35 / 51
第7章
あなただけのストーリー4
しおりを挟む
その言葉を聞いてぼくはどうだろう? と自問自答した。
航大を好きな気持ちは本物だ。出会ってから、ずっと好きだった。
だから芝谷さんの行動によって傷ついた航大を慰めるために、抱かれることになっても抵抗しなかった。
乱暴に抱かれて、芝谷さんへの行き場のない気持ちの憂さ晴らしに使われても、彼を真正面から責めるなんてことはできなかった。
親友だったのにという怒りや大切にしてくれたのは嘘だったのかと裏切られたと思う気持ちもあったけど、やっぱり航大もぼくの敵だった連中と同じだと落胆そた。
今まで一緒にいた時間をすべて無にされたような……精いっぱいアプローチしてきたのを無視されて、その上で利用されたみたいで悲しかったんだ。
だけど彼をこのまま何年も、何十年も思い続けることなんてぼくにはできない。そんなのは、たえられない。頭がおかしくなって心が壊れてしまう。
芝谷さんだろうが、ほかのオメガやアルファといった女と結婚する日が遅かれ早かれ、いつかやって来る。そのとき、平然と嘘の笑顔を貼りつけて、式に参列する。そんなことはできない。
今だって航大とギクシャクしていて顔を見れば泣いてしまいそうになる。苦しくて、つらくて、胸の奥が痛くて、どうにかしたいのにどうしたらいいのかわからないんだ。
「村山様は己の行いを悔いて、お友だちに失恋したつらい現実を受け止めようとしていらっしゃいます。お友だちである方を大切に思われていたのですね。村山様にとって、家族や兄弟のように、かけがえのない存在だったのではないでしょうか? それこそ本当のご家族よりも信頼できる――唯一無二の人だったのではありませんか」
――両親は、ぼくが学校でいい成績を取り、先生から気に入られることにしか興味がなかった。
友だちができなくて仲間はずれにされたり、意地悪やいじめられたことを打ち明けても意味がない。むしろ、いじめられていることを罵倒される。悲しんだり、泣いたりしたら家から放り出された。
友だちなど、この世に存在しない。そんなものはまやかしだ。生きてく上で必要ない。不要なものだと教えられてきた。
他人は倒す敵であり、引きずり下ろすべきものとして叩き込まれた。
そんな状態で人と上手く交流できるわけがない。
孤独だった。
そんなぼくの意識を、世界を変えてくれたのが航大だった。利害関係も、打算もなしにそばにいてくれた。自分がひとりじゃないと教えてくれた。
大切な存在だったんだ。
「彼の隣にいるときは少しだけ、息がしやすかったんです。窮屈に感じる家と疎外感を味わう学校。居場所なんて、どこにもありませんでした。幼少期から『他人は敵』と両親に教わってきたんです。事実、人とうまくコミュニケーションがとれないぼくにとって他人は、自分を傷つけ、陥れるおそろしい存在でした。そんなぼくに見返りもなく味方してくれった。いつも全力でぶつかってきて、なんだかんだ言いながらも助けてくれる。彼、根っからのお人好しなんですよ。出会って最初の頃、生意気にも『こんな馬鹿なやつ話したくない』とか思ってました。『話しかけないで』って突き放したことも、何十回……ううん、何百回あったか、わかりません。
それでも、そばにいてくれた。長く一緒にいるうちに、ささくれて冷たくなっていた心が、少しずつ癒されていくのを感じたんです。『ウザイ』とか言いながら、彼が話しかけてくれるのを、そばに来てくれるのを待っている自分がいることに気づきました。彼のことを知りたい、もっと喋りたい、仲よくなりたいって思うようになったんです。だけど、それで終わらなかった。……彼がぼくのことを親友だと言ってくれたとき、オメガの異性が恋愛対象であるとを知って絶望しました。彼のそばにずっといたい、触れたい、一番になりたいと思っていたけど、絶対にその思いが報われない――叶わないことを知ったからです。そうして彼には番となり、結婚したいと強く望むオメガの女性が現れました。完敗です」
「だからあなたは、自分が失恋した事実を受け入れ、こうやって新しい恋を見つけようとしているじゃないですか。マッチングアプリに登録して、見知らぬ人とメッセージのやりとりをして、会おうとした。わざわざ電車を乗り継いで都内の結婚相談所まで来て、私の前にいるではありませんか」
「どうでしょう? ぼくだって有島さんが言った人たちのように、彼の代わりになる人を……身代わりとなる人間を探したいだけなんだと思います」
「私はそうだとは思いません」と有島さんはキッパリ断った。「あなたがお友だちである彼と、どうしてトラブルになってしまったのか、何があったのかはわからないです。村山様も、その内容を口にするのを避けているような印象を受けます」
すると有島さんは机の片隅に置いてあった書類の中からA4用紙を一枚取り、机の真ん中に置いた。
「しかし村山様がメッセージをやりとりした人物についてなら、相談員である私にもわかります。あなたは、年齢も、出身も、趣味も異なる人物とメッセージのやりとりをし、会いに行っています。目についた相手に片っ端からメッセージを送っているような印象を受けました。なぜなら選ぶ人間に一貫性がないからです。村山様がデートをなさったお相手の顔写真も確認させていただきましたが、客観的に見てお相手となった方の顔立ちや髪型、雰囲気などに共通点は見られませんでした。
あなたは、お友だちに似た人を身代わりにしようとしたんじゃない。失恋の痛みを忘れさせてくれる相手を――彼と似た価値観を持ち、あなたを心から受け入れてくれる人を、求めたのではないでしょうか?」
航大を好きな気持ちは本物だ。出会ってから、ずっと好きだった。
だから芝谷さんの行動によって傷ついた航大を慰めるために、抱かれることになっても抵抗しなかった。
乱暴に抱かれて、芝谷さんへの行き場のない気持ちの憂さ晴らしに使われても、彼を真正面から責めるなんてことはできなかった。
親友だったのにという怒りや大切にしてくれたのは嘘だったのかと裏切られたと思う気持ちもあったけど、やっぱり航大もぼくの敵だった連中と同じだと落胆そた。
今まで一緒にいた時間をすべて無にされたような……精いっぱいアプローチしてきたのを無視されて、その上で利用されたみたいで悲しかったんだ。
だけど彼をこのまま何年も、何十年も思い続けることなんてぼくにはできない。そんなのは、たえられない。頭がおかしくなって心が壊れてしまう。
芝谷さんだろうが、ほかのオメガやアルファといった女と結婚する日が遅かれ早かれ、いつかやって来る。そのとき、平然と嘘の笑顔を貼りつけて、式に参列する。そんなことはできない。
今だって航大とギクシャクしていて顔を見れば泣いてしまいそうになる。苦しくて、つらくて、胸の奥が痛くて、どうにかしたいのにどうしたらいいのかわからないんだ。
「村山様は己の行いを悔いて、お友だちに失恋したつらい現実を受け止めようとしていらっしゃいます。お友だちである方を大切に思われていたのですね。村山様にとって、家族や兄弟のように、かけがえのない存在だったのではないでしょうか? それこそ本当のご家族よりも信頼できる――唯一無二の人だったのではありませんか」
――両親は、ぼくが学校でいい成績を取り、先生から気に入られることにしか興味がなかった。
友だちができなくて仲間はずれにされたり、意地悪やいじめられたことを打ち明けても意味がない。むしろ、いじめられていることを罵倒される。悲しんだり、泣いたりしたら家から放り出された。
友だちなど、この世に存在しない。そんなものはまやかしだ。生きてく上で必要ない。不要なものだと教えられてきた。
他人は倒す敵であり、引きずり下ろすべきものとして叩き込まれた。
そんな状態で人と上手く交流できるわけがない。
孤独だった。
そんなぼくの意識を、世界を変えてくれたのが航大だった。利害関係も、打算もなしにそばにいてくれた。自分がひとりじゃないと教えてくれた。
大切な存在だったんだ。
「彼の隣にいるときは少しだけ、息がしやすかったんです。窮屈に感じる家と疎外感を味わう学校。居場所なんて、どこにもありませんでした。幼少期から『他人は敵』と両親に教わってきたんです。事実、人とうまくコミュニケーションがとれないぼくにとって他人は、自分を傷つけ、陥れるおそろしい存在でした。そんなぼくに見返りもなく味方してくれった。いつも全力でぶつかってきて、なんだかんだ言いながらも助けてくれる。彼、根っからのお人好しなんですよ。出会って最初の頃、生意気にも『こんな馬鹿なやつ話したくない』とか思ってました。『話しかけないで』って突き放したことも、何十回……ううん、何百回あったか、わかりません。
それでも、そばにいてくれた。長く一緒にいるうちに、ささくれて冷たくなっていた心が、少しずつ癒されていくのを感じたんです。『ウザイ』とか言いながら、彼が話しかけてくれるのを、そばに来てくれるのを待っている自分がいることに気づきました。彼のことを知りたい、もっと喋りたい、仲よくなりたいって思うようになったんです。だけど、それで終わらなかった。……彼がぼくのことを親友だと言ってくれたとき、オメガの異性が恋愛対象であるとを知って絶望しました。彼のそばにずっといたい、触れたい、一番になりたいと思っていたけど、絶対にその思いが報われない――叶わないことを知ったからです。そうして彼には番となり、結婚したいと強く望むオメガの女性が現れました。完敗です」
「だからあなたは、自分が失恋した事実を受け入れ、こうやって新しい恋を見つけようとしているじゃないですか。マッチングアプリに登録して、見知らぬ人とメッセージのやりとりをして、会おうとした。わざわざ電車を乗り継いで都内の結婚相談所まで来て、私の前にいるではありませんか」
「どうでしょう? ぼくだって有島さんが言った人たちのように、彼の代わりになる人を……身代わりとなる人間を探したいだけなんだと思います」
「私はそうだとは思いません」と有島さんはキッパリ断った。「あなたがお友だちである彼と、どうしてトラブルになってしまったのか、何があったのかはわからないです。村山様も、その内容を口にするのを避けているような印象を受けます」
すると有島さんは机の片隅に置いてあった書類の中からA4用紙を一枚取り、机の真ん中に置いた。
「しかし村山様がメッセージをやりとりした人物についてなら、相談員である私にもわかります。あなたは、年齢も、出身も、趣味も異なる人物とメッセージのやりとりをし、会いに行っています。目についた相手に片っ端からメッセージを送っているような印象を受けました。なぜなら選ぶ人間に一貫性がないからです。村山様がデートをなさったお相手の顔写真も確認させていただきましたが、客観的に見てお相手となった方の顔立ちや髪型、雰囲気などに共通点は見られませんでした。
あなたは、お友だちに似た人を身代わりにしようとしたんじゃない。失恋の痛みを忘れさせてくれる相手を――彼と似た価値観を持ち、あなたを心から受け入れてくれる人を、求めたのではないでしょうか?」
1
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説
恋した貴方はαなロミオ
須藤慎弥
BL
Ω性の凛太が恋したのは、ロミオに扮したα性の結城先輩でした。
Ω性に引け目を感じている凛太。
凛太を運命の番だと信じているα性の結城。
すれ違う二人を引き寄せたヒート。
ほんわか現代BLオメガバース♡
※二人それぞれの視点が交互に展開します
※R 18要素はほとんどありませんが、表現と受け取り方に個人差があるものと判断しレーティングマークを付けさせていただきますm(*_ _)m
※fujossy様にて行われました「コスプレ」をテーマにした短編コンテスト出品作です
君のことなんてもう知らない
ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。
告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。
だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。
今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが…
「お前なんて知らないから」
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
変なαとΩに両脇を包囲されたβが、色々奪われながら頑張る話
ベポ田
BL
ヒトの性別が、雄と雌、さらにα、β、Ωの三種類のバース性に分類される世界。総人口の僅か5%しか存在しないαとΩは、フェロモンの分泌器官・受容体の発達度合いで、さらにI型、II型、Ⅲ型に分類される。
βである主人公・九条博人の通う私立帝高校高校は、αやΩ、さらにI型、II型が多く所属する伝統ある名門校だった。
そんな魔境のなかで、変なI型αとII型Ωに理不尽に執着されては、色々な物を奪われ、手に入れながら頑張る不憫なβの話。
イベントにて頒布予定の合同誌サンプルです。
3部構成のうち、1部まで公開予定です。
イラストは、漫画・イラスト担当のいぽいぽさんが描いたものです。
最新はTwitterに掲載しています。
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
成り行き番の溺愛生活
アオ
BL
タイトルそのままです
成り行きで番になってしまったら溺愛生活が待っていたというありきたりな話です
始めて投稿するので変なところが多々あると思いますがそこは勘弁してください
オメガバースで独自の設定があるかもです
27歳×16歳のカップルです
この小説の世界では法律上大丈夫です オメガバの世界だからね
それでもよければ読んでくださるとうれしいです
孤独を癒して
星屑
BL
運命の番として出会った2人。
「運命」という言葉がピッタリの出会い方をした、
デロデロに甘やかしたいアルファと、守られるだけじゃないオメガの話。
*不定期更新。
*感想などいただけると励みになります。
*完結は絶対させます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる