肉体的に痛ぶってる男子と違って、心を痛ぶってるだけだ。

 道を塞ぐように、立ちはだかられると、帰れないじゃない。

「先生と何も話してないし、もう帰りたいから、そこどいてもらえませんか…」

 話なんかしたくないけど、何も言わずに逃げたら…今まで以上に、やられてしまうかもしれない。

 でも多分…、彼女達にしたら、私はただの玩具だ。 壊れたら替えのきく玩具。 玩具は逆らわないし、彼らに危害も加えられない。

 多分彼女達にとっての、私の価値は、そんなものだろう。 

 だから、カッときたんだろうな…。 普段なら手をあげずに、心を傷つけるはずなのに…。

 私は、手を振り上げそうになる橋田さんに、反射的に身構える。

 そんな時、周りがざわつき出した。 何事かと目線が無意識に向けると、お兄さん……?

 ハッとしたように、周りを気にした橋田さん達も「格好いい…」だったり、「私達に声かけてくれるのかな?」なんて言っている。

 お兄さん口調ぶっきらぼうだけど、優しいし格好いいものね。

 お兄さんの姿を目にし、安心感のせいなのか…。 今にも泣涙が出そう……。


 こちらへと近づいてきたお兄さんは、普段聞いた事がないような、冷たい声で話しかけてきた。

「鳴、迎えに来た。 あんたたち、こいつ連れて帰りたいんだけど、なんか用あんのかよ?」 

 お兄さん、褐色の肌をしているから好みはあるかもしれないけど、格好いいしモテるんだな……。

 そんな事を考えていると、橋田さんが媚びる様な目をして言う。

「お別れの挨拶をしてだけです…」

 …みんなそんな事を、口々にいい、私を睨みつけてくる。

 お兄さんに、冷たく睨まれる様な状態がつらいのか、取り繕う様に、嘘を言ってる……。

 自分より下だと思ってた私が、お兄さんみたいな人に、お迎えに来てもらったから、気に入らないんだろう。

「迎えに来たからから、一緒に帰ろうぜ…」

 そう言うと3人には目もくれず、もと来た道を戻っていくお兄さん。

 私も黙って、自転車を押しながら、帰路につく。

 そしたら、お兄さんが話しかけてくる。 いつもの温かい声だ。

「気晴らしに公園でも寄ってく?」

 私はコクリと頷く。

 一生懸命に耐えてるけど、涙腺が限界かもしれない。 口を開いただけでも泣き出しそうで、言葉に出来なかった。

「あいつらに囲まれて、なんだか知んねぇけど、泣きたいんだろ。 千聖ちさとさんには言わねぇから、今の内に泣いとけば? 肩くらい貸してやるし…」

 そう言うと、お兄さんの肩に私の顔を押しつけるみたいに、寄せられた。

 私も我慢の限界を迎えてしまったみたいで、しがみつく様にして、しばらく泣いてしまった。

 でも、泣いてしまったのは、お兄さんのせいだよ。 お兄さんが見えた後の、安心感と言ったら…。
 ここに居ていい、お兄さんがいる、そう素直に思えた。

 あんな人たちと同じ土俵に降りたくないと思いながら、私の思考は黒く塗り潰されていく気がして…、すごく怖かった。 苦しかった。


「まだガキなのに、偉いな」

 そう言って頭をグシャリと撫でるお兄さん。 

 髪の毛、ぐしゃぐしゃになっちゃうよ…。 でも、頭を撫でる手が、優しくて温かくて、そのまま大人しくなすがままにになってしまった。

「一人で何とかしようとするの、大変だよな。 鳴はすごいぞ!」

 お兄さんを見上げると、大粒の涙を浮かべながら、上手くいってないかもしれないけど、私は、ありがとうの気持ちを込めて笑おうとした。

 
 たくさん泣いて、涙も落ち着いた頃に、私はお兄さんがいてくれて良かったな。 まだ頑張れる…そう感じて、まだぎこちないかも知れないけれど、少し笑みが溢れた。

 そうして、私は口を開いて、ずっと思っていた疑問を聞いた。

「ねぇ、お兄さん。 今日はお散歩? それとも、逃げ出したの?」

 たくさん泣いてしまって、お母さんにも見せないようにしてた部分を見られて恥ずかしくて、それなのに、どこか温かくて……、思ってもないことを聞いてしまった…。

 きっと今のままじゃ駄目だ……。 一人じゃ、うまく立ち上がれない時があるの。
 だから……、今までみたいに、大丈夫だよって笑っていてね。
 私の居場所でいてね……。
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