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第4章
売り言葉に買い言葉
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アパートへ帰り着くとぼくは自室の床にカバンを適当に置いて、フローリングの冷たい床に寝転んだ。何をするでもなく白い天井を眺め見た。
スマホから着信音がする。画面を見れば、芝谷さんだった。
また? と思いながら、ため息をつく。
前回、彼女の電話を無視した。すると大学の友だちや航大には教えていないSNSで嫌がらせのコメントが来た。それだけじゃなくぼくを誹謗中傷するメールやLIMEのメッセージが大量に来たのだ。
ブロックやミュートをしたり、迷惑メールの報告をした。が、何かしらの手段・方法を取って彼女は、ぼくに接触してくるのだ。
画面をタップしてスマホを耳に当てる。
「はい、村山です」
『……またなの』
「『また』? 芝谷さん、今度は何なの?」
『……しらを切らないでよ。また航大に近づいたんでしょ。あんたが朝、航大のマンションから出てくるのを見たんだからね』
タイミングが悪いなと思いながら、身体を起こす。
「何、航大をストーカーしてるわけ? 嗅ぎ回るのが得意なんだ、犬みたい」
『違う! 憂はただ……航大と、もう一度話がしたかっただけで……』
「きみと航大は友だちでもなんでもないでしょ? そもそも、きみが航大に別れを告げたんだ。きみが航大以外のアルファの男とラブホに入っていくのを、ぼくだって見たんだからね」
『それは……っ!』と芝谷さんが言葉を詰まらせる。
「きみが本当にアルファの男と浮気をしていようが、個人的な事情があってデリヘル嬢や風俗嬢をやっていようが、ぼくには関係ないよ。きみがどんな人間かなんて興味ないし、どうでもいい」
『村山くん!』
「でも、きみのせいで航大はひどく傷ついたんだよ? どれだけ、ひどいことをしたかわかってる? それなのにつきまといみたいなことをして、航大の親友であるぼくにも嫌がらせをするなんて、どうかしているよ」
『うるさい!』
芝谷さんが大声で叫ぶので、スマホを当てていた左耳がキーンとする。左目を思わずつぶる。
『あんたが全部悪いんでしょ! 航大の親友だなんて嘘ついて、隣りにいて、卑怯者はどっちよ!?』
「責任転嫁しないでくれるかな? たしかにぼくは航大のことが好きだよ。でも、彼にセクハラをしたり、無理矢理性的な接触をとったことはない。彼が嫌がることを一度だってしていないんだよ。いちゃもんをつけないで」
『いちゃもんじゃないわよ! あんたの目が気に食わない。気持ち悪いのよ! 航大は憂の彼氏なの。憂のアルファなのに、物欲しそうな顔をして……憂がいなくなったからって、航大のことを逆レイプしたんじゃないの!?』
一瞬、何も言えなくなって口を噤んだ。
手にしているスマホをギュッと握りしめる。
「そんなこと、するわけないでしょ。もし、航大とぼくが夜をともにして、恋人やセフレ関係になったとしても、きみが口出しすることじゃないよね。だって、きみは航大の彼女じゃない。友だちでもなんでもない、ただの他人なんだから」
『マジウザ。ベータっていつもそう……オメガがどれだけ大変か知りもしないで、アルファが大切な存在かわkらないくせに、偉そうなことばっかり言う! 村山くんは、憂のことを見下して、馬鹿にしてるんでしょ!』
「馬鹿にされるような態度をとっているほうが悪いんじゃないの。これ以上ぼくや航大に何かするんだったら、警察や弁護士を」
突然ピコンと音が鳴って電話が切れる。
これ以上、芝谷さんを刺激するのはよくない。言うべきことは言った。
いつもだったら、なんだったの? で済むことが済まない。イライラムカムカする。胸の中が真っ黒でドロドロしたものでいっぱいになり、溢れかえる。
ぼくはスマホを操作し、芝谷さんに電話を掛け直した。
「話の途中なんだけど、いきなり切るってどういうこと? 礼儀がなってないね。そんなんだから航大とも上手くいかなかったんじゃないの?」
『キモ、うっざ! いちいち掛け直してくんなし』
「はあ? 最初に掛けてきたのは、そっちでしょ? こっちだって言いたいことが山ほどあるんだけど!」
『そんなの憂は知らないし! 航大の周りをうろつくなよ。目障りだってわかんないの? さっさと消えろよ、ホモ野郎』
「何、喧嘩を売ってるの――」
そうして、ふたたび電話が切れた。
再度掛け直すものの出ない。ブロックをされたようだ。
それなのに芝谷さんの悪意に満ちた、呪いの言葉が書かれたメッセージやメールが大量に届く。
唇を嚙みしめ、ぼくはカバンを手に取り、外へ飛び出した。
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