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第3章

幸福な男1

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 そうして俺たちは高校生になった。

 尊のスパルタ教育の賜物か、高校受験は見事成功。尊と同じ私立の高校へ通うことになったのだ。

 それから三年間バスケをやりながら、俺たちは付き合っていた。

 やっぱりというか尊は高校に上がったら、ますますモテた。女子から直接的にも、間接的にも告白をされ、デートをしてほしいと頼み込まれたり、バレンタインデーには大袋を二袋用意しても入り切らないくらいのチョコをもらう。

 でも同性から恨まれたり、やっかまれたりすることはなかった。持ち前の愛嬌やコミュ力、あの天使のような顔をしながら、バスケではえげつないプレーをして敵を一網打尽にし、仲間たちを勝利に導く。おまけにミスコンやモデル、女優なんかをやっている女子にもなびかず、「バスケが恋人だから」とバスケの練習はかかさないし、授業でも優秀な成績を修めている。だから先輩たちにも頼りにされていたし、同じ男や、果ては先生方からも好かれていたんだ。

 同時に、あいつは俺との約束を守ってくれた。

 バスケが忙しいのもあったけどテスト期間の最中も、俺の勉強を見たり、気分転換にデートをすることはあった。けど無理やりキスをしたり、それ以上のことを迫ってくることはない。父さんたちに宣言した通りに「清く正しく」と言葉通りのお付き合いが三年間、続いた。

 同じバスケ部の先輩や同級生、下級生だって、しょっちゅう「女子とヤりたい」と言っていた。中には実際に彼女を作ってキス以上のことをしてる人もいたんだ。

「高校生の男子なんて、ヤりたい盛りのついた猿と同じ」なんて文句を言っている女子がいたけど、ごもっともな意見。

 俺みたいに頭の中身が小学生男子の頃から変わんねえやつや、厳しい家で厳格に育てられたやつ、エリートコースまっしぐらなやつ以外は、そんなもんだろう。

 ひどいやつになると、大人が不倫・浮気をするみたいに彼女を何股もしていたり、セフレがいたりと爛れてる。

 それでも尊は浮気をすることもなく、ずっと俺の側にいてくれた。

 その間、俺たちだって、まったく進展しなかったわけじゃない。

 中学のときのように人目がなければ手を繋いで歩くし、バスケの試合で勝ったとき以外でもハグをするようになった。テスト期間中に勉強会以外のデートをしたり、キスだってお互いの額とか、ほっぺにしたりした。んでもって俺が九月の始めに十八の誕生日を迎えたとき、唇でするキスをしたいと頼んで、尊にしてもらったたんだ。

 少女漫画や、女子が好きな恋愛ドラマや映画で見られるソフトキス。

「こんな、唇と唇が触れるだけのもん、どこがいいんだよ」なんて馬鹿にしてたのを全国の女子に謝りたい。あんなの絶対、クセになる。

 バスケをやっているときの高揚感はスカッとして気持ちいい。負けて悔しい思いをすることもあるけど「次は負けねえ」って胸が熱くなるから、やめられない。

 だけど尊とキスしてるときは、胸がきゅうっと苦しくなって、なんだか小さい子供に戻ったみたいに泣きそうになる。

 コートの中でボールを追いかけたり、ドリブルしてパスを出して、シュートするときみたいにすっげえ胸がドキドキするのに、電流が背中を駆けていくみたいにゾクゾクして気持ちいい。ただ唇と唇が触れているだけなのに尊の香りも、温度も間近に感じられて、すっげえ安心する。

 バスケをもっとやりたいってときは楽しい気持ちが全身を駆け巡る。でも、あいつとキスをしているときは切ない気持ちが全身を包み込むんだ。もっと尊に近づきたい、触って欲しいっていう気持ちと、キスより先のことをするのが怖いと思う気持ちがある。

 十八になるまでは清い恋愛交際を――なんて言ってたけど、十八を過ぎても俺たちの交際はキス止まりだった。

 最近はキスをし終わった後、尊が真顔で俺のことを見つめてくることが多くなった。

 それだけじゃない。高三の秋に、中間考査の勉強をしていたときに「寒いから」と言って尊にハグをしてもらったんだ。俺は尊にちょっかいを出して、あいつをくすぐった。そうしてふざけ合っていたら、俺が尊に押し倒される形になってしまった。

 真剣な顔をしたあいつに見つめられるまま、お互いに自然とキスをしていつもより長くキスをしているうちに、尊の厚い舌で唇を舐められたんだ。驚いていれば、すぐに「はい、おしまい!」なんて笑顔で言って起き上がり、普段通りの様子だった。

 尊は、俺の意見を尊重しているだけで、我慢をさせていることに気づいてしまった。

 それに俺だって怖い気持ちもあるけど、興味がないわけじゃない。尊ともっと先に進みたいって気持ちもある。

 いい加減、恋人として腹をくくらなきゃいけねえと思うんだ。



 ウインターカップで三位入賞し、その後お好み焼き屋で打ち上げを行った。

 結局、優勝できなかったことを名残惜しく思う。でも、みんな全力で頑張って、悔いのない試合をできたことを誇りに思った。

 主将を任されていた俺も、エースだった尊も、三年はこれでバスケ部引退だ。後輩たちから花束をもらい、大学入試へのエールを贈られた。

「先輩、引退おめでとうございます! 大学に行っても遊びに来てくださいね」
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