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第五章 『ゆらり揺れるタチアオイ』
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しおりを挟むファミレスで時間を潰すことになって、八重樫と長谷部と三人で向かう。
真夏の暑い日差しが、容赦なく俺達を照らしつける。
「長谷部、暑くないの?」
「だって、妬けたくないし」
セーラー服の下にアームカバーをつけている長谷部は、早く中へ入ろう、と急ぎ足に向かった。
ようやく中に入ると、学生のような若者でいっぱい。そうか、ここは高校の近くでもあるからか。
時間が中半端で、ドリンクバーだけを注文して、グダグダ適当に過ごす。
割とお喋りな八重樫と、まぁまぁ喋る長谷部が話をし、俺は聞きながら暇つぶしに携帯を弄る。
すると、八重樫から痛い所を付かれてしまった。
「梓は、好きな人の前では饒舌になるのに、いなくなったら無口だな」
「悪い、そういうつもりじゃ」
「いや、いいんだけど。単純で面白いなと思ってね」
見透かされたようで恥ずかしくなっていると、前に座っている長谷部とバッチリ目が合った。
「私、この間から思ってたんだけれど……嶌君ってやっぱり好きな人いるの?」
隠しているわけではなかったが、長谷部は知らなかったらしい。
公園で抱き合ってただの、何だの、一時はクラスで噂になっていたようだが。
「昨日、リハーサル後に、他校の子に好きな人いるって言ってるの聞いて。少し前の噂は信じてなかったけれど、やっぱり、いたんだ」
「うん、いるけど」
「長谷部さん、梓の態度見てて分からない?」
考えるが、中々名前が出てこない長谷部は、不安げに俺を見てくる。
「千歳先輩? 同じパートだし」
「さぁ、誰でしょう」
「部長? それとも、クラスの子?」
「誰かな誰かな」
完全に面白がっている八重樫に、俺はジュースを注ぎに席を立つ。
すると、前に屯している小学生達が、色んな味のジュースを混ぜて、喜んでいる。
全部入れて、緑色になった液体を、ゴクゴク飲んではしゃぐ子供達。あぁ、俺も小さい時、ふざけてやったことあったな。
いずれ店員に注意されるのだろうが、それまで待つのもあれだし、とジュースは諦めて、珍しくアイスティーを注いで席に戻ると、長谷部の驚いた顔が俺を待っていた。
「嶌君、雅先輩って、本当……?」
「ホントだけど」
「雅先輩は知ってるの?」
「うん、告った。けど、振られた」
別にかまわないと思っていたが、振られ話はやはり自ら言うと、悲しくなる。
「でも、諦めてないから」
「雅先輩とは思わなかった。だって、確か彼氏がいるって……」
そこは知っていたのか。
「うん、いるよ。けど、もう一回告白するつもり」
我ながら諦め悪いな、と思う部分もあるが、前に比べると段々笑顔の回数が増えてきた環菜先輩を、毎日こんな近くで見ていたら、諦めきれない。
「雅先輩のことが好きなんだ。そっか」
悲しげな瞳で呟く長谷部には何も言わずに、また携帯を見ていると、八重樫が耳打ちをしてきた。
「長谷部さん、梓のこと好きっぽい感じだな」
「ん、何となく分かってた」
「お前、どんだけモテるんだよ。羨ましい」
キーっと言って足を踏んできた八重樫を、俺はギロリと睨みつけた。
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