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第9章
緊張と不安の初デート2
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『ああ、それはよかった。オレもおまえが康成のダチだって話をよく聞いてる』
「悪いけど、変なマウント取らないでくれるかな?」
『おいおい、敬語で話すと思ったらタメ語かよ』
「その言葉、そっくりそのまま返すよ。ぼくは、あなたと会ったことも、話したことも一度だってないんだけど。礼儀を欠いてる人間に礼儀正しくする必要なんてmないよね。馴れ馴れしくしないでくれる?」
『お堅いなー』と電話口の男が声を立てて笑う。『そんなに礼儀だなんだって小うるさいくせして、すぐにケツの穴を差し出すビッチとかマジ受けるんだけど。今日の初デートも、その体で男を籠絡するつもり?』
こんな男が康成と付き合ってるの? 信じられない……。
気持ちが高ぶらないように抑えつつ話を続ける。
「康成からどういうふうに話を聞いているのか知らないけど、人の話に首を突っ込まないでくれる。ほっといてよ」
『そうだな、俺としてはそっちのほうが助かるよ。おまえみたいなのが康成にまで手を出してきたら、困るからな』
『いい加減にしろ! このボケナス!』
ドゴッ! と固いものが何かにぶつかる大きな音がして、ぼくはスマホを耳から遠ざけた。
『康成、おまえ……あっ……』
『てめえは人のダチに、なんっつーことを言ってるんだよ! 最低クソ野郎……!』
「ごめん。悪かったってば……なあ、許してくれよ!」と男が情けない声で謝っている。
それ以外にもガシャンガシャン、ドタンバタンととんでもない音がする。何かが壊れたり、倒れたり、割れたりするような音だ。
なんだか電話をしなかったほうがよかったかもと思いながら、電話を切ろうとしたら、康成の『晃嗣!』とぼくの名前を呼ぶ声がする。
『悪い。うちのバカ彼氏が、ろくでもないことばっかり言って……代わりに謝る、ごめん』
「謝らなくていいよ。事実だし」
『そういうわけにはいかないだろ! だって、おまえは変わろうとしてるんだ。今日のデートだって、あのアホが言うようなやつじゃなくて、もっとマジなやつだろ!? 遊びで一晩寝るんじゃなくて、真剣に恋愛したいって思って、お互いの性格とか価値観なんかの相性を確かめるやつ。この間も言ってただろ。『すごく誠実な人と出会えて、デートがすっごく楽しみだ』って。どうした、何があったんだよ?』
「なんでもない、大したことじゃないんだ。きみの彼が言うように、人ってそんなに簡単に変われるものじゃない。……ぼくの本質は、きっと変わらないんだ」
ますます北野さんと会うのが怖くなっていく。
いくら好きな人に失恋したからって、何人もの男とセックスするようなやつを、あの人はどう思うだろう?
黙っていても、騙したことにならない。けど、そんな事実を知ったら、北野さんでもぼくのことをいやになるかもしれない。だから――言いたくない。
でも言わないと彼に嘘をついているような感じになりそうで、後で知られたときに、どうしようって思う。
実際に会ってもいない人に嫌われたくない、好かれたいと思うなんて……どうかしてる。
「実はやめようと思ってるんだ。今日のデート」
『えっ……おまえ、何言って……?』
「ぼくみたいなやつと会っても北野さんのために、ならない。無意味なんだよ」
『おまえ、会いたくなくなったのか?』
「ううん……会いたいよ……。でも怖いんだ。ぼくの悪いところや、ダメなところを知られて、『いらない』って言われるのが……すごく怖い」
すると『うーん……』と康成が唸り声をあげる。『会わないで後悔するよりも、会って後悔したほうがいいと思うぞ』
「どういう意味?」
『北野さんが次はなしって判断するにしても、実際に会って言われれば諦めもつく。だけど、今日行かなくて次はなしってことになったら、『あのときデートに行けばよかったとか』みたいな、もしもの話を延々と考えることになるぞ。そうしたら、また航大くんのときみたいに悩んだり、前に進めなくなるんじゃないか?』
「それは……いやだな」
正直に思いを告げれば、康成は『だから日にちを改めるにしても絶対、会ったほうがいい。そっちのほうがおまえのためにも、北野さんのためにもなる』と念を押してきた。
『なんにもならないって言うけど、きっと北野さんは、晃嗣とデートできることをすごく楽しみにしてる。で、おまえの話を聞くに、二回目のデートもしたいって考えてるぞ』
「会ったこともない相手なのに?」
あんなに誠実でやさしい人なんだから、きっとぼく以上の人は、すぐ現れる。
『そうだな。遊び相手や寝る相手ならできるかもしれない。けど、家族になれるくらいの恋人を見つけるのは時間も、手間もかかる。だからマッチングアプリだけでなく、結婚相談所まで使ってるんだ。そこのプロがおまえを紹介してきて、おまえの写真を見たり、実際にメッセージのやりとりとか、電話してるうちに、いいなって思ったんだろ。向こうは、おまえが期待している以上かもしれないんだぞ。それなのに、おまえが来てくれなかったら傷つくんじゃないか?』
航大に「好き」と言われたくて、夜が明けるのをじっと待っていたことを思い出す。同時に公園の前で時計やスマホの画面を見て、ぼくが来るのを待つ北野さんのイメージが目の前に浮かんだ。
「でも、ぼくは……」
『まだ最初なんだし、相手のことを一から十まで、まるっと知る必要だってない。そこにいる、その人のありのままの姿を……嘘をついていない本当の姿が見られればいい。それで思ったこととか、伝えたいことを話してみろ』
自信たっぷりに康成は「大丈夫だ」と力強く言ってくれた。「もし、おまえが玉砕したら、そのときは朝まで話を聞いてやる。骨も全部拾ってやるから行ってこいよ」
ひどいことを言うなと思いつつ、笑ってしまう。
「そういう話は、やめてほしいんだけど」
『え、悪い……』としどろもどろになる康成に「嘘だよ」と話し、カバンを手に取る。
「ありがとう、康成。いってきます」
『おう、行って来い!』
「悪いけど、変なマウント取らないでくれるかな?」
『おいおい、敬語で話すと思ったらタメ語かよ』
「その言葉、そっくりそのまま返すよ。ぼくは、あなたと会ったことも、話したことも一度だってないんだけど。礼儀を欠いてる人間に礼儀正しくする必要なんてmないよね。馴れ馴れしくしないでくれる?」
『お堅いなー』と電話口の男が声を立てて笑う。『そんなに礼儀だなんだって小うるさいくせして、すぐにケツの穴を差し出すビッチとかマジ受けるんだけど。今日の初デートも、その体で男を籠絡するつもり?』
こんな男が康成と付き合ってるの? 信じられない……。
気持ちが高ぶらないように抑えつつ話を続ける。
「康成からどういうふうに話を聞いているのか知らないけど、人の話に首を突っ込まないでくれる。ほっといてよ」
『そうだな、俺としてはそっちのほうが助かるよ。おまえみたいなのが康成にまで手を出してきたら、困るからな』
『いい加減にしろ! このボケナス!』
ドゴッ! と固いものが何かにぶつかる大きな音がして、ぼくはスマホを耳から遠ざけた。
『康成、おまえ……あっ……』
『てめえは人のダチに、なんっつーことを言ってるんだよ! 最低クソ野郎……!』
「ごめん。悪かったってば……なあ、許してくれよ!」と男が情けない声で謝っている。
それ以外にもガシャンガシャン、ドタンバタンととんでもない音がする。何かが壊れたり、倒れたり、割れたりするような音だ。
なんだか電話をしなかったほうがよかったかもと思いながら、電話を切ろうとしたら、康成の『晃嗣!』とぼくの名前を呼ぶ声がする。
『悪い。うちのバカ彼氏が、ろくでもないことばっかり言って……代わりに謝る、ごめん』
「謝らなくていいよ。事実だし」
『そういうわけにはいかないだろ! だって、おまえは変わろうとしてるんだ。今日のデートだって、あのアホが言うようなやつじゃなくて、もっとマジなやつだろ!? 遊びで一晩寝るんじゃなくて、真剣に恋愛したいって思って、お互いの性格とか価値観なんかの相性を確かめるやつ。この間も言ってただろ。『すごく誠実な人と出会えて、デートがすっごく楽しみだ』って。どうした、何があったんだよ?』
「なんでもない、大したことじゃないんだ。きみの彼が言うように、人ってそんなに簡単に変われるものじゃない。……ぼくの本質は、きっと変わらないんだ」
ますます北野さんと会うのが怖くなっていく。
いくら好きな人に失恋したからって、何人もの男とセックスするようなやつを、あの人はどう思うだろう?
黙っていても、騙したことにならない。けど、そんな事実を知ったら、北野さんでもぼくのことをいやになるかもしれない。だから――言いたくない。
でも言わないと彼に嘘をついているような感じになりそうで、後で知られたときに、どうしようって思う。
実際に会ってもいない人に嫌われたくない、好かれたいと思うなんて……どうかしてる。
「実はやめようと思ってるんだ。今日のデート」
『えっ……おまえ、何言って……?』
「ぼくみたいなやつと会っても北野さんのために、ならない。無意味なんだよ」
『おまえ、会いたくなくなったのか?』
「ううん……会いたいよ……。でも怖いんだ。ぼくの悪いところや、ダメなところを知られて、『いらない』って言われるのが……すごく怖い」
すると『うーん……』と康成が唸り声をあげる。『会わないで後悔するよりも、会って後悔したほうがいいと思うぞ』
「どういう意味?」
『北野さんが次はなしって判断するにしても、実際に会って言われれば諦めもつく。だけど、今日行かなくて次はなしってことになったら、『あのときデートに行けばよかったとか』みたいな、もしもの話を延々と考えることになるぞ。そうしたら、また航大くんのときみたいに悩んだり、前に進めなくなるんじゃないか?』
「それは……いやだな」
正直に思いを告げれば、康成は『だから日にちを改めるにしても絶対、会ったほうがいい。そっちのほうがおまえのためにも、北野さんのためにもなる』と念を押してきた。
『なんにもならないって言うけど、きっと北野さんは、晃嗣とデートできることをすごく楽しみにしてる。で、おまえの話を聞くに、二回目のデートもしたいって考えてるぞ』
「会ったこともない相手なのに?」
あんなに誠実でやさしい人なんだから、きっとぼく以上の人は、すぐ現れる。
『そうだな。遊び相手や寝る相手ならできるかもしれない。けど、家族になれるくらいの恋人を見つけるのは時間も、手間もかかる。だからマッチングアプリだけでなく、結婚相談所まで使ってるんだ。そこのプロがおまえを紹介してきて、おまえの写真を見たり、実際にメッセージのやりとりとか、電話してるうちに、いいなって思ったんだろ。向こうは、おまえが期待している以上かもしれないんだぞ。それなのに、おまえが来てくれなかったら傷つくんじゃないか?』
航大に「好き」と言われたくて、夜が明けるのをじっと待っていたことを思い出す。同時に公園の前で時計やスマホの画面を見て、ぼくが来るのを待つ北野さんのイメージが目の前に浮かんだ。
「でも、ぼくは……」
『まだ最初なんだし、相手のことを一から十まで、まるっと知る必要だってない。そこにいる、その人のありのままの姿を……嘘をついていない本当の姿が見られればいい。それで思ったこととか、伝えたいことを話してみろ』
自信たっぷりに康成は「大丈夫だ」と力強く言ってくれた。「もし、おまえが玉砕したら、そのときは朝まで話を聞いてやる。骨も全部拾ってやるから行ってこいよ」
ひどいことを言うなと思いつつ、笑ってしまう。
「そういう話は、やめてほしいんだけど」
『え、悪い……』としどろもどろになる康成に「嘘だよ」と話し、カバンを手に取る。
「ありがとう、康成。いってきます」
『おう、行って来い!』
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