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セックスをしない夫婦

3話

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 私だってもう少し、輝いてみたいのだ。
 そんなことを考えても、否応無く仕事はあるわけで、せっせと終わらせるうちに日が暮れかけていた。
 せめて、せめてもう少し。何がもう少しなのかも分からないままに何かが欲しくて、もう少し、と思いながら会社を後にした。

 一日の仕事が終わって家に帰ると、ひどく疲れ切っていて動く気にもなれない。
 正樹も帰って来ていないから、何も気にせず疲れた態度を顔に出せる。もちろん正樹は私がどんな顔をしていようと怒らないけれど、心配させるのは不本意だ。
 動けないと言いながら、スマホを触る余裕はあるというのだから我ながら笑ってしまう。
 ソファーに崩れるように座り込んでから、すぐにネットの海を泳いだ。
 いや、溺れたという方が正しいかもしれない。
 そのくらいのめり込むように、そして意味もなく、ひたすらに潜った。
 そして出てくる検索結果はいつもとなんら変わりはなくて、頭が痛くなるほど辛くて仕方がない。
 そんなに嫌なら止めればいい、と頭のどこかで声がする。
 私は何を探しているのだろう。何が欲しいのだろう。私が求めてる答えがここにあるはずがないのに。


『夫婦』『夫婦』『夫婦』


 同じことを検索して一体何になる。
 分かっていても止められなくて、探して彷徨って、答えなんてあるはずがないのに。
 ああ、なんて無駄な時間なのだろう。
 正樹が帰って来た時にこんな姿を見られたら、不安にさせてしまう。
 それでもソファーに座ってスマホで検索するという行為が止められない。
 何を探しているのかなんて、私にも分かってはいないのに。


『世間の言う夫婦とは違う私たち』


 おびただしい情報の海の中で、ふとその一文が目に止まった。
 そこには文章を書く職についている女性が、想いが書かれたページだった。
 いわゆる世間一般的に良しとされている夫婦とは違う夫婦を取材して、本にしようとしているという内容が綴られていた。


『私自身、世間一般の夫婦とは違います』


 そう書かれた言葉に、私は馬鹿みたいに釘付けになる。
 瞬きするのも惜しいほど目を見開いて、スクロールしていった。
 私の欲しい答えとは違うかもしれない。それでも構わなかった。


『私と彼は恋愛を経て結婚した夫婦ではありません』

『それは今の世間では一般的ではないかもしれない。でも構わない。私たちは間違いなく夫婦だから』

『きっと世の中にたくさんいるのであろう世間一般とは違う夫婦の話を私は書きたいのです』


 たったそれだけの文章を見て、一体何が変わったのかと言われるかもしれない。
 口で言うだけなら、文章を書くだけなら、なんとでも言えると言われるかもしれない。
 それでも私にとって、この文章は確かに希望だった。
 全く違う状況じゃないか?そうかもしれない。でもこの人が言いたいことが私には分かる。痛いほどに分かる。

 話してみたい、と思った。
 この人のように、話してみたい。私の思うことを。感じることを。
 上手く話せるかは分からないけど、どうしてもやってみたかった。試してみたかった。
 途方もなく大きな何かが私を突き動かしていた。
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