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本編

33(レイス視点)

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 パンチェッタを試食して、パンを料理人に作ってくれた後に、レイは姿を現さなくなった。

 たまにティーファに、様子を伺うと、食事だけは取るけれど、前の様に、やりたい事を表現しなくなり、笑うこともしなくなったらしい。

 なにがそこまで彼女を苦しめるのか。どうして笑わなくなったのか。まるで生きている人形の様に無表情さに、生きる為だけの食事を取る姿は、傍で仕えていたティーファは勿論の事。父上や母上、そして料理を作っている料理人にも痛ましく、認めたくない現実となった。

 たまに気づかれない様にと、様子をのぞきに行くけれど、レイが今まで見せていた笑顔は見られない。

 会いたい…。笑った彼女が見たい…。彼女に会って触れる事、笑顔を見れる事…、そんな些細でちっぽけな願いも叶うことなく時間だけが過ぎていく。

 身を切られる様な胸の痛みと焦燥は、日に日に深まっていった。

 父上は、牛舎の完成とともに、レイが大切だと…、必要だと伝えるみたいだ。

 母上も料理人の力を借り、新しいパンを完成させて、レイがいたからこのパンは完成できたということ。そして、これからも一緒に笑顔で過ごしていきたいと、祈りを込めていると言っていた。

 僕にとってのレイはどうなんだろうか…。

 可愛い妹? 違う…! 可愛いけど、妹と思って接したことはない。

 すぐ触れてしまうのは? 妹なのだから、距離が近くても不自然ではない。
妹として見たことはないと、…思ってたのに…? 何故、都合の良いときだけ妹として接するんだ…。

 笑顔が見たいと、一緒に厨房へと行くのは? 不慣れな彼女を案内しなければ…。ティーファがいるのに何故? そんな自問自答を繰り返して行く。

 レイが、居なくなっても。

 他の家に嫁いでも、婿をとってここに残ったとして、僕は納得出来るのか…?

 答えは否だろう。いつからかはわからない……、けれどレイは僕にとっての唯一無二の存在だと思う。

 そうか……、僕は彼女を愛してた。最初は妹としてしか思えなかった。けれど、大切な存在で守りたいと思ってたのに、レイシアとしての意識は鳴りを潜めてしまった。

 そして、レイとして他人行儀に振る舞う彼女を見て、気がついてしまった。レイシアもレイも、いつかは僕の元を離れて行ってしまうのではないかという事に。

 僕は、売られるようにしてここの養子にされたから…、レイシアの気持ちに応えたら、彼女との家族としての立ち位置も、無くしてしまうかもしれないと怖かったのか…。

 自分勝手な保身の為に、レイシアの思いを蔑ろにしてきたのか…。

 この思いを伝え、拒絶されてもいい。レイの屈託ない笑顔を取り戻す為に。
 僕は足掻こうと決意した。
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