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第9章
あなたの思いやりに感謝します1
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中央1改札を抜けて右に曲がり、歩いて行く。今日は天気がいいから39番出口でなく東口から行こうと、東口(南)を目指した。
左側に丸ノ内線の中央通路中央改札が見えたら右斜めに向かい、アゼリアロードを通る。小さな階段を小走りで上り、そのまま左手に向かう。
地上に出るための階段を上って、まっすぐ道を進んでいく。土曜だから人が多い。
道行く人の中でも、手を繋いでいる高校生くらいのカップルや子連れの夫婦が自然と目にとまる。
以前、電車に乗ったときは子連れの夫夫を見て、いやな気持ちになったのに今は普通に見れるのだから不思議だ。
彼らも今日一日、デートをしたり、買い物をするのだろうか? なんて思いながら南池袋公園に向かって歩いていく。
芝生広場で思い思いにゆったり時間を過ごしている人たちの姿を目にする。晴れているし、気温もほどよく過ごしやすいからピクニックをしている人も多い。
左手のヒマワリテラスで待っているち北野さんから連絡があった。
ショルダーバッグからスマホを取り出し、時刻を確認する。10:15だ。まだ来てないかもと思いつつ、ヒマワリテラスのほうへと足を運ぶ。
「えっ……」
すでに北野さんはいた。白いシャツに紺のセットアップスーツで白いスニーカーを履いている。清潔感の漂う大人って感じの格好をしていて、かっこいいと思う。
ただ問題があるとしたら――ひどく怒った顔をしてピンクのバラの花束を持っていることだ。まるで人を殺さんばかりの黒いオーラを放っているから公園に入ってきた人たちも遠巻きにしていて、寄り付かない。
小さい女の子が困惑顔で「ママ、あのお兄ちゃん……」と鬼のような形相をして立っている北野さんを指差した。
母親は「こらっ、そういうことをしないの!」と血相を変えて幼い娘を抱き上げ、キッズテラスのほうへそそくさと去っていく。
まさか……遅刻したわけじゃないよね!? スマホが壊れた?
そう思い、入口のところにあるミミズクの形をした時計を見るために顔を上げる。
しかし時計は僕のスマホと同じ時刻だった。
どうしたんだろ、何か気に触るようなことをしたかな? 本当は僕とデートをしたくなかった……? めんどくさいって思ってるとか……と考える。公園の入口から北野さんの様子をそっと伺う。
北野さんはスーツの上着のポケットからスマホを取り出し、何か画面操作をするとスマホを耳に当てた。
あっ、まずいかも――と思ったが手遅れだった。マナーモードにしていなかった僕のスマホがけたたましく音楽を鳴らし始める。
すると北野さんが、ぐりんとこっちに顔を向けた。
マッチングアプリだけでなく、結婚相談所でお互いの写真を目にしているから言い逃れはできない。
北野さんはスマホをタップして、ポケットの中に入れ直すと、そのままこちらへズンズンと歩いてくる。
「おはようございます、村山さん」
険しい顔つきをした北野さんが淡々とした口調で挨拶をする。
「……おはようございます。えっと、北野さんですよね」
「はい……」
もうダメだとショックを受ける。
何が原因かわからないけど、北野さんは僕のことを恋愛対象としては見てくれない。初回のデートで、おしまいか……。
メッセージや電話で次もなんて話をして、勝手に期待しててバカみたいだ。
地面を足元のローファーにやり、これからどうしようと頭を悩ませる。
水族館に行けるのを楽しみにしてたけど、ここで解散だよな。せっかく、こんなにいい天気なんだ。アパートにそのまま帰るのも、もったいあに。このまま気分が落ち着くまで公園にいて、有島さんにダメだったって報告をしたら、気分転換をするためにひとりで行ってみようかな?
きっと……エリナや康成が慰めてくれるし、マスターだって「縁がなかったのよ」って言ってくれる。バーテンに「こんなことでへこたれて、どうする!?」って言われそうだな。
そんなことを思いつつ、北野さんにお礼を言いたい気持ちはちゃんとあって、声が震えそうになるのをぐっと堪える。
「あの……今日は……」
突然、目の前にピンクのバラの花と甘い花の香りがして、なんだろうと仰天する。
「ありがとうございます、村山さん」
「えっ……?」
慌てて顔を上げてみれば、そこには耳や首まで真っ赤になっている北野さんがいた。
「おれを選んでくださったことや今日、デートに来てくれたことに、めちゃくちゃ感謝してます。これ、受け取ってください」
そのまま北野さんの大きな男らしい手がぼくの手をとり、バラの花束を握らせた。
「あの……」
「バラを人に贈るとき、本数によって意味が違うんです。八本のバラは『あなたの思いやりに感謝します』って意味があります。それからのピンクのバラには『感謝』って意味があって――」
北野さんは仏頂面をしたまま、僕に渡してきたバラの花についてを語る。
何がなんだからわからなくて頭が混乱する。
「――メッセージとか電話じゃなく、実際に会えて、すごく嬉しいです。内心、遠足に行く子供みたいにテンションも上がってて」
左側に丸ノ内線の中央通路中央改札が見えたら右斜めに向かい、アゼリアロードを通る。小さな階段を小走りで上り、そのまま左手に向かう。
地上に出るための階段を上って、まっすぐ道を進んでいく。土曜だから人が多い。
道行く人の中でも、手を繋いでいる高校生くらいのカップルや子連れの夫婦が自然と目にとまる。
以前、電車に乗ったときは子連れの夫夫を見て、いやな気持ちになったのに今は普通に見れるのだから不思議だ。
彼らも今日一日、デートをしたり、買い物をするのだろうか? なんて思いながら南池袋公園に向かって歩いていく。
芝生広場で思い思いにゆったり時間を過ごしている人たちの姿を目にする。晴れているし、気温もほどよく過ごしやすいからピクニックをしている人も多い。
左手のヒマワリテラスで待っているち北野さんから連絡があった。
ショルダーバッグからスマホを取り出し、時刻を確認する。10:15だ。まだ来てないかもと思いつつ、ヒマワリテラスのほうへと足を運ぶ。
「えっ……」
すでに北野さんはいた。白いシャツに紺のセットアップスーツで白いスニーカーを履いている。清潔感の漂う大人って感じの格好をしていて、かっこいいと思う。
ただ問題があるとしたら――ひどく怒った顔をしてピンクのバラの花束を持っていることだ。まるで人を殺さんばかりの黒いオーラを放っているから公園に入ってきた人たちも遠巻きにしていて、寄り付かない。
小さい女の子が困惑顔で「ママ、あのお兄ちゃん……」と鬼のような形相をして立っている北野さんを指差した。
母親は「こらっ、そういうことをしないの!」と血相を変えて幼い娘を抱き上げ、キッズテラスのほうへそそくさと去っていく。
まさか……遅刻したわけじゃないよね!? スマホが壊れた?
そう思い、入口のところにあるミミズクの形をした時計を見るために顔を上げる。
しかし時計は僕のスマホと同じ時刻だった。
どうしたんだろ、何か気に触るようなことをしたかな? 本当は僕とデートをしたくなかった……? めんどくさいって思ってるとか……と考える。公園の入口から北野さんの様子をそっと伺う。
北野さんはスーツの上着のポケットからスマホを取り出し、何か画面操作をするとスマホを耳に当てた。
あっ、まずいかも――と思ったが手遅れだった。マナーモードにしていなかった僕のスマホがけたたましく音楽を鳴らし始める。
すると北野さんが、ぐりんとこっちに顔を向けた。
マッチングアプリだけでなく、結婚相談所でお互いの写真を目にしているから言い逃れはできない。
北野さんはスマホをタップして、ポケットの中に入れ直すと、そのままこちらへズンズンと歩いてくる。
「おはようございます、村山さん」
険しい顔つきをした北野さんが淡々とした口調で挨拶をする。
「……おはようございます。えっと、北野さんですよね」
「はい……」
もうダメだとショックを受ける。
何が原因かわからないけど、北野さんは僕のことを恋愛対象としては見てくれない。初回のデートで、おしまいか……。
メッセージや電話で次もなんて話をして、勝手に期待しててバカみたいだ。
地面を足元のローファーにやり、これからどうしようと頭を悩ませる。
水族館に行けるのを楽しみにしてたけど、ここで解散だよな。せっかく、こんなにいい天気なんだ。アパートにそのまま帰るのも、もったいあに。このまま気分が落ち着くまで公園にいて、有島さんにダメだったって報告をしたら、気分転換をするためにひとりで行ってみようかな?
きっと……エリナや康成が慰めてくれるし、マスターだって「縁がなかったのよ」って言ってくれる。バーテンに「こんなことでへこたれて、どうする!?」って言われそうだな。
そんなことを思いつつ、北野さんにお礼を言いたい気持ちはちゃんとあって、声が震えそうになるのをぐっと堪える。
「あの……今日は……」
突然、目の前にピンクのバラの花と甘い花の香りがして、なんだろうと仰天する。
「ありがとうございます、村山さん」
「えっ……?」
慌てて顔を上げてみれば、そこには耳や首まで真っ赤になっている北野さんがいた。
「おれを選んでくださったことや今日、デートに来てくれたことに、めちゃくちゃ感謝してます。これ、受け取ってください」
そのまま北野さんの大きな男らしい手がぼくの手をとり、バラの花束を握らせた。
「あの……」
「バラを人に贈るとき、本数によって意味が違うんです。八本のバラは『あなたの思いやりに感謝します』って意味があります。それからのピンクのバラには『感謝』って意味があって――」
北野さんは仏頂面をしたまま、僕に渡してきたバラの花についてを語る。
何がなんだからわからなくて頭が混乱する。
「――メッセージとか電話じゃなく、実際に会えて、すごく嬉しいです。内心、遠足に行く子供みたいにテンションも上がってて」
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