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9.話を聞いてくれました。

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 こんなこと、先輩に言うべきことじゃない。分かってるのに、どうしてだろう、止められなかった。
 この人なら聞いてくれるかもしれないと、心の何処かで期待してしまっているからかもしれない。
 そして想像通り、先輩は俺の言葉を一度も遮らなかった。


「俺の場合は、好きになっても、そもそも相手の眼中にもないっていうか、全然そういう対象に見てもらえないっていうか、恋とかそういうの、いい思い出がないので」

「そっか」

「……ほんとは、先輩のことも好きになりたくなかった」


 本音を漏らし過ぎたと先輩の驚いた顔を見てようやく気づく。血の気が引く思いで慌てて頭を下げた。


「ご、ごめんなさい!失礼なこと言って。勝手に俺が好きになったのに、その、好きになるって疲れるから、そうじゃなきゃよかったなぁっていうか」

「大丈夫だから、立川くん落ち着いて」


 先輩の優しい声にようやく自分が割と大きな声でまくし立てていたことに気づく。もう一度頭を下げることしか出来ない。


「すみません、変なこと言って」

「ううん、気にしてない。ていうか、俺の方が何か嫌なこと言ったんだよね、ごめん。俺、立川くんに嫌な思いさせてばっかりだな」

「そ、そんなことないです!」


 申し訳なさそうな顔をする先輩に、それだけは違うと首を振る。


「先輩に声かけてもらって、俺、ほんとに嬉しかったから」

「ああ、結構前だよね。確かプリントが飛んじゃって」

「そう、そうです!そうやって覚えててくれたのも、本当に、嬉しくて」


 自分の声が興奮で上ずっているのがわかる。でも止められなかった。本当に嬉しいから。


「先輩にはなんでもないことだったかもしれないけど、でも、本当に嬉しくて」


 他人にとってはなんでもないことでも自分には大切なことなのだ。
 それは先輩になら伝わると思ったから言うことを躊躇わなかった。


「好きって思わず伝えた時も、嫌がったりしなくて、それだけで、本当に、嬉しいんです。嫌な思いばっかりなんて、そんなこと、絶対にないです」


 それだけでこの先もう二度と恋をしなかったとしても、自分はいい恋をしたなぁと思えるくらいに幸せだった。
 もう恋なんてしないと誓っていたし、先輩のことも好きにならなければ楽だったと思うけど、でも、それでも嬉しいことに変わりはない。


「一目惚れ、なんです」


 ようやく言えたその言葉に俺の全部が詰まっている気がした。


「先輩に初めて会った時、話しかけてもらったときに、俺はあなたに一目惚れして、それからずっと好きです」
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