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本編

80(クロスフォード視点)

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 ラスター公爵家を訪れてから数日後、父である国王に、謁見の間まで呼び出された。

 普段なら、オレの部屋へと直接来るのにどうしたんだ?

 そんな事を考えながら、謁見の間へと足を運ぶと、国王に怒鳴られた。

「お前…、ラスター公爵に何をしたんだっ!!」

「え? メイドと最近潤ってる事業を、寄越せといっただけだ。たいした事ではないだろ?」

「公爵領は独立するそうだ! 今まで彼らの援助があったから、お前達に贅沢をさせてやれたのに、今後の援助はしないそうだ。今までの援助は、国民の為に請求しないでやると書状が来た。息子が迎える大切な我が娘を、愚弄する輩に忠誠を誓いたくもないとな」

「生意気な! なぜ黙らせないのです!」

「金も…、領地も戦力も。我々より桁外れだ。実力行使が叶うわけあるまい…! せっかく…、飼い殺せていたのに台無しだ!」

「あのメイドはそれなりに、身分があったのですか? ならば私の妃に……」

「公爵子息レイス殿の、非公式だか婚約者だそうだ。どうしてくれる……。借金を曖昧にして、今まで上手くやってきてたのに……」

「え……?」

 父上が、姑息な手段を使って搾取し、続けていたのに、大人しく黙ってた公爵家。それをオレが…、刺激してしまったというのか?


 でも未だに、あの光を映したような金色の髪、湖を称えた様な美しい瞳に惹かれてやまない。

 手にしたいと切に願う。無謀にも近い未来叶うと思っていた。


 レイと呼ばれた彼女を守る為に、今まで大人しくしていた公爵家が。

 側妃に迎えるとオレが言ったからだろうか…、彼女が泣いていたから、立ち上がったとでも言うのか?



 やがて王族派の貴族が支配する、各領地が衰退していく。公爵家の金に物を言わせて従わせて来たのだから当然の結果かもしれない。

 目に見えて公爵領に下る貴族や民が増えていく。
 今まで人の金でふんぞり返っていた王族オレらを、信用しついてきてくれる者など、当然ながらいなかった。

 独立した公爵が作った、豊かな文化や領地を潤わせる事業。それらに惹かれて民や貴族まで、ここでの身分を捨てて、公国へと下っていく。
 
 やがて公国に国ごと吸収されていくという現実なんて、オレたちは考えても見なかった。


 全てを喪った今だから、不意に思う。あの時…、立場を知っていたら…。あんな行動を取らなければ、今でも公爵は傅いたフリ・・をしてくれていたのだろうかと…。

 彼女を側妃にと言わなければ、何も変わらない日々が続いていたのかと…。


 けれども、現実はそんなに甘くはなくて、謝ればなかった事に出来る。そう思っていた未来は、まやかしでしかなかった。

 発した言葉を、なかった事には出来ない。そうしようとしても聞いた者の心に燻り続けるのだろう。

 そんな間違いを知る授業料にしては、とても大きな代償を払った。


 オレたちは、殺される事はなかった。けれど、蟄居ちっきょをさせられた。

 昔の幸せだと信じていた、そんな時代を夢見ながら、

 王族オレらは儚くなるその日まで…、蟄居ちっきょをさせられた。閉じ込められた地で、うまい食事を与えられながら、何も生み出すことすら出来ない…、無意味にも感じられる長い生を、これからも過していくのだろう…。

『あの時、言わなければ…。もっと言葉を考えて発していれば……』

 そんな後悔を、今も背負いながら…。

 
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