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第1章
ポメラニアンの一家1
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「うわあああ!」
ガツン! と音がすれば、目の前に星がチカチカ飛んで、頭がガンガン痛くなった。なんでかわからないけど、世界が反対になっている。何が起きたのかよくわからな。あまりの痛さに思わず涙が出る。
パタパタとスリッパを履いて、階段を急いで上ってくる足音がする。音を立てて木製のが開かれると「やだ!」と反対になっているお母さんが悲鳴をあげる。「渉ったら、またベッドから落ちちゃったの!? もう! 寝相が悪いんだから!」
そっか。ぼく、ベッドから落ちたんだ。納得! なんて思いながら、よいしょと身体を起こす。世界はいつも通りの姿に戻った。
フローリングの床にぶつけたところを手で触れると、少し熱をもって腫れている。
お母さんが眉を八の字にして困り顔をする。
「たんこぶできてない? 冷やす?」
「平気。これくらい大丈夫だよ。ごめんね、朝から大騒ぎしちゃって」
「べつに、いつものことだから慣れてるといえば慣れてるけど……お願いだから大怪我なんかしないでよね」
「うん、気をつけます」
「それより朝ご飯できてるわよ。早く学校へ行く準備しなさい」
「はーい」と返事をして、リュックの中に忘れ物がないかを確認する。
お母さんがドアを閉める直前で、こっちに振り返る。
「そうだわ。今日は収録の日なの?」
「うん、アニメのアフレコがあるんだ。だから、帰りは少し遅くなるよ」
「そう、わかったわ。現場の人たちには、くれぐれも失礼のないようにね」
「もちろんだよ。遊びでやってるわけじゃなく、仕事でやってるんだから!」
――いつもと同じように顔を洗ってクリームを塗ってから髪をセット。制服に着替えたら日焼け止めを塗り、紺色のリュクを引っ張って階段を下りていく。
リビングの席について、「いただきます」と挨拶をしてフォークを手に取る。
こんがり焼けたトーストとカリカリベーコンに半熟玉子。プチトマトときゅうりとサニーレタスのサラダにはオーロラソースがかかっている。今日も、お母さんの料理は美味しそうだ!
テレビのニュースに映るペットの黒猫の姿を眺めながら、ご飯を黙々と口へ運ぶ。
途中で甘いカフェオレを口にして、お父さんがいないことに気づき、姿を探す。
ぼくと、お父さん、それから自分の分のお弁当をキッチンで作っているお母さんの背中に向かって、声を掛けた。
「ねえ、お母さん、お父さんはどこ? 今日は出張?」
「違うわよ、お父さんなら新聞を持ってトイレに行ったわ。もうトイレに長居するのはやめてって言ってるのに言うことを聞かないし、新聞が汚くなるからやめてほしいのに!」とお父さんへの愚痴をこぼす。
「えっ、そうなの? だとしても、ちょっと長くない?」
ぼくは、いやな予感がして手を止めた。
お母さんも気づいたのだろう。ハッとしたように振り返り、テレビに表示された時間を見つめる。
「嘘……もう四十分も経ってるわ。気づかなかった! 渉、先にお父さんの様子見てきてくれる?」
「うん、わかった!」
席を立ち、廊下のほうへ走ってトイレのドアの前に立つ。取っ手の上のネジが横になり、その上の小さな四角い窓が赤色になってる。中からはカリカリと木製のドアを引っ掻く音とくーん、くーんと助けを呼ぶ犬のか細い声がした。
「わあ、やっぱり! お母さん、お父さん、トイレで変態しちゃって出られなくなってる!」
「もう、仕方のない人なんだから!」とお母さんの大きな悲鳴がリビングからする。すぐにお母さんが走ってきてトイレの前にやってくる。十円玉をトイレのネジにピッタリはめて左へ回す。すぐにドアを開ければ、白と薄茶色の混じったモフモフのポメラニアンがあらわれた。
トイレの床には、お父さんが着ていたパジャマや下着と一緒に、ビリビリに破られた新聞紙でいっぱいだ!
きゅるんとした目をしてポメラニアンは「ワン!」と元気よく返事をする。まるで何事もなかったかのように廊下のほうへと走っていこうとした。
だが、お母さんは両手でポメラニアンになったお父さんを捕まえ、抱き上げる。自分の目線とポメラニアンになったお父さんの目線を合わせる。
「お父さん――ポメラニアンになったからって、こんなことをして許されると思っているの!?」と外は澄み切った青空で天気がいいというのに、ピシャー! と家の中に雷が落ちる。
お母さんの怒声という名の雷を、直に浴びたポメラニアン姿のお父さんは、きゅーんと泣き声みたいな声を出して顔をうつむかせた。
「あれかね、猫田課長と宇佐美本部長が言い合いになってたって話してたから」
「違うわ、それはもう背黄青さんのおかげで解決してるもの」
「じゃあ……この間、金魚さんと浮気してるって、お母さんに疑われたから? 『浮気じゃないよ』ってぼくが言ったのに、誤解するんだから」
「だって美人で若い子だったんだもの……って、それはいいの! 金魚さんに、ちゃんと話を聞いたから解決済みよ」と頬を染め、ムッとした顔をしながらお母さんが答える。
ポメラニアンは手足をジタバタして下ろしてほしいとアピールする。
ガツン! と音がすれば、目の前に星がチカチカ飛んで、頭がガンガン痛くなった。なんでかわからないけど、世界が反対になっている。何が起きたのかよくわからな。あまりの痛さに思わず涙が出る。
パタパタとスリッパを履いて、階段を急いで上ってくる足音がする。音を立てて木製のが開かれると「やだ!」と反対になっているお母さんが悲鳴をあげる。「渉ったら、またベッドから落ちちゃったの!? もう! 寝相が悪いんだから!」
そっか。ぼく、ベッドから落ちたんだ。納得! なんて思いながら、よいしょと身体を起こす。世界はいつも通りの姿に戻った。
フローリングの床にぶつけたところを手で触れると、少し熱をもって腫れている。
お母さんが眉を八の字にして困り顔をする。
「たんこぶできてない? 冷やす?」
「平気。これくらい大丈夫だよ。ごめんね、朝から大騒ぎしちゃって」
「べつに、いつものことだから慣れてるといえば慣れてるけど……お願いだから大怪我なんかしないでよね」
「うん、気をつけます」
「それより朝ご飯できてるわよ。早く学校へ行く準備しなさい」
「はーい」と返事をして、リュックの中に忘れ物がないかを確認する。
お母さんがドアを閉める直前で、こっちに振り返る。
「そうだわ。今日は収録の日なの?」
「うん、アニメのアフレコがあるんだ。だから、帰りは少し遅くなるよ」
「そう、わかったわ。現場の人たちには、くれぐれも失礼のないようにね」
「もちろんだよ。遊びでやってるわけじゃなく、仕事でやってるんだから!」
――いつもと同じように顔を洗ってクリームを塗ってから髪をセット。制服に着替えたら日焼け止めを塗り、紺色のリュクを引っ張って階段を下りていく。
リビングの席について、「いただきます」と挨拶をしてフォークを手に取る。
こんがり焼けたトーストとカリカリベーコンに半熟玉子。プチトマトときゅうりとサニーレタスのサラダにはオーロラソースがかかっている。今日も、お母さんの料理は美味しそうだ!
テレビのニュースに映るペットの黒猫の姿を眺めながら、ご飯を黙々と口へ運ぶ。
途中で甘いカフェオレを口にして、お父さんがいないことに気づき、姿を探す。
ぼくと、お父さん、それから自分の分のお弁当をキッチンで作っているお母さんの背中に向かって、声を掛けた。
「ねえ、お母さん、お父さんはどこ? 今日は出張?」
「違うわよ、お父さんなら新聞を持ってトイレに行ったわ。もうトイレに長居するのはやめてって言ってるのに言うことを聞かないし、新聞が汚くなるからやめてほしいのに!」とお父さんへの愚痴をこぼす。
「えっ、そうなの? だとしても、ちょっと長くない?」
ぼくは、いやな予感がして手を止めた。
お母さんも気づいたのだろう。ハッとしたように振り返り、テレビに表示された時間を見つめる。
「嘘……もう四十分も経ってるわ。気づかなかった! 渉、先にお父さんの様子見てきてくれる?」
「うん、わかった!」
席を立ち、廊下のほうへ走ってトイレのドアの前に立つ。取っ手の上のネジが横になり、その上の小さな四角い窓が赤色になってる。中からはカリカリと木製のドアを引っ掻く音とくーん、くーんと助けを呼ぶ犬のか細い声がした。
「わあ、やっぱり! お母さん、お父さん、トイレで変態しちゃって出られなくなってる!」
「もう、仕方のない人なんだから!」とお母さんの大きな悲鳴がリビングからする。すぐにお母さんが走ってきてトイレの前にやってくる。十円玉をトイレのネジにピッタリはめて左へ回す。すぐにドアを開ければ、白と薄茶色の混じったモフモフのポメラニアンがあらわれた。
トイレの床には、お父さんが着ていたパジャマや下着と一緒に、ビリビリに破られた新聞紙でいっぱいだ!
きゅるんとした目をしてポメラニアンは「ワン!」と元気よく返事をする。まるで何事もなかったかのように廊下のほうへと走っていこうとした。
だが、お母さんは両手でポメラニアンになったお父さんを捕まえ、抱き上げる。自分の目線とポメラニアンになったお父さんの目線を合わせる。
「お父さん――ポメラニアンになったからって、こんなことをして許されると思っているの!?」と外は澄み切った青空で天気がいいというのに、ピシャー! と家の中に雷が落ちる。
お母さんの怒声という名の雷を、直に浴びたポメラニアン姿のお父さんは、きゅーんと泣き声みたいな声を出して顔をうつむかせた。
「あれかね、猫田課長と宇佐美本部長が言い合いになってたって話してたから」
「違うわ、それはもう背黄青さんのおかげで解決してるもの」
「じゃあ……この間、金魚さんと浮気してるって、お母さんに疑われたから? 『浮気じゃないよ』ってぼくが言ったのに、誤解するんだから」
「だって美人で若い子だったんだもの……って、それはいいの! 金魚さんに、ちゃんと話を聞いたから解決済みよ」と頬を染め、ムッとした顔をしながらお母さんが答える。
ポメラニアンは手足をジタバタして下ろしてほしいとアピールする。
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