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11.いつもの私じゃないようで

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 次の日の夜に皇子はミアの元を訪ねて来た。
 最初の頃はどんな顔をしていいのか分からずただ微笑んでいたミアもこの頃はすぐに自然な笑みを浮かべられるようになっていた。
 だが今日ばかりは眉間に深い皺が刻まれている。

 昨日急いで部屋に戻ったミアは夜に皇子が来たら誰と一緒に居たのかと尋ねるつもりだった。
 しかし皇子は来なかった。毎日来るわけではないからそのこと自体には何も思わなかったが、質問することについては時間を置くにつれ躊躇うようになっていた。


(そんなこと、聞いてどうするんだ。私には本来何も関係のないことだし、むしろ喜ばしいことじゃないか)


 皇子に良い人が出来たと報告を受けるまで黙っているべきだとミアは頭では理解していた。
 でもどうしても問い詰めてしまいたい衝動があり、笑って出迎えることなど出来なかったのだ。
 顔を硬くして皇子の方を見ようともしないミアに気づいた皇子は不思議そうに首を傾げた。

 最初の頃はミアが笑わないだけで怒っているのかと怯えていた皇子も今ではそんなことはない。
 ミアはそんな人ではないからと無邪気に信じて心配そうに顔を見てくる皇子の目の前から消えてしまいたい衝動にミアは駆られていた。


「どうしたんだ、そんな顔をして」

「……いつもこんな顔です」

「体調でも悪いのか?」


 今度は近づいて来て無防備に顔を近づけられる。出会ったことは決してこんな風にはしなかったのに、とミアは思いどんな顔をしていいかも分からない自分に苛立つ。


「こんな所で私なんかの相手をしている暇があったら、良い人の所に行ってご機嫌伺いをした方が良いんじゃないですか」


 自分が随分身勝手で無礼なことを言っている自覚はミアにもあった。皇子は困惑するばかりだ。


「なんのことだ?」

「良い人が出来たんでしょう。近づいても怖くないような、話していて楽しいような、私なんかよりずっと愛らしい良い人が」

「だからなんの話だと」


 どれだけ言い募ろうと以前話そうとしない皇子に苛立つ反面、もうどうにでもなってしまえという気持ちが勝っていた。


「妃にしたい人が出来たのなら、それでいいじゃないですか! 隠さずに言ってくれればいいのに! だって、私は……」


 そこまで口にして、ミアはハッとして皇子から目を逸らした。


(私は、なんだっていうんだ。私はただ殿下に協力しようとしただけに過ぎないのに)


 ミアが突然黙ってしまったのを見て、皇子はふと思い出したように口を開いた。


「……それは、昨日の昼間のことか?」


 訝しむような口調を聞きながら、やっぱりそうなんじゃないか、と投げやりな気持ちでミアはおざなりに頷いた。
 見間違いなら良かったのに、と思ってしまう自分の考えにもミアは狼狽えていた。だから合点がいったとばかりに晴れやかな顔をする皇子に気づかなかった。
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