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7.昔の話
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電車の中は空いているというほどではなかったけど、密着する必要はない程度に隙間があった。
それなのにその人はやたらと私に触れるか触れないかの距離にいたのだ。
私が体を遠ざけると同じだけ詰めてきて、これはわざとだと理解した瞬間に恐怖が体を支配して、その人の顔を確かめることも怖くて出来なかった。
駅に止まるまでが永遠に等しいほど長く感じられた。
決定的なことは何もされていないから声を上げることもできなかった。
いや、上げようと思うことすら出来なかったのだ。
そういう時にどうすればいいのかという対処法なんて一つも頭に浮かばなくて、どうして、という思いが頭を満たしていた。
逃げるように電車を飛び出した後、一気に怖さで震えが起きた。
何をどうしていいか分からなくて、次の日から電車には乗らなかった。乗れなかった。
家族には言えなかった。もしも、万が一、そんなことで、とか、よくあること、なんて言われたらそれこそ立ち直れないと無意識のうちに理解していたのかもしれない。
私は家から学校まで二時間かけて自転車を漕ぐことになった。
定期代が勿体無く感じるから、と家族には言った。それ以上何も言われないことに不満を持ったことをよく覚えている。
それ以上聞かれてもきっと困っただろうけど、聞かれないというのは私の苦しみを無視されたようで不満だった。
気づかれないようにしていた。けれどそれでも気づいて欲しかった。
そんな矛盾を抱えながら私は人通りの多い道を必死でペダルを漕いだ。
そうすれば怖い目に合わなくて済む。ちょっと大変だけどそれでいい。そう思っていた。
「ちょっと前まで、電車で来てなかった?」
休憩時間にそういえば、という風に友人に尋ねられるまでは。
その時の気持ちをなんて例えたらいいか分からない。
家族に言ったことと同じように言えばいい。そう思ったけど、それが正しいと分かっていたけど、どうしてかぶちまけてしまいたい気持ちになった。
どうしてかは少しも分からない。二時間かけて学校まで自転車を漕ぐことに疲れていたのかもしれないし、そのために早起きしていて寝不足気味だったからかもしれない。
理由は分からないけど、私は確かにその時、出来る限り暗くならないように、あまり重苦しく言って笑い飛ばされた時の保険にと、笑い混じりにそれでも本当のことを言ったのだ。
「なんかさ、知らない人にやたら近寄って来られたから、気持ち悪くって、わざわざ自転車で来る羽目になってる」
やになっちゃうよねえ、と私は自分が上手く笑えているのかも分からないままに言い切った。
それなのにその人はやたらと私に触れるか触れないかの距離にいたのだ。
私が体を遠ざけると同じだけ詰めてきて、これはわざとだと理解した瞬間に恐怖が体を支配して、その人の顔を確かめることも怖くて出来なかった。
駅に止まるまでが永遠に等しいほど長く感じられた。
決定的なことは何もされていないから声を上げることもできなかった。
いや、上げようと思うことすら出来なかったのだ。
そういう時にどうすればいいのかという対処法なんて一つも頭に浮かばなくて、どうして、という思いが頭を満たしていた。
逃げるように電車を飛び出した後、一気に怖さで震えが起きた。
何をどうしていいか分からなくて、次の日から電車には乗らなかった。乗れなかった。
家族には言えなかった。もしも、万が一、そんなことで、とか、よくあること、なんて言われたらそれこそ立ち直れないと無意識のうちに理解していたのかもしれない。
私は家から学校まで二時間かけて自転車を漕ぐことになった。
定期代が勿体無く感じるから、と家族には言った。それ以上何も言われないことに不満を持ったことをよく覚えている。
それ以上聞かれてもきっと困っただろうけど、聞かれないというのは私の苦しみを無視されたようで不満だった。
気づかれないようにしていた。けれどそれでも気づいて欲しかった。
そんな矛盾を抱えながら私は人通りの多い道を必死でペダルを漕いだ。
そうすれば怖い目に合わなくて済む。ちょっと大変だけどそれでいい。そう思っていた。
「ちょっと前まで、電車で来てなかった?」
休憩時間にそういえば、という風に友人に尋ねられるまでは。
その時の気持ちをなんて例えたらいいか分からない。
家族に言ったことと同じように言えばいい。そう思ったけど、それが正しいと分かっていたけど、どうしてかぶちまけてしまいたい気持ちになった。
どうしてかは少しも分からない。二時間かけて学校まで自転車を漕ぐことに疲れていたのかもしれないし、そのために早起きしていて寝不足気味だったからかもしれない。
理由は分からないけど、私は確かにその時、出来る限り暗くならないように、あまり重苦しく言って笑い飛ばされた時の保険にと、笑い混じりにそれでも本当のことを言ったのだ。
「なんかさ、知らない人にやたら近寄って来られたから、気持ち悪くって、わざわざ自転車で来る羽目になってる」
やになっちゃうよねえ、と私は自分が上手く笑えているのかも分からないままに言い切った。
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