吉原に咲く冴えた華

蒼キるり

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4.今日のお礼

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 しゃなり、と音が鳴りそうなほどの優美さで深雪は姿勢を少し変える。
 それまでのどこか億劫な何事にも興味のないような素振りが鳴りを潜めている。
 故意に自分の魅力を消そうとしているのではないかと思える動きだったが、男はそんなことには気に留めた様子もなく、ただ深雪の話すことに聞き入っている。


「でも主さんに笑われるかもしれないほど簡単な話で、その失くした物は他の女がこっそりと隠してたいただけでして。その女の背後にその失くしたという物がこびりついたように見え隠れしていて、ああこれはこの女が嫉妬に駆られて隠したんだなと思った次第にありんす」


 それでその女の思考を探るためによく見ると隠し場所も分かったから調べてみたら確かに失くしたと言っていたものがあったのだと、深雪はとうとうと語った。


「なるほど、その力はそういう使い道もあるのか」

「力なんてそんな、お世辞はいりんせん」

「いやいや、お世辞なんかじゃないんだ」


 男は目を輝かせながら思考を巡らせているようだった。


「君はこの話をお客の誰かにしたことはあるかい?」

「いいえ、誰もこんなに深く聞きたがりはいたしませんし、わっちものらりくらりとはぐらかさせてもらってる次第でありんす。誰かを脅えさせるのはわっちのしたいことではござりんせんから」


 そうかそうかなるほど、と男は深く深く頷いた。そしてゆっくりと口を開いて、一つ提案を始めた。


「もし、君さえ良ければ、そのお話を参考にして物語を書いてもいいだろうか?もちろん君だと分からないように細工してみるよ。気づかれたら困るのだろうし、色々変えてみるから」

「わっちのことを?」

「ああ、きちんとお礼もする」


 男の弾んだ声で発せられた言葉に、深雪はしばし黙っていた。そして存分に考えを巡らせたのか、笑顔で頷く。


「こんなことでほんにお話の参考になるのなら喜んで使っておくんなんし」

「ああ、良かった。本当にありがとう。お礼は何がいいかな」


 男の言葉に深雪は有無を言わせないような艶やかな笑みを見せた。
 普段の張見世では決して見せない男をたらしこむ顔だ。
 けれど男は特に表情一つ変えず、良かった良かったと喜ぶばかりだ。


「では、とりあえず今日のお礼として、泊まっていっておくんなんし」

「……それは、構わないけど。でも、僕はそういうことは、本当にいいんだけど」


 どちらでもいいが、それならそれで好都合だと深雪は満足そうに頷く。


「そんなことを頼んでいるのではござりんせん。主さんが泊まって行かれれば、わっちは今日はもう客を取らないで済むのでゆっくり休めるんでありんす」


 だからそうしてくれるのが、まずは今日のお礼だと深雪は笑って言った。
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