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【第1部】第2章 偽装結婚
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「なあ、マーレット。変じゃないかい?」
「大丈夫よ、おじい様。すてきよ」
朝から何度もリブートは、マーレットに身なりの確認をしている。
「お父さん、朝から何回同じことを聞いてるの。マーレットも忙しいのよ」
伯母が、ニコニコしながら言っている。
「今日、私の大事な孫の婿殿が来るのだからな。失礼があってはいけないだろう」
「なあ、私は変じゃないか?」
伯母に向かって、部屋の向こうから声がする。
「あらあら、こっちにもいたみたいだわ。大丈夫よ、あなた」
伯母は、私に「困ったわねぇ」と口を動かした。
そろそろ、王太子殿下たちが訪ねてくる頃である。
玄関の扉が数回叩かれた。
おじい様が、一番に婿の顔を見ると言って扉を開けに行く。
「久し振りね、リブート」
扉の向こうには、正装に身を包んだ王妃様が立っていた。
「これは、王妃様、お久しゅうございます。申し訳ないのですが、今日は大切なお客様が参られる予定でして」
「あら、私より大切なお客様がいるの?」
王妃様は、イタズラな笑顔を浮かべている。
「あなたが、待ちわびているのは、この子よ」
王妃様の後ろから、正装をしたクレイン王太子殿下が現れる。
「今日はお招き頂き、ありがとございます。マーレットとの結婚を許して頂きたく、ご挨拶に参りました」
王太子殿下は、丁重におじい様に挨拶を行った。
おじい様は、腰が抜けた様にその場に座り込んでしまった。
奥から出てきた伯母夫婦も、互いに支え合い、かろうじて立っている。
「驚かせて申し訳なかったわ、リブート。私が、マーレットに内緒にするように頼んだのよ。だから、マーレットを責めないでね」
王妃様は、おじい様の腕を抱えて立ち上がらせた。
「まさか、クレインが選んだのが、リブートの孫だなんて、私も驚いたわ」
先ほどから、王妃様は随分おじい様と久しげに話をしている。
「おじい様、王妃様とはお知り合いなのですか?」
私の質問に、おじい様は目を細めて答える。
「このじゃじゃ馬っ娘はな、昔私の元で剣を学んでいたんじゃ。それがいまじゃ、王妃様じゃからの、世の中は分からんもんじゃ」
「リブート、あなたの孫もこのままいけば、王妃になるのよ」
「あ、あの、……中に、ささやかですが」
言い掛けた伯母に、おじい様が話を遮る。
「王妃様と王太子殿下に、あのようなものを食べさせる訳にはいかんだろう」
伯母は、少し寂しそうな顔をした。
伯母は、私の婿となる男性に自分の料理を食べさせたいと前から言っていたのだ。
「朝から何も食べてないので、良かったらご馳走してくれませんか、お義母様」
私は、王太子殿下の優しさに感謝した。
「お義母さん、盛り付けをしましょう」
私は、伯母と台所へと向かった。
おじい様が、王妃様と王太子殿下を部屋へと案内した。
私たちは、伯母の料理を囲んで話をした。
おじい様は、泣いたり、笑ったり、忙しそうだったが、何度も私に「良かった、良かった」と言ってくれた。
伯母夫婦も、我が娘のように私たちを祝福してくれた。
王太子殿下たちが帰った後、おじい様から「本当に良かったのか?」と聞かれたが、私は「はい」と答えた。
「幸せにおなり」
おじい様は、そう言って私を優しく抱きしめてくれた。
私は、しばらくこの家には帰れなくなるだろう。
その夜は、夜遅くまでおじい様や伯母夫婦と話をした。
翌朝、私を迎えに王家の馬車がおじい様の家の前に着いた。
馬車に乗り込んだ私は、おじい様たちが見えなくなるまで手を振り続けていた。
その日、私とクレイン王太子殿下の結婚が、正式に国王様に承認されたのである。
「大丈夫よ、おじい様。すてきよ」
朝から何度もリブートは、マーレットに身なりの確認をしている。
「お父さん、朝から何回同じことを聞いてるの。マーレットも忙しいのよ」
伯母が、ニコニコしながら言っている。
「今日、私の大事な孫の婿殿が来るのだからな。失礼があってはいけないだろう」
「なあ、私は変じゃないか?」
伯母に向かって、部屋の向こうから声がする。
「あらあら、こっちにもいたみたいだわ。大丈夫よ、あなた」
伯母は、私に「困ったわねぇ」と口を動かした。
そろそろ、王太子殿下たちが訪ねてくる頃である。
玄関の扉が数回叩かれた。
おじい様が、一番に婿の顔を見ると言って扉を開けに行く。
「久し振りね、リブート」
扉の向こうには、正装に身を包んだ王妃様が立っていた。
「これは、王妃様、お久しゅうございます。申し訳ないのですが、今日は大切なお客様が参られる予定でして」
「あら、私より大切なお客様がいるの?」
王妃様は、イタズラな笑顔を浮かべている。
「あなたが、待ちわびているのは、この子よ」
王妃様の後ろから、正装をしたクレイン王太子殿下が現れる。
「今日はお招き頂き、ありがとございます。マーレットとの結婚を許して頂きたく、ご挨拶に参りました」
王太子殿下は、丁重におじい様に挨拶を行った。
おじい様は、腰が抜けた様にその場に座り込んでしまった。
奥から出てきた伯母夫婦も、互いに支え合い、かろうじて立っている。
「驚かせて申し訳なかったわ、リブート。私が、マーレットに内緒にするように頼んだのよ。だから、マーレットを責めないでね」
王妃様は、おじい様の腕を抱えて立ち上がらせた。
「まさか、クレインが選んだのが、リブートの孫だなんて、私も驚いたわ」
先ほどから、王妃様は随分おじい様と久しげに話をしている。
「おじい様、王妃様とはお知り合いなのですか?」
私の質問に、おじい様は目を細めて答える。
「このじゃじゃ馬っ娘はな、昔私の元で剣を学んでいたんじゃ。それがいまじゃ、王妃様じゃからの、世の中は分からんもんじゃ」
「リブート、あなたの孫もこのままいけば、王妃になるのよ」
「あ、あの、……中に、ささやかですが」
言い掛けた伯母に、おじい様が話を遮る。
「王妃様と王太子殿下に、あのようなものを食べさせる訳にはいかんだろう」
伯母は、少し寂しそうな顔をした。
伯母は、私の婿となる男性に自分の料理を食べさせたいと前から言っていたのだ。
「朝から何も食べてないので、良かったらご馳走してくれませんか、お義母様」
私は、王太子殿下の優しさに感謝した。
「お義母さん、盛り付けをしましょう」
私は、伯母と台所へと向かった。
おじい様が、王妃様と王太子殿下を部屋へと案内した。
私たちは、伯母の料理を囲んで話をした。
おじい様は、泣いたり、笑ったり、忙しそうだったが、何度も私に「良かった、良かった」と言ってくれた。
伯母夫婦も、我が娘のように私たちを祝福してくれた。
王太子殿下たちが帰った後、おじい様から「本当に良かったのか?」と聞かれたが、私は「はい」と答えた。
「幸せにおなり」
おじい様は、そう言って私を優しく抱きしめてくれた。
私は、しばらくこの家には帰れなくなるだろう。
その夜は、夜遅くまでおじい様や伯母夫婦と話をした。
翌朝、私を迎えに王家の馬車がおじい様の家の前に着いた。
馬車に乗り込んだ私は、おじい様たちが見えなくなるまで手を振り続けていた。
その日、私とクレイン王太子殿下の結婚が、正式に国王様に承認されたのである。
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