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本編

3(レイス視点)

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 僕は、公爵家の分家に生まれた。本来ならレイシア様が跡目を継ぐはずだった。けれど女性の身で爵位を継承するのは、簡単なことではなかった。

 そのために遠縁とはいえ、公爵に似た外見をし、少なからず血をひいている僕に白羽の矢が立った。礼儀作法を得るために、公爵様の弟君の養子となった。
 いつしかレイシア様と恋に落ちたら…なんて思惑もあったのか兄妹ではなく従兄弟として引き取られたらしい。
 お金に困っていた様子の両親に売られるようにして、公爵様の弟君の養子になったようだ。僕が5歳の頃らしい。

 けれど、引き取ってくれた義父上は、半年もしない内に病気でこの世を去ってしまった。

 それからずっと同じ屋敷に暮らしているのだからと、僕を公爵様達は本当の息子の様に接してくれた。
 父と母と読んでくれと言われ、恐れ多くも父上母上と呼ばせて貰っている。

 レイシアは小さかった事もあってか本当の兄の様に慕ってくれ、甘えてくれた。

 家族としてのぬくもりを与えられたのは、引き取ってくれた義父、義叔父である父上、義叔母である母上、愛らしいレイシアと出会ってからだった様に思う。

 可愛らしいし甘やかしたいけれど、妹としか受け入れる事ができないレイシア。

「血が繋がってたって、些末なことよ。お兄様と結婚したい!」

 少しブラコン気味で、そう言ってはばからない。可愛くて仕方ないのに、家族として接していた時間が長すぎたのか…。愛だけど親愛であって、恋愛のそれではないと感じる対象のレイシア。

 本能的に血が繋がっていないと感じるのか、レイシアの発する「好き」という表現に苦笑するしかなかった。

 けれど階段から足を滑らせたと言う知らせを聞き、焦りながら彼女の元に向かうと、血色を失い青白い顔で眠り続けるレイシアを見て、僕は言葉を失う。

「きっと大丈夫よ」と自分に言い聞かせるように、僕を抱きとめる母上に、僕達は交代で様子を見に行った。

 傍にいるのが当たり前のように感じても、不意に別れは訪れるのに…。僕はなんで彼女を受け入れる事が、出来なかったのだろうか。そんな後悔が降り積もる。

 レイシアは目を覚まさない。このまま動かない可能性もあると医師に診断されて時間だけそのまま経過していった。

 僕達は不安の為か、彼女の傍を離れられなかった。

 執事に「レイシア様の為にもきちんと休んで下さい。倒れられたら心配されます!」

 そう言われ、僕達はしぶしぶと部屋へと戻った。けれど、眠る事など出来なかった。

 それから、少し経ってレイシアが目を覚ましたと知らせを受けた。

 けれど、目覚めた彼女はいつもと様子が違う。僕の顔を見て、見知らぬ人のように頬を染めたり、泣いて叫ぶ。

「夢のはずなのに…、なんで目覚めないの? どうして抱きしめられているの? 貴方達は誰なの? ここはどこ? こんな場所私はしらない! 私はレイシアって名前じゃない…。鳴海 玲なるうみ れいだったはず……」

 そう泣きじゃくる彼女の背中を、母上は優しく「大丈夫…」「落ち着いて…」となでて落ち着かせようとしている。

 呆然と見つめるしかできない僕。何故だか僕の義妹が永遠に喪われた気がした。

 僕は未来へつながる架け橋アルク…。そう呼ばれる、異世界からの使者の事が頭を過ぎってしまった。

 異世界人の魂が、この世で失われた者の体に乗り移る。そんな都市伝説じみた存在の話を。
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