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4.始まり
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四月も中旬になったのに、図書室は少し肌寒かった。教室はそうでもないのにな、なんて考えながら本を棚に入れていく。
浩也には手伝ってもらわなくて良い、って言われたけど横で知らんぷりっていうのも俺が嫌だから手伝わさせてもらってる。
「この本とか新しい感じなのに、第二に置いとかなくていいのか?」
台車の上に置かれた段ボールの中から取り出した本を見ながら言うと、面倒くさそうに返事が返って来た。
「借りる人が少ないらしいから。借りたい人がいたら、こっちから持っていくだけ」
結構面倒くさいんだな、と思いながら了解と応える。
この高校が出来て最初からあった第一図書室は狭くて本が置ききれないという理由で、新校舎を作る時に第二図書室が作られたらしい。それからは第一図書室はほぼ物置。っていうのは全部浩也の受け売り。
なんで一年なのにそんなに知ってるんだ、って聞いたら歯切れの悪い調子でよくわからなかったけど先輩に知り合いがいるらしい。中学でも一緒だったんだろうと納得した。
「それこっち置いとくから貸して」
と横に居た浩也に言われる。はい、と手渡すついでに横を見ると思いの外浩也が近くて驚いた。まあ狭い図書室だしなと思ってると、ありがと、とご丁寧にお礼を言われた。浩也の方が少し背が高いから直に耳に届いた気がして思わず一歩下がってしまう。
浩也の声はあんまり低くなくて、すっと耳に入って来るんだよな。クラスの奴みたいに大声も出してる訳でもないのに。そんな浩也の声だから俺は今自分の耳赤くなってないかな、って少し心配だった。だってそんなことで耳なんか赤くしてら浩也に変に思われるだろ。
段ボールの中身が無くなったのを確認して椅子に腰掛ける。暇になるとふと昨日の美奈の言葉を思い出した。
「浩也ってさ兄弟とかいる?」
まだ本棚の前にいる浩也に声を掛ける。
「……姉がいる」
「へー、うちは」
「妹が一人ってこの前言ってた」
聞いてないようでやっぱり聞いてくれてるんだな、って嬉しくなった。
「……妹さんがどうかした?」
用事でもないのに何か話し掛けられるのは珍しくて今度は嬉しいと思う前に驚いた。浩也の顔は本棚の方を見ていてどんな顔をしているかはよく分からなかった。
「あー、いや大した事じゃなくてさ。昨日なんか言ってたなーって思い出しただけ」
意外にも、それで?と問われて続きを話す。
「本当、別に大した事じゃなくて。なんか姉が欲しい?だっけみたいなこと言ってたから。浩也って兄弟いたんだっけって思っただけ」
「……俺に姉がいたとして、それを自分の妹の姉にしようとしてた訳?」
「いや、別にそういう訳じゃなくて」
声が本気で嫌そうだったから否定しておく。
浩也ってお姉さんのこと大切にしてるんだなー、とちょっと意外だった。
それで思わず、話そうと思っていなかった事まで言ってしまった。
「暗に早く彼女作れよって事なのかなって。
でも俺さ彼女とかいないし、いたこともないしさ」
「欲しいの?」
突然振り向かれてそう言われる。
「欲しいの?」
再度言われて浩也から目が離せなくなる。
「ふーん、欲しいんだ」
珍しく笑っていたみたいだけど、眼鏡の奥の浩也の目は笑ってないみたいだった。
浩也には手伝ってもらわなくて良い、って言われたけど横で知らんぷりっていうのも俺が嫌だから手伝わさせてもらってる。
「この本とか新しい感じなのに、第二に置いとかなくていいのか?」
台車の上に置かれた段ボールの中から取り出した本を見ながら言うと、面倒くさそうに返事が返って来た。
「借りる人が少ないらしいから。借りたい人がいたら、こっちから持っていくだけ」
結構面倒くさいんだな、と思いながら了解と応える。
この高校が出来て最初からあった第一図書室は狭くて本が置ききれないという理由で、新校舎を作る時に第二図書室が作られたらしい。それからは第一図書室はほぼ物置。っていうのは全部浩也の受け売り。
なんで一年なのにそんなに知ってるんだ、って聞いたら歯切れの悪い調子でよくわからなかったけど先輩に知り合いがいるらしい。中学でも一緒だったんだろうと納得した。
「それこっち置いとくから貸して」
と横に居た浩也に言われる。はい、と手渡すついでに横を見ると思いの外浩也が近くて驚いた。まあ狭い図書室だしなと思ってると、ありがと、とご丁寧にお礼を言われた。浩也の方が少し背が高いから直に耳に届いた気がして思わず一歩下がってしまう。
浩也の声はあんまり低くなくて、すっと耳に入って来るんだよな。クラスの奴みたいに大声も出してる訳でもないのに。そんな浩也の声だから俺は今自分の耳赤くなってないかな、って少し心配だった。だってそんなことで耳なんか赤くしてら浩也に変に思われるだろ。
段ボールの中身が無くなったのを確認して椅子に腰掛ける。暇になるとふと昨日の美奈の言葉を思い出した。
「浩也ってさ兄弟とかいる?」
まだ本棚の前にいる浩也に声を掛ける。
「……姉がいる」
「へー、うちは」
「妹が一人ってこの前言ってた」
聞いてないようでやっぱり聞いてくれてるんだな、って嬉しくなった。
「……妹さんがどうかした?」
用事でもないのに何か話し掛けられるのは珍しくて今度は嬉しいと思う前に驚いた。浩也の顔は本棚の方を見ていてどんな顔をしているかはよく分からなかった。
「あー、いや大した事じゃなくてさ。昨日なんか言ってたなーって思い出しただけ」
意外にも、それで?と問われて続きを話す。
「本当、別に大した事じゃなくて。なんか姉が欲しい?だっけみたいなこと言ってたから。浩也って兄弟いたんだっけって思っただけ」
「……俺に姉がいたとして、それを自分の妹の姉にしようとしてた訳?」
「いや、別にそういう訳じゃなくて」
声が本気で嫌そうだったから否定しておく。
浩也ってお姉さんのこと大切にしてるんだなー、とちょっと意外だった。
それで思わず、話そうと思っていなかった事まで言ってしまった。
「暗に早く彼女作れよって事なのかなって。
でも俺さ彼女とかいないし、いたこともないしさ」
「欲しいの?」
突然振り向かれてそう言われる。
「欲しいの?」
再度言われて浩也から目が離せなくなる。
「ふーん、欲しいんだ」
珍しく笑っていたみたいだけど、眼鏡の奥の浩也の目は笑ってないみたいだった。
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