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本編

5(アレク視点)

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 彼女の真似をして、赤い果実を食べてみると、シャクっとした小気味いい食感がした。咀嚼していくと、果汁が口に広がって、嫌味のない酸っぱさと甘さが美味しい。

 初めて味わうものの味、そしてその食感を楽しみながら、果物や野菜だらけの食事を進めた。

「ここは不毛の地だ。本来なら簡単に食物がこの地に、宿ることはないはずなんだ……。君は一体?」

「あ、申し遅れました、リフィルと申します。豊穣の精霊の愛し子と、身内では呼ばれていました」

「行く場所がないと言っていたが、俺の城で君の力を貸してくれないだろうか」

 そう言って、変化の術を解く。黒い髪に赤い目と人間に忌み嫌われる姿を晒す。

「俺はこの魔族領を率いる魔王、アレクシア・スレイブという。さっきの姿は、視察や正体を隠したい時に使っている。恐ろしくて、俺にはついて来れないだろうか?」

「怖くはありません。アレクさんは、とても親切でしたもの。けれど、私に出来る事でしょうか? アレクシア様とお呼びしないと愛称になってしまいますね……。どうしよう…」

「さっきも言ったが、この地には植物が実らない。その理由を探してはいるのだが、リフィル嬢の、力を貸してくれないだろうか…」

 うーんと、考えるような素振りをするリフィル嬢。

「私は元いた国の王子に、死を望まれているみたいです。今後あの方に煩わされたくないので、姿を変える魔道具があれば、貸していただけませんか? あと、リルと名乗りたいと思います。その条件を飲んでくださるなら、ぜひ、私を連れて行ってください」

 こんなに誠実そうで、愛らしい娘の命を狙うのか。予備に持ったブレスレット型の魔道具をリフィルに渡す。

「そういうリフィル嬢のリルも愛称ではないのか?」

 楽しげな微笑みを浮かべ、リフィル嬢は言う。

「家族はリフイと呼んでいましたし、見た目の印象が変われば、周囲に気づかれにくいと思うのです…。両親には落ち着いたら、連絡を取りたいですが」


「無事だという手紙だけ書いたらどうだ? 鳥の式に届けさせるぞ」

「ありがとうございます」

 レターセットを準備すると、その間にブレスレットの魔道具をつけたらしいリフィル嬢は、真っ赤な髪にグレーシルバーの瞳に姿を変えていた。


 トトンというノック音と共に、「「ただ今戻りました」」とオレンジ色の髪にブルーグレーの瞳の猫獣人のセイルと、紫の髪と瞳を持つうさぎ獣人のフィールが帰ってきた。

「アレクシア様! なんで本来の姿を晒してるんですスか!」

 セイルが呆れたようにいい、フィールは深いため息をついたあとに言った。

「こちらの方は?」

 奴らにも説明しないとなと、野菜や果物を彼らに渡しながら、どう話し出そうかと考えた。
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