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【第2部】序章 往訪

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「マーレット、急いで旅の準備をしてくれ」

クレイン殿下が、離宮に帰ってくるなり言った。

「どうなさされたのですか、クレイン殿下」

クレイン殿下は、急いで帰ってきたのか、少し息を荒くしている。

「今日、国王陛下より公国の叔父上に挨拶に行くように言われたのだ」

公国とは、この国の隣に隣接する小国であり、国王陛下の弟君である大公閣下が治める国である。

私たちは結婚はしていたが、まだ式は挙げていなかった。

国王陛下から、もうすぐ行われる結婚式の前に、2人でクレイン殿下の叔父上に対して挨拶に行くように言われたのだ。

「それと、……母上から、公国にある湖岸の別宮に立ち寄り、空気を入れ換えるために2、3日滞在するようにも言われている。母上に言わせれば、私たちの新婚旅行ということらしい」

クレイン殿下は、少し照れ臭そうにしている。

「マーレット、いつも急な事ですまない。でも、今回はそなたも乗り気なようで安心した」

私は、無意識のうちに笑顔を作っていたようだ。

「クレイン殿下、お聞きしてもいいですか。公国まではどうやって行くのでしょうか」

私は、公国には行ったことがなかった。

「馬車に乗って2日ぐらいだろう。なので、夜は」

クレイン殿下は、ここで言葉に詰まった。

強く息を吐いたクレイン殿下は、意を決した様に一気に言った。

「マーレット、公国までの道中、そして、公国滞在中は同じ寝室に泊まることになる」

私たちは、今でも偽装結婚の約束ごとである寝室を別にすることを貫いていた。

公務の関係で、時間が不規則になることが多いクレイン殿下が、引き続き結婚式が終わるまでは寝室は別にすることを提案してきたからである。

「クレイン殿下、私はクレイン殿下をお慕いしています。なので、クレイン殿下と同じ寝室になることに何ら抵抗はありません。それに、初めてクレイン殿下の寝顔を見れるかと思うと、少しだけ楽しみです」

私は、クレイン殿下に微笑んだ。

「そうか、それならよい」

クレイン殿下も、私に微笑み返してくる。

2人とも、頬が真っ赤に染まっていた。

「マーレット、明日は早い。食事をすませて、早く準備をして休もう」

準備を終えた私たちは、お互いの寝室に向かって歩き始めた。

「お休みなさい、クレイン殿下」

「ああ、疲れただろう。ゆっくり休んでくれ、マーレット」
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