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鶴機 亀輔

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第7章

あなただけのストーリー4

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 その言葉を聞いてぼくはどうだろう? と自問自答した。

 航大を好きな気持ちは本物だ。出会ってから、ずっと好きだった。

 だから芝谷さんの行動によって傷ついた航大を慰めるために、抱かれることになっても抵抗しなかった。

 乱暴に抱かれて、芝谷さんへの行き場のない気持ちの憂さ晴らしに使われても、彼を真正面から責めるなんてことはできなかった。

 親友だったのにという怒りや大切にしてくれたのは嘘だったのかと裏切られたと思う気持ちもあったけど、やっぱり航大もぼくの敵だった連中と同じだと落胆そた。

 今まで一緒にいた時間をすべて無にされたような……精いっぱいアプローチしてきたのを無視されて、その上で利用されたみたいで悲しかったんだ。

 だけど彼をこのまま何年も、何十年も思い続けることなんてぼくにはできない。そんなのは、たえられない。頭がおかしくなって心が壊れてしまう。

 芝谷さんだろうが、ほかのオメガやアルファといった女と結婚する日が遅かれ早かれ、いつかやって来る。そのとき、平然と嘘の笑顔を貼りつけて、式に参列する。そんなことはできない。

 今だって航大とギクシャクしていて顔を見れば泣いてしまいそうになる。苦しくて、つらくて、胸の奥が痛くて、どうにかしたいのにどうしたらいいのかわからないんだ。 

「村山様は己の行いを悔いて、お友だちに失恋したつらい現実を受け止めようとしていらっしゃいます。お友だちである方を大切に思われていたのですね。村山様にとって、家族や兄弟のように、かけがえのない存在だったのではないでしょうか? それこそ本当のご家族よりも信頼できる――唯一無二の人だったのではありませんか」



 ――両親は、ぼくが学校でいい成績を取り、先生から気に入られることにしか興味がなかった。

 友だちができなくて仲間はずれにされたり、意地悪やいじめられたことを打ち明けても意味がない。むしろ、いじめられていることを罵倒される。悲しんだり、泣いたりしたら家から放り出された。

 友だちなど、この世に存在しない。そんなものはまやかしだ。生きてく上で必要ない。不要なものだと教えられてきた。

 他人は倒す敵であり、引きずり下ろすべきものとして叩き込まれた。

 そんな状態で人と上手く交流できるわけがない。



 孤独だった。



 そんなぼくの意識を、世界を変えてくれたのが航大だった。利害関係も、打算もなしにそばにいてくれた。自分がひとりじゃないと教えてくれた。

 大切な存在だったんだ。

「彼の隣にいるときは少しだけ、息がしやすかったんです。窮屈に感じる家と疎外感を味わう学校。居場所なんて、どこにもありませんでした。幼少期から『他人は敵』と両親に教わってきたんです。事実、人とうまくコミュニケーションがとれないぼくにとって他人は、自分を傷つけ、陥れるおそろしい存在でした。そんなぼくに見返りもなく味方してくれった。いつも全力でぶつかってきて、なんだかんだ言いながらも助けてくれる。彼、根っからのお人好しなんですよ。出会って最初の頃、生意気にも『こんな馬鹿なやつ話したくない』とか思ってました。『話しかけないで』って突き放したことも、何十回……ううん、何百回あったか、わかりません。

 それでも、そばにいてくれた。長く一緒にいるうちに、ささくれて冷たくなっていた心が、少しずつ癒されていくのを感じたんです。『ウザイ』とか言いながら、彼が話しかけてくれるのを、そばに来てくれるのを待っている自分がいることに気づきました。彼のことを知りたい、もっと喋りたい、仲よくなりたいって思うようになったんです。だけど、それで終わらなかった。……彼がぼくのことを親友だと言ってくれたとき、オメガの異性が恋愛対象であるとを知って絶望しました。彼のそばにずっといたい、触れたい、一番になりたいと思っていたけど、絶対にその思いが報われない――叶わないことを知ったからです。そうして彼には番となり、結婚したいと強く望むオメガの女性ひとが現れました。完敗です」

「だからあなたは、自分が失恋した事実を受け入れ、こうやって新しい恋を見つけようとしているじゃないですか。マッチングアプリに登録して、見知らぬ人とメッセージのやりとりをして、会おうとした。わざわざ電車を乗り継いで都内の結婚相談所まで来て、私の前にいるではありませんか」

「どうでしょう? ぼくだって有島さんが言った人たちのように、彼の代わりになる人を……身代わりとなる人間を探したいだけなんだと思います」

「私はそうだとは思いません」と有島さんはキッパリ断った。「あなたがお友だちである彼と、どうしてトラブルになってしまったのか、何があったのかはわからないです。村山様も、その内容を口にするのを避けているような印象を受けます」

 すると有島さんは机の片隅に置いてあった書類の中からA4用紙を一枚取り、机の真ん中に置いた。

「しかし村山様がメッセージをやりとりした人物についてなら、相談員である私にもわかります。あなたは、年齢も、出身も、趣味も異なる人物とメッセージのやりとりをし、会いに行っています。目についた相手に片っ端からメッセージを送っているような印象を受けました。なぜなら選ぶ人間に一貫性がないからです。村山様がデートをなさったお相手の顔写真も確認させていただきましたが、客観的に見てお相手となった方の顔立ちや髪型、雰囲気などに共通点は見られませんでした。

 あなたは、お友だちに似た人を身代わりにしようとしたんじゃない。失恋の痛みを忘れさせてくれる相手を――彼と似た価値観を持ち、あなたを心から受け入れてくれる人を、求めたのではないでしょうか?」
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