マッチングアプリ

鶴機 亀輔

文字の大きさ
上 下
37 / 51
第8章

菫1

しおりを挟む
 保湿クリームを塗り終え、裸のままの状態で洗面所の前に立つ。

ドライヤーを手に髪を乾かす。マッシュヘアにしているけどパーマが入っているから、ちゃんと髪を乾かさないと翌朝アフロになってしまうからだ(縮毛矯正は時間がかかるから、かけてない)。何より大学受験のときに何ヵ月も髪を切らずにいて、合格後美容師のお姉さんに「長い髪もお似合いですよ」と毛先を揃えるだけにしてもらったら、授業初日に異性愛者の男に女と間違えられた。「紛らわしい髪型してんじゃねえよ!」と罵られて以来、絶対に髪を長くしないと決めた。

 髪を乾かし終えて、鏡の中にいる自分を見つめる。

 黒髪に青い目、白い肌をしている男がいる。

 明日は初デート兼顔合わせの日だというのに、ずいぶんと浮かない顔だ。

 パット見では男か、女か判然としない顔立ちをしてる。目鼻立ちはくっきりしていないし、際立って美しい容姿ではない。美形や美少年、イケメン、美人という言葉とは無縁だ。雰囲気もかわいいとか、親しみをもてる、かっこいいといった印象を、人に与えるものではないだろう。

 身体は趣味の水泳のおかげで無駄な贅肉がついておらず、引き締まっている。筋肉がうっすらとついているが、手足が長くスタイルがいいわけではない。

 ペニスだって、上級オメガたちのギリシャの彫刻像のように美しい性器とは異なる。標準サイズで勃起すれば色も、形もグロくなる。

 フェラチオを「へたくそ」と罵倒されたことがあるし、アナルだって名器ではない。

 ガニュメデスでは、初日のデートから交際スタートまでの期間の性的接触は、ご法度だ。もしも、そんなことをしていると発覚したら、強制退会で出禁扱いになる。

 ぼくも、そういう目的できたさんと会うわけではない。

 エリナたちのように気兼ねなく話せる関係になりたいと思ってるだけ。

 そして彼がぼくのことを少しでも気に入ってくれて、ぼくももっと彼と話をしたいと思えたら、交際を始めたい。恋人となって過ごす時間を増やして、ゆくゆくは人生のパートナーになれたらいいなと思う。

 でも彼は性的接触を伴わないパートナーを求めているグループには登録していなかった。つまり仮交際や真剣交際をスタートしたら、肉体関係をもつ可能性が高い。

 だけど、ぼくはソウジたちとの一件があってから、人から身体に触れられるのが少し怖くなってしまった。多分手をつないだり、ハグをしたり、触れるだけのキスをすることすら無理になっている。

 有島さんは「北野さんは古風で誠実な方ですから、もし交際がスタートしても、いきなり性的接触をという話にはなりませんよ」と念を押してくれたし、実際にそういう人なんだとおもうr。事実、デートの打ち合わせをするために彼と初めて電話したとき、真面目なで硬派な感じがした。彼に限って、いきなりキスをしたり、ハグをしてくるとか、押し倒してくることはないと思う。けど、手をつなぎたいと言われたとき――応えられるかどうかわからない。

 そしたら交際は白紙になっていまうのではないだろうか?



 親からは学校のテストの点数や、模試の偏差値で評価されてきた。ぼくの必要価値は、すべて数字で決まったんだ。点数が高ければ必要とされ、低ければ必要とされなくなる。

 そしてゲイやバイである男たちからは、セックスのしやすい人間かどうかで評価され、選ばれてきた。

 そんなぼくは、どうしても人間を数字や肩書なんかで測ろうとしてしまう。そしてセックスができるかどうかという基準で、人をジャッジするクセもついてしまった。その対象は他人だけでなく自分も含んでいる。

 顔や身体つきがよくないなら性格でカバーといいたいところだが、多くの人間から好かれる性格をしていない。めんどくさい性格をした人間であることは重々承知している。

 かといって話術に長けているわけでもないし、頭だってずば抜けていいわけではない。

 かといってセックスはガニュメデスの規約違反になるだけでなく、ぼく自身の精神状態からいっても禁じ手だ。

 

 こんな状態で北野さんと本当にうまくいくのか、不安しかない。




 *




 ――初日の面談を終えてから、ぼくは有島さんにプロフィールの書き方を教わった。その後も恋愛初心者であるぼくは予約を取り、相談にのってもらった。

 マッチングアプリではどういう相手を選ぶとトラブルになりにくくマッチングしやすいか、どういった人物に気をつけたり、警戒したほうがいいかを教わった。そしてメッセージの書き方やデートの仕方についての話を聴いたんだ。

 その間も恋愛に関する書籍やネットの記事、ガニュメデスのメルマガは熱心に読んでいた。

 マスターやエリナ、康成たちから話を聞いて、彼らの経験した恋愛についてや相手とどんなふうにやりとりをして、デートをしてきたのか参考にさせてもらった。

 そして七回目の相談をしたときに有島さんから北野さんのことを紹介してもらったのだ。



「お待ちしておりました、村山様。その後、ガニュメデスのほうはいかがですか?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

恋した貴方はαなロミオ

須藤慎弥
BL
Ω性の凛太が恋したのは、ロミオに扮したα性の結城先輩でした。 Ω性に引け目を感じている凛太。 凛太を運命の番だと信じているα性の結城。 すれ違う二人を引き寄せたヒート。 ほんわか現代BLオメガバース♡ ※二人それぞれの視点が交互に展開します ※R 18要素はほとんどありませんが、表現と受け取り方に個人差があるものと判断しレーティングマークを付けさせていただきますm(*_ _)m ※fujossy様にて行われました「コスプレ」をテーマにした短編コンテスト出品作です

どうやら俺は悪役令息らしい🤔

osero
BL
俺は第2王子のことが好きで、嫉妬から編入生をいじめている悪役令息らしい。 でもぶっちゃけ俺、第2王子のこと知らないんだよなー

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

君のことなんてもう知らない

ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。 告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。 だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。 今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが… 「お前なんて知らないから」

変なαとΩに両脇を包囲されたβが、色々奪われながら頑張る話

ベポ田
BL
ヒトの性別が、雄と雌、さらにα、β、Ωの三種類のバース性に分類される世界。総人口の僅か5%しか存在しないαとΩは、フェロモンの分泌器官・受容体の発達度合いで、さらにI型、II型、Ⅲ型に分類される。 βである主人公・九条博人の通う私立帝高校高校は、αやΩ、さらにI型、II型が多く所属する伝統ある名門校だった。 そんな魔境のなかで、変なI型αとII型Ωに理不尽に執着されては、色々な物を奪われ、手に入れながら頑張る不憫なβの話。 イベントにて頒布予定の合同誌サンプルです。 3部構成のうち、1部まで公開予定です。 イラストは、漫画・イラスト担当のいぽいぽさんが描いたものです。 最新はTwitterに掲載しています。

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

孤独を癒して

星屑
BL
運命の番として出会った2人。 「運命」という言葉がピッタリの出会い方をした、 デロデロに甘やかしたいアルファと、守られるだけじゃないオメガの話。 *不定期更新。 *感想などいただけると励みになります。 *完結は絶対させます!

キンモクセイは夏の記憶とともに

広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。 小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。 田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。 そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。 純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。 しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。 「俺になんてもったいない!」 素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。 性描写のある話は【※】をつけていきます。

処理中です...