1 / 19
Prologue
見えない鎖につながれた男
しおりを挟む
——死にたい。
共働きの両親は、嘘つきなあいつのことを信じきっている。
唯一の逃げ場であった祖父母は十年前に他界。
かつての友だちは皆、俺の前からいなくなり、兄弟も、ペットもいない。
親戚は他県に住んでいるものの親しくないため、俺に手紙や電話をくれたりしない。
学校には、あいつを信頼しきってている教師と、あいつの腹心である部下、信奉者がいる。そうじゃないやつは、面倒ごとに巻き込まれたくないと俺たちのことを遠巻きにしている。
孤独だ。
俺がこの世界から消えたり、死んでも地球は変わらず回る。きっと明日にはすっかり忘れ去られ、思い出という深い水底に沈む。忙しい日々の中で何もかもが、かき消されてしまうのだ。
唯一忘れずにいてくれる人物がいるとしたら――それは平田尊だけ。
そんな皮肉な運命に抗おうとせず、ただ受け入れ、納得する自分にヘドが出る。
*
じわり、と口内に鉄の味が広がる。
胃から気管を通って苦く酸っぱい溶液が、せり上がってくる。
殴られた衝撃でぼうっとしているうちに、あいつの口が大きく開かれる。その姿はまるで獲物を仕留める肉食獣のようだ。
「っ……!」
右肩周辺に、赤くなったコテを押しつけられたような痛みが走る。情け容赦なく突き立てられた鋭い犬歯が皮膚を裂き、穴があく。
そうして尊が顔を上げた。口元が赤く染まっている。赤い唇を歪ませて、にったりと笑った。
「葵。おまえは一生、僕のものだよ。逃げられると思うな」
共働きの両親は、嘘つきなあいつのことを信じきっている。
唯一の逃げ場であった祖父母は十年前に他界。
かつての友だちは皆、俺の前からいなくなり、兄弟も、ペットもいない。
親戚は他県に住んでいるものの親しくないため、俺に手紙や電話をくれたりしない。
学校には、あいつを信頼しきってている教師と、あいつの腹心である部下、信奉者がいる。そうじゃないやつは、面倒ごとに巻き込まれたくないと俺たちのことを遠巻きにしている。
孤独だ。
俺がこの世界から消えたり、死んでも地球は変わらず回る。きっと明日にはすっかり忘れ去られ、思い出という深い水底に沈む。忙しい日々の中で何もかもが、かき消されてしまうのだ。
唯一忘れずにいてくれる人物がいるとしたら――それは平田尊だけ。
そんな皮肉な運命に抗おうとせず、ただ受け入れ、納得する自分にヘドが出る。
*
じわり、と口内に鉄の味が広がる。
胃から気管を通って苦く酸っぱい溶液が、せり上がってくる。
殴られた衝撃でぼうっとしているうちに、あいつの口が大きく開かれる。その姿はまるで獲物を仕留める肉食獣のようだ。
「っ……!」
右肩周辺に、赤くなったコテを押しつけられたような痛みが走る。情け容赦なく突き立てられた鋭い犬歯が皮膚を裂き、穴があく。
そうして尊が顔を上げた。口元が赤く染まっている。赤い唇を歪ませて、にったりと笑った。
「葵。おまえは一生、僕のものだよ。逃げられると思うな」
10
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
ヤンデレ化していた幼稚園ぶりの友人に食べられました
ミルク珈琲
BL
幼稚園の頃ずっと後ろを着いてきて、泣き虫だった男の子がいた。
「優ちゃんは絶対に僕のものにする♡」
ストーリーを分かりやすくするために少しだけ変更させて頂きましたm(_ _)m
・洸sideも投稿させて頂く予定です
こっそりバウムクーヘンエンド小説を投稿したら相手に見つかって押し倒されてた件
神崎 ルナ
BL
バウムクーヘンエンド――片想いの相手の結婚式に招待されて引き出物のバウムクーヘンを手に失恋に浸るという、所謂アンハッピーエンド。
僕の幼なじみは天然が入ったぽんやりしたタイプでずっと目が離せなかった。
だけどその笑顔を見ていると自然と僕も口角が上がり。
子供の頃に勢いに任せて『光くん、好きっ!!』と言ってしまったのは黒歴史だが、そのすぐ後に白詰草の指輪を持って来て『うん、およめさんになってね』と来たのは反則だろう。
ぽやぽやした光のことだから、きっとよく意味が分かってなかったに違いない。
指輪も、僕の左手の中指に収めていたし。
あれから10年近く。
ずっと仲が良い幼なじみの範疇に留まる僕たちの関係は決して崩してはならない。
だけど想いを隠すのは苦しくて――。
こっそりとある小説サイトに想いを吐露してそれで何とか未練を断ち切ろうと思った。
なのにどうして――。
『ねぇ、この小説って海斗が書いたんだよね?』
えっ!?どうしてバレたっ!?というより何故この僕が押し倒されてるんだっ!?(※注 サブ垢にて公開済みの『バウムクーヘンエンド』をご覧になるとより一層楽しめるかもしれません)
なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。
ご都合主義のハッピーエンドのSSです。
でも周りは全くハッピーじゃないです。
小説家になろう様でも投稿しています。
養子の僕が愛されるわけない…と思ってたのに兄たちに溺愛されました
日野
BL
両親から捨てられ孤児院に入った10歳のラキはそこでも虐められる。
ある日、少し前から通っていて仲良くなった霧雨アキヒトから養子に来ないかと誘われる。
自分が行っても嫌な思いをさせてしまうのではないかと考えたラキは1度断るが熱心なアキヒトに折れ、霧雨家の養子となり、そこでの生活が始まる。
霧雨家には5人の兄弟がおり、その兄たちに溺愛され甘々に育てられるとラキはまだ知らない……。
養子になるまでハイペースで進みます。養子になったらゆっくり進めようと思ってます。
Rないです。
元会計には首輪がついている
笹坂寧
BL
【帝華学園】の生徒会会計を務め、無事卒業した俺。
こんな恐ろしい学園とっとと離れてやる、とばかりに一般入試を受けて遠く遠くの公立高校に入学し、無事、魔の学園から逃げ果すことが出来た。
卒業式から入学式前日まで、誘拐やらなんやらされて無理くり連れ戻されでもしないか戦々恐々としながら前後左右全ての気配を探って生き抜いた毎日が今では懐かしい。
俺は無事高校に入学を果たし、無事毎日登学して講義を受け、無事部活に入って友人を作り、無事彼女まで手に入れることが出来たのだ。
なのに。
「逃げられると思ったか?颯夏」
「ーーな、んで」
目の前に立つ恐ろしい男を前にして、こうも身体が動かないなんて。
貧乏大学生がエリート商社マンに叶わぬ恋をしていたら、玉砕どころか溺愛された話
タタミ
BL
貧乏苦学生の巡は、同じシェアハウスに住むエリート商社マンの千明に片想いをしている。
叶わぬ恋だと思っていたが、千明にデートに誘われたことで、関係性が一変して……?
エリート商社マンに溺愛される初心な大学生の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる