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第10章
王子様7
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「もう……半日経てばお昼になるんだから、我慢しようよ。ねっ?」
「んなこと言ったってさ、かったるいものはかったるいだろ。空手でも走らされるときがあるけどさ」
「僕だって剣道で走り込みのときもあるし、自分でも走ったりするよ?」
「おまえ、マジでストイックだな。俺じゃ真似できねえよ」
日向の強くなるために余念がない姿に感心しながら、朔夜は細い肩にグリグリと額を押しつけた。
甘えるような仕草をする朔夜のことを可愛いと思いながら、日向は少しばかり得意げな顔をする。
「ありがとう。何しろ、みんなの〈王子様〉だからね」
顔を上げた朔夜はイタズラを考えついた子供のような表情を浮かべて笑う。
「それじゃ、みんなの〈王子様〉である日向は、俺の願いごとも叶えてくれるんか」
「みんなの〈王様〉のご命令とあらば」
にこと微笑んで日向も朔夜のおふざけに付き合う。
しゃんと立ち上がった朔夜は、身をかがめて日向の右耳へと唇を寄せた。内緒話をするように小声で囁く。
「日向がキスでもしてくれたら頑張れるんだけどな。――キスしてくれよ」
バッと耳元を押さえた日向の頬は、ほのかに赤く染まっていた。
「な、何を言ってるの? 冗談はよして。ここ、学校だよ」
自分から離れようとする日向の手首をそっと掴んで逃さないようにし、いたずらが成功した子供のような顔で朔夜が笑う。
「何も口になんて言わねえよ。けどさ、ほっぺとか、おでこくらいならガキでもするぜ? してくれねえの? 〈王子様〉は〈王様〉の願いは聞き入れねえのか」
「さくちゃん、ずるいよ。そんなこと言うなんて……」
ゴホンッ! とわざとらしい咳払いの音がして、朔夜と日向は目を見合わせた。
「おーい、おふたりさん。いちゃつくのは、人がいなくなってからにしてくれよ。おれら、まだいるぜー」
角次が頬を赤らめて気まずそうな口調で喋ると、朔夜と日向は顔を真っ赤にして勢いよく離れた。
そんなふたりの様子を角次と穣、好喜は温かい目で見ていた。
「ご、ごめんね! 僕たち、あの……!」
日向が目をグルグルさせて赤くなったり、青くなったりしているとヒューヒューと口笛を吹いて好喜が冷やかした。
「めちゃくちゃ、お熱いじゃん、おふたりさん! ったく、もう少しでキスシーンが見れたかもしれねえのに……穣も、角次も邪魔すんなよな!?」
「えー?」と角次は間延びした返事をし、穣は赤面しながら「いや、だって――朔夜も、碓氷もオレらに見せつけようとか、自慢してるわけじゃねえし。ふたりの世界に入っているのをさ、そのまま放っておくのは、なんつーか……覗き見してるみてえで、いやじゃね!?」とワタワタしながら反論する。
「それがいいんだし!」と好喜は叫ぶと日向の肩を抱いた。
「碓氷もさ、もっと朔夜とイチャつかねえの!? オレの家の姉ちゃんなんてさ、新婚だからか朝から晩まで義兄ちゃんといちゃついているぜ? キスシーンなんて、なんのその。姉ちゃんは下着姿、義兄ちゃんは上半身裸でベッドで抱き合ったり、風呂に一緒に入って身体を洗いっこしたり、さ……」と小声で話す。
「ええっ!? いや、それは、ちょっと……」と日向は火を吹き出しそうなほどに顔を赤くする。
「おい、好喜。そんなに碓氷をからかうなっつーの。困ってんだろ? つーか、それ、身内でもぜってぇ怒られるやつだぞ」
「うん、姉ちゃんにバレてボコボコにされた! おまけに妹から『兄ちゃんキモイ』って言われて、もう三日も無視されてる」
親指を立てた好喜は舌を出してウインクをする。
「ったく、何を考えているんだか……。碓氷、好喜は生粋のアホだから、あんま真に受けるなよ?」
「いや、うん。でも……」
「「でも?」」と穣と好喜は訊き返す。
「なんだか大人ってすごいね。好喜くんの家のお姉さんとお義兄さん、仲がよさそうでいいな……」
「でしょー!? だから、碓氷も朔夜ともっと進んじゃえって!」と合いの手を好喜が入れ、「いや、よくねえだろ!」と穣がツッコミを入れた。
「悪い。気づかなかった」
耳まで赤くした朔夜が角次に謝りに行く。
「いやー、別にいいのよ。仲よきことは、素晴らしきことっつーし?」と角次は答える。
腕組みをした穣は、「けどなあ、今の問題発言は、ちょっと見逃せねえな。碓氷の言う通りだぞ」と唸る。
「でもさ、」と好喜は穣に指差す。「朔夜があんなふうに人に甘える姿なんて珍しいよな。アルファの王様も、魂の番であるオメガを前にしたらオレらと同じことを考えるんだって、なんか親近感が湧いたわ!」
「まあ、それは確かに……な」
「とにかく午前中はおれがやっとくからさ、朔夜は碓氷と先に行きな」
「ああ、ありがとう」と朔夜はジャージの上着のポケットから教室の鍵を出し、角次に手渡す。
「いやいや、礼を言わなきゃなのは、おれのほうっしょ? おまえには、いつもサッカー部の助っ人、頼んだりしてるわけえなんだし。次、日直やるときはさ、おれがメインにやるからら任せとけって。つーわけで、手伝ってくれよな。穣、好喜!」
「んなこと言ったってさ、かったるいものはかったるいだろ。空手でも走らされるときがあるけどさ」
「僕だって剣道で走り込みのときもあるし、自分でも走ったりするよ?」
「おまえ、マジでストイックだな。俺じゃ真似できねえよ」
日向の強くなるために余念がない姿に感心しながら、朔夜は細い肩にグリグリと額を押しつけた。
甘えるような仕草をする朔夜のことを可愛いと思いながら、日向は少しばかり得意げな顔をする。
「ありがとう。何しろ、みんなの〈王子様〉だからね」
顔を上げた朔夜はイタズラを考えついた子供のような表情を浮かべて笑う。
「それじゃ、みんなの〈王子様〉である日向は、俺の願いごとも叶えてくれるんか」
「みんなの〈王様〉のご命令とあらば」
にこと微笑んで日向も朔夜のおふざけに付き合う。
しゃんと立ち上がった朔夜は、身をかがめて日向の右耳へと唇を寄せた。内緒話をするように小声で囁く。
「日向がキスでもしてくれたら頑張れるんだけどな。――キスしてくれよ」
バッと耳元を押さえた日向の頬は、ほのかに赤く染まっていた。
「な、何を言ってるの? 冗談はよして。ここ、学校だよ」
自分から離れようとする日向の手首をそっと掴んで逃さないようにし、いたずらが成功した子供のような顔で朔夜が笑う。
「何も口になんて言わねえよ。けどさ、ほっぺとか、おでこくらいならガキでもするぜ? してくれねえの? 〈王子様〉は〈王様〉の願いは聞き入れねえのか」
「さくちゃん、ずるいよ。そんなこと言うなんて……」
ゴホンッ! とわざとらしい咳払いの音がして、朔夜と日向は目を見合わせた。
「おーい、おふたりさん。いちゃつくのは、人がいなくなってからにしてくれよ。おれら、まだいるぜー」
角次が頬を赤らめて気まずそうな口調で喋ると、朔夜と日向は顔を真っ赤にして勢いよく離れた。
そんなふたりの様子を角次と穣、好喜は温かい目で見ていた。
「ご、ごめんね! 僕たち、あの……!」
日向が目をグルグルさせて赤くなったり、青くなったりしているとヒューヒューと口笛を吹いて好喜が冷やかした。
「めちゃくちゃ、お熱いじゃん、おふたりさん! ったく、もう少しでキスシーンが見れたかもしれねえのに……穣も、角次も邪魔すんなよな!?」
「えー?」と角次は間延びした返事をし、穣は赤面しながら「いや、だって――朔夜も、碓氷もオレらに見せつけようとか、自慢してるわけじゃねえし。ふたりの世界に入っているのをさ、そのまま放っておくのは、なんつーか……覗き見してるみてえで、いやじゃね!?」とワタワタしながら反論する。
「それがいいんだし!」と好喜は叫ぶと日向の肩を抱いた。
「碓氷もさ、もっと朔夜とイチャつかねえの!? オレの家の姉ちゃんなんてさ、新婚だからか朝から晩まで義兄ちゃんといちゃついているぜ? キスシーンなんて、なんのその。姉ちゃんは下着姿、義兄ちゃんは上半身裸でベッドで抱き合ったり、風呂に一緒に入って身体を洗いっこしたり、さ……」と小声で話す。
「ええっ!? いや、それは、ちょっと……」と日向は火を吹き出しそうなほどに顔を赤くする。
「おい、好喜。そんなに碓氷をからかうなっつーの。困ってんだろ? つーか、それ、身内でもぜってぇ怒られるやつだぞ」
「うん、姉ちゃんにバレてボコボコにされた! おまけに妹から『兄ちゃんキモイ』って言われて、もう三日も無視されてる」
親指を立てた好喜は舌を出してウインクをする。
「ったく、何を考えているんだか……。碓氷、好喜は生粋のアホだから、あんま真に受けるなよ?」
「いや、うん。でも……」
「「でも?」」と穣と好喜は訊き返す。
「なんだか大人ってすごいね。好喜くんの家のお姉さんとお義兄さん、仲がよさそうでいいな……」
「でしょー!? だから、碓氷も朔夜ともっと進んじゃえって!」と合いの手を好喜が入れ、「いや、よくねえだろ!」と穣がツッコミを入れた。
「悪い。気づかなかった」
耳まで赤くした朔夜が角次に謝りに行く。
「いやー、別にいいのよ。仲よきことは、素晴らしきことっつーし?」と角次は答える。
腕組みをした穣は、「けどなあ、今の問題発言は、ちょっと見逃せねえな。碓氷の言う通りだぞ」と唸る。
「でもさ、」と好喜は穣に指差す。「朔夜があんなふうに人に甘える姿なんて珍しいよな。アルファの王様も、魂の番であるオメガを前にしたらオレらと同じことを考えるんだって、なんか親近感が湧いたわ!」
「まあ、それは確かに……な」
「とにかく午前中はおれがやっとくからさ、朔夜は碓氷と先に行きな」
「ああ、ありがとう」と朔夜はジャージの上着のポケットから教室の鍵を出し、角次に手渡す。
「いやいや、礼を言わなきゃなのは、おれのほうっしょ? おまえには、いつもサッカー部の助っ人、頼んだりしてるわけえなんだし。次、日直やるときはさ、おれがメインにやるからら任せとけって。つーわけで、手伝ってくれよな。穣、好喜!」
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