上 下
27 / 88
本編

24(レイス視点)

しおりを挟む
「私の元いた世界だと、パンももっとやわらかくて、食べやすいのです。いつかご馳走したいなって思っています」

「またの楽しみにしているよ。手伝える事があったらいつでも言ってね」

 少しでも彼女の力になりたいと思った。

「レモンを蜂蜜につけて酵母を作りたいので殺菌とかの魔法を教えて貰えませんか?」

「酵母とはなんだね?」

 父上がそう問うとレイが口を開く。

「パンをやわらかくする為の菌でしょうか。紅茶を赤くする為に醗酵させるのですが、私がサロンについたときに飲んでいたお茶が中間発酵と呼ばれる状態です。醗酵しないで炒ると、緑色のお茶になると思います、パンをやわらかく膨らませるために、酵母菌というものが必要なんです…。今のパンも美味しいのですが、それがあるとふわふわなパンになるんです」

「そんなパンが…。想像つかないけど、食べてみたいわね」

 母上も気になるみたいだ。

「レイス様は、マヨネーズを作る時も、さり気なく除菌の魔法をかけてくれましたよね。それを自分でも使える様になりたいのです」

 気がついていたのか…。

「いつだってレイの為に使うのに。でも自分ですぐに使いたいって時もあるか。喜んで教えるよ」

「…ありがとうございます」

「後日に頑張ろう。今日の所は、必要なものがあるなら僕がやるけど」

 僕がやりたいんだと伝える。やりたい事に巻き込んだと思ってしまうみたいだもの。

「瓶を2つほど消毒して欲しいのです…」

「何をしたいの?」

「え? レモンの皮を剥いて蜂蜜につけて酵母菌を作りたいのと…、レモンの皮を捨てるのが惜しいので、砂糖につけてレモンピールにしようかと。お菓子やパンに入れると美味しいのです」

 そう言うレイが愛らしくてつい見惚れてしまった。

「飾り気はないのですけど…」

 そう言いながら、アイスクリームをアイテムバッグから出す。

「それは何? 見たことないわ?」

 「アイスクリームです。食べてみてください。焼きりんごやコーヒーに乗せたり、美味しいのです」

 母上にそう応えニコニコと笑うレイ。

「自信作か。楽しみだな…」

 父上はそう言い、アイスクリームを口元へと運ぶ。

「冷たいだと!」
 
「コッテリとした味わいなのにスッっと溶けていくわ…」

「ん! フルーツと合わせても美味しそうだね!」

 美味しくてついついスプーンが進む。

「念の為、おかわりも準備してましたが食べますか?」

 「用意周到だな」「嬉しいわ」

「少し足りない気分だったから嬉しいよ」

 僕らはそう口々に、喜びを伝えた。

 アイスクリームまた作ってくれるだろうか。大変そうだったけど頼んだら作ってくれそうだ。そう思うのは、自意識過剰だろうか。

「あの…、お父様…。先程の錬金術ってアレンジきくのでしょうか?」

 レイはそういうと、言葉を続ける。

「私のいた世界だと、電気や電池というものがないと、使えない器具なのですが、魔石に魔力チャージするとか魔力を注ぎ込む事が出来れば、アイスクリームとか、シャーベットとか材料を入れて置くだけで、簡単に出来ると思うのですよね…」

 料理人に頼んでかき混ぜて貰ってた作業が不要になるなら、もっと頻繁に食べられるかもしれないな。父上に頼み込まなければ。
 領地内だけに器具を送って、名産にしたい所だけど。卵やミルクは、永続的に入るものではない。そこをクリアすればあるいは。

「そんな程度だったら、平気だと思うよ? 見知ったものなら材料を用意すれば魔力の続くだけ作れるんだけど、人の想像を読み取るのに集中力使うのか、さっきみたいなのは一日数回しか作れない。だから大した事はないんだよ」

 たまに、やってくれるけど、僕らがあまり一般受けする事を考えないせいか、重宝した記憶がない。

「あぁ、生きた物とか精霊とかの召喚しか出来ないから、レイの役に立たない~」

 僕も参戦してみる。なんでんで伝説上の生き物を召喚したいなんて役に立たない事をやりたがったんだろう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

異世界のんびり料理屋経営

芽狐
ファンタジー
主人公は日本で料理屋を経営している35歳の新垣拓哉(あらかき たくや)。 ある日、体が思うように動かず今にも倒れそうになり、病院で検査した結果末期癌と診断される。 それなら最後の最後まで料理をお客様に提供しようと厨房に立つ。しかし体は限界を迎え死が訪れる・・・ 次の瞬間目の前には神様がおり「異世界に赴いてこちらの住人に地球の料理を食べさせてほしいのじゃよ」と言われる。 人間・エルフ・ドワーフ・竜人・獣人・妖精・精霊などなどあらゆる種族が訪れ食でみんなが幸せな顔になる物語です。 「面白ければ、お気に入り登録お願いします」

異世界に来たようですが何も分かりません ~【買い物履歴】スキルでぼちぼち生活しています~

ぱつきんすきー
ファンタジー
突然「神」により異世界転移させられたワタシ 以前の記憶と知識をなくし、右も左も分からないワタシ 唯一の武器【買い物履歴】スキルを利用して異世界でぼちぼち生活 かつてオッサンだった少女による、異世界生活のおはなし

ぽっちゃりな私は妹に婚約者を取られましたが、嫁ぎ先での溺愛がとまりません~冷酷な伯爵様とは誰のこと?~

柊木 ひなき
恋愛
「メリーナ、お前との婚約を破棄する!」夜会の最中に婚約者の第一王子から婚約破棄を告げられ、妹からは馬鹿にされ、貴族達の笑い者になった。 その時、思い出したのだ。(私の前世、美容部員だった!)この体型、ドレス、確かにやばい!  この世界の美の基準は、スリム体型が前提。まずはダイエットを……え、もう次の結婚? お相手は、超絶美形の伯爵様!? からの溺愛!? なんで!? ※シリアス展開もわりとあります。

転生した悪役令嬢は破滅エンドを避けるため、魔法を極めたらなぜか攻略対象から溺愛されました

平山和人
恋愛
悪役令嬢のクロエは八歳の誕生日の時、ここが前世でプレイしていた乙女ゲーム『聖魔と乙女のレガリア』の世界であることを知る。 クロエに割り振られたのは、主人公を虐め、攻略対象から断罪され、破滅を迎える悪役令嬢としての人生だった。 そんな結末は絶対嫌だとクロエは敵を作らないように立ち回り、魔法を極めて断罪フラグと破滅エンドを回避しようとする。 そうしていると、なぜかクロエは家族を始め、周りの人間から溺愛されるのであった。しかも本来ならば主人公と結ばれるはずの攻略対象からも 深く愛されるクロエ。果たしてクロエの破滅エンドは回避できるのか。

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

処理中です...