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セックスをしない夫婦

12話

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 静かな店内で初対面の人に話していることが嘘みたいにすらすらと話すことが出来た。
 冷えてしまった紅茶を飲み干しながら、正樹と緑茶が飲みたいなと、ふと思った。


「それからすぐにご結婚なされたんですか?」

「ええ、そうですね。わりと早く」


 もう三年くらいですかね、と思い出したながら言うと、じゃあ先輩ですねと言われた。
 三年も正樹と一緒に暮らしているのかと思うと不思議な心地だった。
 いくら気が合うといっても他人同士だから、全てが上手くいったわけではないけれど、大抵のことを私たちは上手く支え合って乗り越えてきたと思う。


「でも、やっぱり私は臆病で、何か尋ねられるたびに怖くなったりして……そういう自分にまた嫌気がさしたりして」


 夜の方はどうか、と揶揄い半分で聞かれたことは何度もあるし、子どもはいるのかいつ作るのかと問われたこともたくさんある。
 多様性が説かれる世の中で、人の心に土足で踏み込む人は案外多く、他の人にとっての私もそんなことをしてしまっているのかもしれない。


「そういうことをしなくても幸せって、なんだか強がりみたいに聞こえるらしくて」


 無理しなくていいよ、本当はしたいんでしょ、羨ましいんでしょう。
 そんなことないと言っても、向こうに悪気はなくて、ただただそれがその人たちにとっての真実なのだろう。
 世間一般的に夫婦はセックスをしなければいけないものなのだろう。


「してる人たちを責めるつもりは全くなくて、ただ私たちはしなくても幸せで、だからしないってだけなんですけどね」


 必死にしたがってる私を馬鹿にしてるのかと、彼氏と上手くいっていなかった友人に怒られたこともある。
 そんなつもりは全くなかったのだけど、人と人の違いを認め合うというのは、きっとひどく難しいことなのだろうと思った。
 私はお互いに分かり合える人と一緒にいられて良かった、とも思った。


「そういう臆病な自分をどうにかしたくて、こうやって話に来たっていうのもあるんですけど」


 少しでも変われたら、思うのだ。胸を張って正樹の隣に居たいから。
 変わりたいと思えることすら、隣に正樹がいるからだ。


「少しは怖がらずにいられそうですか」


 尋ねられて、私は少し考え込んでから、笑いながら答えた。


「私は臆病だから、また怖くなるかもしれないけど、私には正樹がいるから」


 帰ったら正樹とお話がしたいな、と思った。
 心配させるからとか、不安にさせてしまうからとか、そんな理由で話すのを躊躇うのはお休みにして、今日は正樹と話したい。
 家で待っているであろう正樹のことを思いながら、私はふっと笑ってしまった。
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