続きは第一図書室で

蒼キるり

文字の大きさ
上 下
11 / 53

10.期限付き

しおりを挟む
「ごめん!」

「……は?」

 思いの外早く浩也からの返答があった。
 こちらに向けた顔は珍しく驚いていて、しかも返答は想像していたものとは違ったからそっちにも驚いた。

「……だから、俺から言いだしたことでもあったし。浩也は色々考えてくれた訳で。なのに、その、あんな風な態度取ったのは悪かったっていうか……ごめん」

「…………」

「あ、あとこれなんだけど」

 謝っても浩也の反応は鈍くて、やっぱり怒っているんだろうか。
 それでもこれだけは言ってしまいたくて、鞄から本を取り出す。それは昨日、浩也に入れられたであろう本。

「こ、これな……浩也がほら、色々言ってただろ?だから読んだんだよ」

「……は?」

「浩也も読んだんだろ?意味わかんねーとか言ったし、今もよくは分かんねーけど。なんかこいつらさ、すげー頑張って恋愛してるんだよ。だからなんかこう、そういうのは良いなって。浩也もそう思ったから読ませてきたんだよな?」

 一息に言ってのけ、恐る恐る浩也の顔を確認する。
 顔を逸らしていて、どう思ってるのか分からなくて声を掛けようとした途端、浩也があのさと声を掛けて来た。

「謝られる筋合いないと思うんだけど。俺がキスしたのわかってる?なんで普通に来るわけ?」

「……なんで、って別に嫌じゃなかったし。浩也は練習に付き合ってくれたわけ、だし」

 そうか、俺嫌じゃなかったんだ、と言いながら気付いた。だから、当たり前みたいにここに来ようって思ったんだ。

「だから……さ」

 全く言おうと思ってなかった事を口走った。

「俺まだ……練習続けたいんだけど」

 思っていなかったと言えば嘘になる。それでも、それはおかしい事だし言うつもりなんてさらさらなかったのに。

「それって……俺とキスしたいって言ってるように聞こえるけど」

「わ、悪いのかよ。浩也の方がしてきたんだろ」

 おかしい。だってそんなの普通じゃない。なんでそんなことを望むのか俺には全然分からなかったけど、でもここで前みたいに放課後に会って話してそれで終わるだけに戻るのは嫌だと、そう思った。

「分かった」

 浩也がつかつかと歩いてきて、俺の後ろの戸を乱暴に閉める。音の大きさに驚いている間に浩也に腕を掴まれ引き寄せられる。

「じゃあ、佐武に彼女が出来るまで、俺がしっかり練習付き合ってあげる」

 そう囁くように言った浩也の顔は笑ってるのに哀しそうな気がして不思議に思った。
 でもそれを考える時間もなく、浩也に口付けられる。
 それが驚くほど心地良くて、その事しか考えられなくなる。

 こうして俺と浩也の関係は始まった。
 俺の彼女が出来るまでという、期限付きで。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

鬼ごっこ

ハタセ
BL
年下からのイジメにより精神が摩耗していく年上平凡受けと そんな平凡を歪んだ愛情で追いかける年下攻めのお話です。

熱中症

こじらせた処女
BL
会社で熱中症になってしまった木野瀬 遼(きのせ りょう)(26)は、同居人で恋人でもある八瀬希一(やせ きいち)(29)に迎えに来てもらおうと電話するが…?

Ωの不幸は蜜の味

grotta
BL
俺はΩだけどαとつがいになることが出来ない。うなじに火傷を負ってフェロモン受容機能が損なわれたから噛まれてもつがいになれないのだ――。 Ωの川西望はこれまで不幸な恋ばかりしてきた。 そんな自分でも良いと言ってくれた相手と結婚することになるも、直前で婚約は破棄される。 何もかも諦めかけた時、望に同居を持ちかけてきたのはマンションのオーナーである北条雪哉だった。 6千文字程度のショートショート。 思いついてダダっと書いたので設定ゆるいです。

処理中です...