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Prologue

見えない鎖につながれた男

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 ——死にたい。



 共働きの両親は、嘘つきなのことを信じきっている。

 唯一の逃げ場であった祖父母は十年前に他界。

 かつての友だちは皆、俺の前からいなくなり、兄弟も、ペットもいない。

 親戚は他県に住んでいるものの親しくないため、俺に手紙や電話をくれたりしない。

 学校には、あいつを信頼しきってている教師と、あいつの腹心である部下、信奉者がいる。そうじゃないやつは、面倒ごとに巻き込まれたくないと俺たちのことを遠巻きにしている。

 孤独だ。

 俺がこの世界から消えたり、死んでも地球は変わらず回る。きっと明日にはすっかり忘れ去られ、思い出という深い水底に沈む。忙しい日々の中で何もかもが、かき消されてしまうのだ。

 唯一忘れずにいてくれる人物がいるとしたら――それはひらみことだけ。

 そんな皮肉な運命に抗おうとせず、ただ受け入れ、納得する自分にヘドが出る。



 *



 じわり、と口内に鉄の味が広がる。

 胃から気管を通って苦く酸っぱい溶液が、せり上がってくる。



 殴られた衝撃でぼうっとしているうちに、あいつの口が大きく開かれる。その姿はまるで獲物を仕留める肉食獣のようだ。

「っ……!」

 右肩周辺に、赤くなったコテを押しつけられたような痛みが走る。情けようしゃなく突き立てられた鋭い犬歯が皮膚を裂き、穴があく。



 そうして尊が顔を上げた。口元が赤く染まっている。赤い唇を歪ませて、にったりと笑った。



あおい。おまえは一生、僕のものだよ。逃げられると思うな」
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