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2.告白してしまいました。

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 それからというもの、俺はいつも視界のどこかにあの人がいないかを探すようになった。
 見つけるのはさほど難しいことではなくて、あの人はよく中庭で本を読んでいたから、そっと見ることはいくらでも出来た。
 よく読んでいるのは小説、だと思う。文庫本と呼ばれるもののはずだ、多分。
 俺にはあまり良い思い出がないものだけど、あの人が持っていると嫌な気はしない。むしろなんだか親しみが湧く。
 どんな本を読んでるのかな、なんて。知っても読めないのに、気になる。好きな人のことだから、なんでも気になる。

 でも、あの人について俺が知っていることはあまりにも少ない。
 盗み聞きした同学年らしき人との会話から一学年上の先輩であることは知ったけど、それだけだ。
 名前も知らないから、心の中で呼びかける時は「先輩」と呼ぶしかないのだ。
 先輩、と心の中や家で誰もいない隙に「先輩」と小さく呼んでみるのはなかなかに楽しいけれど、やはり名前を知りたいと思うのが恋心というやつだ。

 でも、このくらいの距離が良いのかもしれないとも思っていた。
 確かにもどかしい。目も合わない。そんな距離。だけどこれがいい。これでいい。
 これだけ離れていれば迷惑にもならない。
 ずっとこうして、恋が冷めるその時まで、そっと見ていられればそれでいい。

 そう思っていた。本当にそう思っていたんだ。
 寂しいと思う心も、あと一度くらい話したいと思う本音も、隙あらば近づきたいと思う素直な体も、全部全部ねじ伏せたのに。
 なのに、なのに、どうして、俺はまた同じことをして、あの人は俺に近づくんだ。


「落としましたよ」


 先輩に見惚れていてまたプリントを飛ばしてしまった、なんて本当に笑えない。
 それなのにまた先輩は律儀にプリントを拾って、あからさまに挙動不審な後輩に優しく手渡してくれるんだ。
 ああ、好きだ、好きだ。この人が好きだ。


「あ、前にもこんなことあった」


 プリントを俺が慌てて受け取っていると、先輩がそんなことを言った。
 俺の顔を見ていた。はっきりと俺を認識して、そう言ったのだ。
 覚えていて、くれた?たった一度きりの、あれを?俺の好きな人が俺のことを覚えていてくれていた?

 頭も体も心も全部、全部全部、燃えるみたいに熱かった。
 後も先もなんにも考えられなくて、ただただ目の前にいる好きな人のことしか見えていなかった。
 この人のことを好きだという思いだけがあった。


「好きです!」


 大学の中庭、夏の終わりかけ、午後の講義がもうすぐ始まる時間。
 俺はがむしゃらに何も考えずに好きな人への告白というものをしてしまった。
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