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第一話・バレンタインの贈り物
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僕の恋人の加奈は、毎年バレンタインにチョコを贈ってくれる。
料理上手な加奈が作ってくれるチョコは本当に美味しい。甘党な僕は毎年この日が楽しみで仕方ないのだ。
まあ加奈は優しいから、バレンタインじゃなくても色々と手作りのお菓子を食べさせてくれるのだけど。
「琢磨くんが喜んでくれて嬉しいな」
僕が食べるのを見ながら、加奈はいつもニコニコと笑う。僕は加奈の笑顔がとても好きだ。
「ありがとう。おいしいよ」
ぱくぱくと口に運びながら、テーブルに置かれた小さな置き時計に目をやる。
加奈曰く、チョコのおまけのプレゼントだそうだ。丸っこくて赤いフレームに一目惚れしたと言っていた。
チョコだけで有り難すぎると言っているのに、毎年おまけだと言って何か一緒にくれるのだ。
近くに置いて使ってくれると嬉しい、と言いながら。
「私だと思って、側に置いてね」
僕が見ているのが分かったのだろう。加奈がにこりと一層深い笑みを浮かべた。
そんなに嬉しいだろうか、と少しだけ不思議に思いながらも、美味しいチョコを食べるとそんなことも気にならなくなる。
もちろんだよ、と頷きながら僕は甘い味に酔いしれていた。
加奈へのバレンタインのお返しは毎年ホワイトデーに渡していた。
でも、今年は貰った次の日にお返しをすることにした。たまには加奈を驚かせたいと思ったからだ。
きっと加奈はいつもの笑顔で、喜んでくれるだろう。
合鍵を使って加奈の部屋に入る。今日、加奈が留守だということは知っている。
先に家でプレゼントを持って待っていたら、きっとより一層驚いてくれるに違いない。
勝手に入っていいのかな、と少しだけ迷う気持ちがないわけではなかったけど、難しい考えはすぐに霧散されていった。
大丈夫。きっと加奈は、いつものように笑ってくれる。
どこで待っていようかと考えていた時、ふと一度も入ったことのない部屋のドアに目が止まった。
ここは入っちゃダメと加奈に言われているのだ。でもこの中で待っていれば、もっと驚かすことが出来るかもしれない。
昔だったら人からダメだと言われたことをするなんて絶対になかったのに、何故か今の僕は少しも躊躇わなかった。不思議なくらいに。
ドアを開けて中に入ろうとして、足が止まった。手に持っていた紙袋が床に落ちる。呆然と立ち尽くすしかない光景が、そこには広がっていた。
「え?」
思わず漏れた声はひどく冷え切っていた。
その部屋は薄暗く、中央には大きなモニターが設置されていた。
そのモニターに映されていたのは、何故か紛れも無く、僕の部屋だった。
どうして。一体、どうして、なんで。僕の部屋がどうして映っている? どうして……
その時、ふと気づく。最近不思議なくらいに単純な思考しかできていなかった頭が、現実を探り始める。
この僕の部屋は、ちょうど加奈から贈られた時計から視える僕の部屋ではないか?
「あーあ、見られちゃった」
背後から聞こえた声に、びくりと体が震えた。
聞き慣れた加奈の声がこんなに怖いだなんて考えたこともなかった。
「だから、入っちゃダメって言ったのに」
ダメだよ、琢磨くん。なんて。そんな明るく話せることじゃないだろうに。
恐る恐る振り返って見た加奈の顔はいつもと変わらない笑顔で、そのことが一層恐怖を引き立てていた。
「よく見えるでしょう、琢磨くんのお部屋」
加奈がなんの悪びれもなさそうに、むしろ心底楽しそうに笑いながら言う。
「私ね、ずっと琢磨くんのこと見てなきゃ不安なの。私が側にいない琢磨くんがどんな顔をしてるのかも、全部全部知りたいの」
その声が余りにもこの状況にそぐわなくて、僕は力が抜けて床にへたり込んでしまった。
「だから、見てるんだよ」
チョコかと思ったら……そうではなかったのだ。ずっと普通にチョコをくれているのだと思っていた。
でも、違った。加奈が本当に渡したかったのは、きっと、どこかにカメラが仕掛けられている時計なんかのもう一つのプレゼントの方で……
「うーん、逃げないんだね。判断能力、鈍ってるなぁ。ちょっとお薬、多くしすぎたかな」
僕が固まって動けないでいると、加奈が微かに眉をひそめた。
それでもすぐに笑顔になる。今となっては怖いとしか思えない笑顔に。
「でも、どんな琢磨くんも大好きだからね」
安心してね。と、加奈が笑う。怖い笑顔なのに、僕は逃げられない。
そして何か、風邪薬のカプセルのようなものを取り出して、僕の口に近づけきた。
「琢磨くん、これ食べて。私の言うこと、聞けるよね」
怖い。こわい。こんなもの、絶対に飲んではいけない。
そう思うのに、何故か口は素直にカプセルを受け入れてしまう。
「いい子だね、琢磨くん」
そう言って、加奈が僕の頭を撫でる。
カプセルを飲み込むと、段々と頭が白く混濁していく。
そういえば、加奈はよく僕に作った物を食べさせたがった。
こんな風にカメラを仕掛けるくらいだから、もしかして、あの食べ物にも何か、入れて、あったの、だろうか……
そう思ったけど、すぐに何も考えられなくなる。
加奈のいつもと変わらない笑顔だけが鮮明だった。
料理上手な加奈が作ってくれるチョコは本当に美味しい。甘党な僕は毎年この日が楽しみで仕方ないのだ。
まあ加奈は優しいから、バレンタインじゃなくても色々と手作りのお菓子を食べさせてくれるのだけど。
「琢磨くんが喜んでくれて嬉しいな」
僕が食べるのを見ながら、加奈はいつもニコニコと笑う。僕は加奈の笑顔がとても好きだ。
「ありがとう。おいしいよ」
ぱくぱくと口に運びながら、テーブルに置かれた小さな置き時計に目をやる。
加奈曰く、チョコのおまけのプレゼントだそうだ。丸っこくて赤いフレームに一目惚れしたと言っていた。
チョコだけで有り難すぎると言っているのに、毎年おまけだと言って何か一緒にくれるのだ。
近くに置いて使ってくれると嬉しい、と言いながら。
「私だと思って、側に置いてね」
僕が見ているのが分かったのだろう。加奈がにこりと一層深い笑みを浮かべた。
そんなに嬉しいだろうか、と少しだけ不思議に思いながらも、美味しいチョコを食べるとそんなことも気にならなくなる。
もちろんだよ、と頷きながら僕は甘い味に酔いしれていた。
加奈へのバレンタインのお返しは毎年ホワイトデーに渡していた。
でも、今年は貰った次の日にお返しをすることにした。たまには加奈を驚かせたいと思ったからだ。
きっと加奈はいつもの笑顔で、喜んでくれるだろう。
合鍵を使って加奈の部屋に入る。今日、加奈が留守だということは知っている。
先に家でプレゼントを持って待っていたら、きっとより一層驚いてくれるに違いない。
勝手に入っていいのかな、と少しだけ迷う気持ちがないわけではなかったけど、難しい考えはすぐに霧散されていった。
大丈夫。きっと加奈は、いつものように笑ってくれる。
どこで待っていようかと考えていた時、ふと一度も入ったことのない部屋のドアに目が止まった。
ここは入っちゃダメと加奈に言われているのだ。でもこの中で待っていれば、もっと驚かすことが出来るかもしれない。
昔だったら人からダメだと言われたことをするなんて絶対になかったのに、何故か今の僕は少しも躊躇わなかった。不思議なくらいに。
ドアを開けて中に入ろうとして、足が止まった。手に持っていた紙袋が床に落ちる。呆然と立ち尽くすしかない光景が、そこには広がっていた。
「え?」
思わず漏れた声はひどく冷え切っていた。
その部屋は薄暗く、中央には大きなモニターが設置されていた。
そのモニターに映されていたのは、何故か紛れも無く、僕の部屋だった。
どうして。一体、どうして、なんで。僕の部屋がどうして映っている? どうして……
その時、ふと気づく。最近不思議なくらいに単純な思考しかできていなかった頭が、現実を探り始める。
この僕の部屋は、ちょうど加奈から贈られた時計から視える僕の部屋ではないか?
「あーあ、見られちゃった」
背後から聞こえた声に、びくりと体が震えた。
聞き慣れた加奈の声がこんなに怖いだなんて考えたこともなかった。
「だから、入っちゃダメって言ったのに」
ダメだよ、琢磨くん。なんて。そんな明るく話せることじゃないだろうに。
恐る恐る振り返って見た加奈の顔はいつもと変わらない笑顔で、そのことが一層恐怖を引き立てていた。
「よく見えるでしょう、琢磨くんのお部屋」
加奈がなんの悪びれもなさそうに、むしろ心底楽しそうに笑いながら言う。
「私ね、ずっと琢磨くんのこと見てなきゃ不安なの。私が側にいない琢磨くんがどんな顔をしてるのかも、全部全部知りたいの」
その声が余りにもこの状況にそぐわなくて、僕は力が抜けて床にへたり込んでしまった。
「だから、見てるんだよ」
チョコかと思ったら……そうではなかったのだ。ずっと普通にチョコをくれているのだと思っていた。
でも、違った。加奈が本当に渡したかったのは、きっと、どこかにカメラが仕掛けられている時計なんかのもう一つのプレゼントの方で……
「うーん、逃げないんだね。判断能力、鈍ってるなぁ。ちょっとお薬、多くしすぎたかな」
僕が固まって動けないでいると、加奈が微かに眉をひそめた。
それでもすぐに笑顔になる。今となっては怖いとしか思えない笑顔に。
「でも、どんな琢磨くんも大好きだからね」
安心してね。と、加奈が笑う。怖い笑顔なのに、僕は逃げられない。
そして何か、風邪薬のカプセルのようなものを取り出して、僕の口に近づけきた。
「琢磨くん、これ食べて。私の言うこと、聞けるよね」
怖い。こわい。こんなもの、絶対に飲んではいけない。
そう思うのに、何故か口は素直にカプセルを受け入れてしまう。
「いい子だね、琢磨くん」
そう言って、加奈が僕の頭を撫でる。
カプセルを飲み込むと、段々と頭が白く混濁していく。
そういえば、加奈はよく僕に作った物を食べさせたがった。
こんな風にカメラを仕掛けるくらいだから、もしかして、あの食べ物にも何か、入れて、あったの、だろうか……
そう思ったけど、すぐに何も考えられなくなる。
加奈のいつもと変わらない笑顔だけが鮮明だった。
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